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米SVB、シグネチャー銀行の破綻…「預金全額補償」の負担は間接的に預金者に跳ね返る!?

Finasee / 2023年4月24日 11時0分

米SVB、シグネチャー銀行の破綻…「預金全額補償」の負担は間接的に預金者に跳ね返る!?

Finasee(フィナシー)

2023年3月に、Silicon Valley BankとSignature Bankが破綻しました。

アメリカでは金融機関が破綻した場合に、預金者や投資家を守るための保険機構があります。

一つはFDIC(米国連邦預金保険公社)で、銀行が破綻したときに預金者の預金を守るものです。一機関につき一人あたり$250,000(約3,280万円)まで守られます。アメリカでは銀行口座を夫婦の共同名義(ジョイント口座)にすることも多く、その場合は2倍の$500,000(約6,570万円)まで守られます。

もう一つの保険機関はSPIC(証券投資者保護公社)で、こちらは証券投資者の資産を守ります。金融機関が破綻したときの投資資産を一機関につき一人あたり$500,000(約6,570万円)までを補償します。これは、破綻のときの補償であって、当然ながら投資リスクによる元金割れなどはカバーしません。

今回破綻したSilicon Valley BankとSignature Bankはどちらも銀行だったので、前者のFDICの範疇です。

アメリカでは、そもそも$250,000もの大金を銀行に持っている人は多くはありません。まず、お金があまりない人々なら、そもそも銀行にお金が貯まりません。また、お金がある人々なら、当面必要な額を預金にキープし、あとはさっさと投資に回します。なので、$250,000もの現金を銀行に眠らしている人は多くはないのです。

そんなわけで、銀行の破綻やその連鎖反応で“精神的”に不安を感じる人はいましたが、実際「お金を動かさなくては」と慌てた人はそれほど多くなかったように感じます。

システミック・リスク懸念から「預金全額補償」は妥当なのか

個人のお金を心配する向きはそれほどなかったものの、余波を心配するニュースはありました。

結局、$250,000以上の預金をしているのは企業であり、企業の資金難で給料や企業間での支払いなどが滞るのでは、とも言われました。

米財務省・米連邦準備制度理事会(FRB)・FDICの協議の末、両銀行の預金は$250,000の限度を超えて全額補償することが発表されましたが、これは今まで例のないことです。

限度額を超えての全額補償に踏み切った理由は「システミック・リスク」です。システミック・リスクとは、個別の金融機関の支払不能等や、特定の市場または決済システム等の機能不全が、他の金融機関、他の市場、または金融システム全体に波及するリスクのことです。これらの銀行破綻が連鎖を生んで、2008年のような金融恐慌に広がるリスクを危惧したのでしょう。

ただ、この判断に同意をしない人々も多く、本当にシステミック・リスクがあったのか、あったとしても規模はどのくらいなのかについて疑問視する向きもあるようです。Silicon Valley Bankの資産高は$209ビリオン、Signature Bankは$100ビリオンと言われています。メガバンクのトップの資産高は数トリリオンレベルであることと比べれば、両行が業界にシステミックな波紋を起こすほどかについては意見が分かれるところでしょう。

しかも、このような全額補償という前例を作れば、今後の銀行破綻のときにも同様に全額補償が期待されることにもなります。

そもそも$250,000という補償リミットは、「各自、銀行の健全性に注意して、金融機関を吟味する」という預金者責任も促すもののはずだと思います。

ファイナンシャルプラニングをご利用いただくお客様で、家を売ったので一時的に大きな現金があるが、それを当面どう預けたらよいかというご質問をいただくことがあります。そんな場合、「金融機関の破綻」というようなことはあまりないけれど、もしものことを考えて、この$250,000の補償の範囲内で口座を分けたり、金融機関を分散して提案をします。個人レベルでこんなふうに注意を払っているのに、大口の企業顧客は全額保証にあぐらをかくのは問題だと思います。

今回の全額補償額は、FDICの基金から支払われます。Silicon Valley Bankの預金補償で$20ビリオン、Signature Bankのそれには$2.5ビリオンが必要だと予測されています。この多くの部分が、$250,000のリミットを超えた部分、本来なら補償されるはずでなかった部分にあたると見られています。

「破綻を起こした者の責任を追及する」とバイデン大統領は言うが…

バイデン大統領は、この破綻を起こした者の責任を追及すると約束しました。「このFDICからの補償額について、アメリカの納税者がかぶるということは決してない」と米政府はたびたび強調しています。リスク管理が十分でなかった経営陣の責任はきちっと追及してもらいたいものです。

具体的にどう責任追及がなされるかは現時点ではわかりませんが、とりあえず$22.5ビリオンがFDICの基金から支払われ、この穴はFDICのメンバー銀行が埋めることになると思われます。

FDICのメンバー銀行は定期的に課されるFDIC保険料を納め、これがFDCIの基金としてプールされています。また、このプールされる基金の目安(業界全体の預金額に対する一定パーセンテージ)が決められていて、昨今ではそもそもこの基準額を下回っていたことが問題視されている状態でした。そこでさらに今回の破綻による大きな補償で、基準額への開きが大きくなります。

そんなわけで、今後メンバー銀行が納める保険料が増額されると予想されています。そうなると、その増コスト分は、顧客に還元される利子の削減とか、銀行手数料の増額という形で一般預金者に跳ね返ってくる可能性が高いのです。

ちなみに、アメリカの銀行には実にさまざまな手数料が設定されています。この点だけでも一つの記事になってしまいそうなくらいです。

日本ではATM手数料や時間外手数料、振り込み手数料などがあるようですが、これらに加えアメリカでは、口座の残高が一定以下になると課される月額メンテナンス手数料とか、デビットカードや小切手などで使い過ぎて銀行残高がマイナスになると課されるオーバードラフト手数料、ペーパーでの銀行明細を希望したときの明細発行料金、一定期間以上口座の中でお金の出し入れがなかった時のドーマンシー(眠っているという意味)口座料金、定期口座でお金の出し入れが多すぎた時の超過アクティビティ料金、口座を開いて一定期間(通常3から6か月)キープしなかったときの早期口座閉鎖料金などなど、ありとあらゆる手数料があります。それぞれ数十ドル(数千円)レベルでかかります。預金もうまく管理しないとかなり高くつくことになるのです。

一般市民の税金が使われないと聞くと安心ですが、でも銀行の手数料がこれ以上上がるのも困りものです。繰り返しにはなってしまいますが、リスク管理を怠った経営陣の責任をきちんと追及してもらいたいと願うばかりです。

 

岩崎 淳子/ファイナンシャルプランナー

「Smart & Responsible」代表。 マーケティング戦略やアナリスト業務を経験した後、2000年に夫の転職を機に米バージニア州へ移住。子育てをしながら米国公認会計士、パーソナル・ファイナンシャル・スぺシャリトに合格。日本と全く異なるアメリカのシステムに戸惑った経験をベースに、個人向けファイナンシャルプラニングの情報提供サイトを立ち上げる。大金持ちでないからこそのプラニング・バランスのとれた家計システム・人任せにせず自分で考える姿勢をモットーにプラニングサービスを提供中。聖書をこよなく愛するクリスチャン。現在は米カリフォルニア州在住。著書に『お金が勝手に貯まってしまう 最高の家計』(ダイヤモンド社)。

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