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ついに解禁された「賃金のデジタル払い」—“便利さ”の裏にある懸念点とは

Finasee / 2023年4月25日 11時0分

ついに解禁された「賃金のデジタル払い」—“便利さ”の裏にある懸念点とは

Finasee(フィナシー)

改正労働基準法にもとづき、2023年4月からついに賃金のデジタル払いが解禁された。これは「〇〇Pay」をはじめとした、キャッシュレス決済の社会的な浸透に伴う動きだ。

「支払いでの利便性が増す」といった期待の声があがる一方、利用者の資産保護などの観点から、運用には慎重な意見もみられる。そこで今回は、労働者・使用者が知っておきたい基本的なルールやメリット・デメリットを解説する。

PayPayなど「キャッシュレス決済」大手が続々と参入表明

賃金のデジタル払いとは、使用者から労働者に対する賃金を、スマートフォンの決済アプリや電子マネーなどのアカウントを通じて支払う行為を指す。

これまで賃金は現金払いを原則とし、労働者が合意した場合に限り銀行口座・証券総合口座などへの振り込みが可能だった。しかし近年では、様々なキャッシュレス決済や送金サービスが誕生し、徐々に普及してきている。

こうした社会情勢を考え、労働者・使用者の新たな選択肢とするために、賃金のデジタル払いも認められたわけだ。

解禁日は2023年4月1日だが、この日から労働者・使用者が活用できるわけではない。厳密に言えば、解禁日以降からキャッシュレス決済の運営事業者が厚生労働大臣に対して、賃金の支払い先となるための「指定申請」を行えるようになるのだ。

申請後、厚生労働省がキャッシュレス決済の運営事業者に対して審査を行い、基準を満たしている場合に許可を出す。この手続きには数カ月を要するとみられ、賃金のデジタル払いが事実上開始されるのは早くて2023年の夏ごろとなる見通しだ。

すでに指定申請を完了、あるいは申請を検討している大手決済サービス(運営企業の親会社)は4月14日時点で以下のとおり。

・PayPay(ソフトバンクグループ)
・楽天ペイ(楽天グループ)
・auPAY(KDDI)
・d払い(NTTドコモ)
・メルペイ(メルカリ)
・Airペイ(リクルートホールディングス)

こうした大手事業者の決済サービスは実店舗やショッピングサイトでの買い物に留まらず、近年では家賃や公共料金・税金の支払い、さらに投資信託の積立などにまで用途が広がってきている。デジタルにより受け取る賃金の活用シーンは、今後も増えていくと見込まれる。

賃金の受け取り上限額100万円に注意!

そんな賃金のデジタル払いについて、導入に当たっての基本的なルールを押さえておこう。

①導入に当たり、使用者と労働者の間で労使協定締結などの合意が必要

②導入事業所において、労働者は従来の賃金の受け取り方を継続可能。デジタル払いを希望していない人が強制されることはない

③キャッシュレス決済のアカウントなどで受け取れる賃金の上限額は100万円。
これを超えると労働者が指定した銀行口座などへ自動的に出金される

④デジタル払いと銀行振り込みの併用も可能

⑤デジタル払いによる賃金の残高は、最低月1回は手数料無料で払い出し(現金 化)可能。払い出し期限は、最後の入出金後少なくとも10年間と定められている

⑥現金化できないポイントや仮想通貨での支払いは認められない

以上のルールを押さえたうえで、労働者目線で見たメリットとは一体何なのだろうか。第一に考えられるのが、キャッシュレス決済と連携したサービスを賃金からスムーズに利用できる点だ。

今までキャッシュレス決済を利用する場合は、現金や賃金を受け取る銀行口座などから「〇〇Pay」などのサービスへ資金移動する必要があった。しかし、キャッシュレス決済のアカウントに賃金が直接振り込まれれば、こうした手間が省ける。

加えて、銀行口座を保有していない労働者にとってはより簡単に賃金を受け取れる手段となる。例えばアルバイトとして勤務する学生や、外国人労働者が恩恵を受けられるケースがあるだろう。

一方で注意すべきポイントは、③に挙げた上限額100万円だ。賃金の振込先となるキャッシュレス決済のアカウントは、高額な賃金の振り込みや貯蓄のための口座には適さないといえる。

また、キャッシュレス決済や電子マネーなどに限った話ではないが、他人からの不正アクセス(ハッキング)やスマートフォンの盗難などにより、資金流出などの被害を受けるリスクがある。さらに、キャッシュレス決済を運営する事業者が経営破綻し、残高が失われてしまう可能性も考えられる。

ただし、経営破綻に関しては、4〜6営業日以内に全額払い出しが保証されるようにルール化されている。それでも破綻した事業者の保全額が不足したり、払い戻しに時間がかかってしまったりする可能性もゼロではないので注意したい。

使用者は振り込みコスト削減の効果に期待

使用者から見た、メリット・デメリットにも触れておこう。

現在多くの事業所では銀行口座へ賃金の支給が行われている。勤務している労働者の人数が多かったり、それぞれが振込先に指定する銀行口座の種類が多岐にわたったりすると、使用者が負担する振り込み手数料が高くなってしまう場合がある。

こうした銀行振り込みと比べて、キャッシュレス決済などアカウントへの送金は、手数料が低いケースが多い。使用者にとっては賃金を支払う際のコストを削減できるかもしれないのは、大きな利点といえる。

また、賃金のデジタル払いを認めることは、社会のニーズへの対応や多様な働き方を認める姿勢の提示にもつながる。結果的に、社員のエンゲージメントを高めたり、採用面でプラスに働いたりする可能性があるだろう。

一方のデメリットだが、労使による合意形成の手間や経理担当者のオペレーションコスト、新たな支払いシステムの整備費用といった負担の増加が考えられる。

また、賃金の一部をデジタル払い、残りを銀行口座への振り込みとする労働者がいた場合、単純に支払い業務が1工程増加することになる。経理部門などで、こうした支払い方法の多様化に対応したワークフローを作成する必要があるとみられる。

活用メリットは今後ますます拡大する可能性も

このようにメリットだけでなく、運用にあたっていくつかの課題も考えられる賃金のデジタル払い。とくに残高の上限100万円という制約の影響は大きいとみられ、賃金の支給方法として現在主流の銀行振り込みから急速に置き換わっていくとは考えにくいだろう。

活用が進みやすいといえるのが、前述した学生アルバイトや外国人労働者への賃金支払い。また、比較的少額の報酬を多くのギグワーカー(インターネットで単発の仕事を受託する労働者)に支払う企業などにも、導入の余地はあるといえる。

賃金のデジタル払いを可能にした今回の法改正は、国がキャッシュレス決済を重要な社会インフラとしてさらに活用推進していきたいという意欲を示している。今後国策として、メリットの拡充や制約の一部撤廃を行う可能性も十分に考えられる。

また、キャッシュレス決済の運営事業者にとっても、賃金のデジタル払いによって労働者の資金が自社サービスに流入しやすくなるのは大きなメリットだ。今後、賃金の振り込み先とするユーザーをさらに増やしていくため、各事業者は独自のインセンティブキャンペーンを打ち出していく可能性は高い。

労働者・使用者はともに、こうした国や決済事業者の動向を注視し、導入の妥当性やタイミングを見極めて行く必要があるだろう。

藤田 陽司/ライター・編集者

各種金融系情報誌の編集・執筆業務を行うペロンパワークス・プロダクション所属。株・投資信託、暗号資産、年金などの編集・執筆を担当。不動産メディアの取材記事の企画・コンテンツ制作にも携わる。地方整備局公務員、業界新聞編集記者などを経て入社。建設関連の記事執筆や編集業務の経験を持つ。AFP/2級ファイナンシャル・プランニング技能士。

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