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2023年度「公的年金支給額はプラス2.2%」というけれど…生活は“さして上向かない”理由

Finasee / 2023年5月2日 11時0分

2023年度「公的年金支給額はプラス2.2%」というけれど…生活は“さして上向かない”理由

Finasee(フィナシー)

2023年度の公的年金の額は、2022年度より上がることになりました。

2023年度に67歳以下の人(1956年4月2日以降生まれ)は新規裁定者として+2.2%、68歳以上の人(1956年4月1日以前生まれ)は既裁定者として前年度+1.9%となりました。

2.2%アップという数字だけを見れば、なかには「増えた!」と嬉しく思う方もいるでしょう。しかし、実際には昨今の物価高を“カバー”するようなアップ率ではありません。

年金額はどのようなルールで決まるのでしょうか?

物価基準か?賃金基準か?年金額改定のルール

本来、新規裁定者は「名目手取り賃金変動率」を基準に、既裁定者は「物価変動率」を基準にそれぞれ改定されることになっています。「67歳以下は賃金」、「68歳以上は物価」と年齢によって年金額が異なるということです。

名目手取り賃金変動率は「2年度前~4年度前の3年度平均の実質賃金変動率+物価変動率+可処分所得割合変化率」で算出され、物価変動率は「前年の全国消費者物価指数の変動率」を指しています。つまり、毎年度、過去の統計数値が年金額改定に反映されます。

ただ、2022年度まで年金額が67歳以下と68歳以上で分かれる、ということはなかったでしょう。名目手取り賃金変動率が物価変動率を下回っている場合は、新規裁定者も既裁定者も同じ基準で改定されるルール※1となり、実際2022年度までは賃金が物価を下回っていたため、新規裁定者も既裁定者も同じ額、計算方法でした。

しかし、今回2023年度の年金額改定にあたって、名目手取り賃金変動率が+2.8%、物価変動率が+2.5%と、賃金が物価を上回っているため、新規裁定者と既裁定者で異なる改定が行われたのでした。

※1 ①物価がプラスで賃金がマイナスの場合、②賃金、物価いずれもマイナスで賃金のマイナスがより大きい場合、①②とも賃金の数値を基準に改定します(2021年度以降)。

年金の給付を抑制する「マクロ経済スライド」の存在が…

ただし、新規裁定者も既裁定者も、それぞれ名目手取り賃金変動率、物価変動率の数値をそのまま改定に使うかというと、そうではありません。

年金制度を将来に向け持続可能なものとするため、被保険者数や平均余命の伸びを勘案した「マクロ経済スライド」によって調整されるためです。

マクロ経済スライドについては過去記事(年金の誤解を斬る!第3回 「年金は破綻する」と嘆く人は知らない―年金を“持続可能”にする驚きのカラクリ)でも取り上げていますが、物価や賃金の伸びがあっても、スライド調整率によって給付を抑制させる仕組みです。

スライド調整率は、具体的には「公的年金被保険者総数の変動率+平均余命の伸び率」で算出されます。その年の年金額の改定において、マクロ経済スライド適用する前にすでにマイナス改定となる場合は、そこからさらにスライド調整率による調整はありません。ただし、2018年度以降は、未調整となったままのスライド調整率が翌年度以降に繰り越されて調整されるルールがあります(キャリーオーバー制度)。

実際の2023年度のスライド調整率は、公的年金被保険者総数の変動率が±0%、平均余命の伸び率-0.3%(定率)を反映した結果、-0.3%となっています。2023年度の年金額改定において、新規裁定者も既裁定者も、まずこの-0.3%分が調整されます。

そして、これだけでなく、2021年度と2022年度に未調整だったため繰り越されていた調整率が2021年度分は-0.1%、2022年度分は-0.2%あるため、新規裁定者も既裁定者も未調整分の合計-0.3%がさらに調整されます。

その結果、2023年度の年金額については、マクロ経済スライドによって合計-0.6%分調整されます。

簡略化した計算式でまとめますと、

新規裁定者:+2.8%(名目手取り賃金変動率)-0.6%=+2.2%
既裁定者:+2.5%(物価変動率)-0.6%=+1.9%

となり、2023年度のアップ率が算出されたのです。

年金の給付額とは、物価や現役世代の賃金状況を“ある程度”は反映してもらえるものの、実際の物価の上昇に対して、“追い付いてはいない”仕組みがご理解いただけると思います。よくメディアなどで「実質目減り」という表現を使いますが、まさにこのことを言っています。

公的年金は老後生活の“基盤”だが、私的年金も重要

ここまで、2023年度の年金額から、マクロ経済スライドによる給付の抑制を見てきました。

おそらく、マクロ経済スライドによる給付の抑制は当分続くでしょう。少子高齢化が進み、現役世代の保険料負担が重くならないようにするためには必要な策だからです。

ただ、だからといって「年金なんてアテにならないんだ!」と言うのも早計です。公的年金は終身で受給できることが強みとなっていますので、「長生きリスク」に備える強みはやはり大きいです。

また、物価や賃金など経済状況に応じて年金額を見直すことには変わりなく、インフレになってもその分がまったくそのまま目減りすることにはなりません。この基本的な仕組みを理解しておくことがポイントになります。

もっとも、老後の生活において、公的年金収入だけでは足りないのも現実です。自助努力も必要となっています。

日本は高齢期でも働ける時は働きたいと考える人も多く、事業主には、65歳までの雇用機会確保が義務化され、70歳までの就業機会確保も努力義務化されています。定年後、たとえフルタイム勤務は難しくても、今後拡大することが予想される高齢期の働く機会を活かし、働くことも必要となってくるでしょう。また、近年、公的年金の改正に合わせて私的年金も改正され、企業型確定拠出年金や個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入できる年齢も長くなり、こうした私的年金を増やす機会も増えつつあります。

「人生100年時代」において、公的年金を受給するまでは自助努力でカバーし、長生きしても終身で受けられる公的年金は繰下げ受給で増額させることも検討に値するでしょう。

井内 義典/ファイナンシャルプランナー

よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員。専門分野は公的年金で、3000件を超える年金相談業務を経験。さらに、年金事務担当者・FP向けの教育研修、ウェブメディアや専門誌への記事執筆も行っている。横浜市を中心に首都圏で活動中。

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