不動産鑑定士が警告する「やってはいけない」マンション投資とは?
Finasee / 2023年4月27日 11時0分
Finasee(フィナシー)
投資用、居住用を問わず不動産に関するトラブルは後を絶ちません。この連載では、不動産にまつわる数々の相談に乗ってきた不動産鑑定士の福田伸二さんが、皆さんの「不動産リテラシー向上」に役立つ情報を事例と共にお届けしていきます。今回は、ワンルームマンション投資のリスクについてご紹介します。
*** 損切りをおすすめするケースもある前編【外資系エリートもパワーカップルも陥る…「ワンルームマンション投資」の落とし穴】では、高い価格で投資用のワンルームマンションを購入した場合、もうかるどころか、マイナスのキャッシュフローが発生することをご説明しました。年間のキャッシュフローのマイナスが大きすぎる場合など、どこかのタイミングで損切りした方がお客様のためになると判断した場合には、売却をおすすめするケースもあります。
投資用のワンルームマンション業者からは、「生涯持ち続けてインカムを得てください」とセールスされます。ここがワンルームマンション投資の怖いところですが、物件をお持ちになっている方も、毎年キャッシュアウトをしている額が20万円ほどであれば、それ以上の痛みは感じません。いざ売却を検討する時に初めて大きなマイナスに気づくわけです。
前回も損益分岐点についてお話しましたが、2800万円でワンルームマンションを購入した場合の損益分岐点は相当高くなります。
2800万円で物件購入した時のキャッシュフローと想定される物件価格
※画像をクリックで拡大
現在の過熱感のあるマーケットのはるか上に損益分岐点がある厳しい状況ではありますが、返済は進んでいくので、不動産サイクルの波を上手く捉えればマイナスが少なくなる時期が必ずやってきます。借入額をある程度上回れば、新たに手元から支出することなく売却が出来るため、上記のような資料をお見せして「ここまで待ちましょうか」と、アドバイスをすることもあります。
ただ、マンションの場合はおおむね15年ごとに大規模修繕が入りますので、いずれにしても長く持ち続けることはリスクなのです。また、返済の終わる35年までには、エレベーターの取り換え工事や外壁の塗り直し、配管施設の交換など、必ず大きな改修が必要になります。35年間利益が出ずに、手元に残ったのは改修が必要な古い物件だけ、という可能性が十分にありえます。
前編でご紹介した成功パターンもそうですが、高い時に売っているから利益が出るのです。不動産投資が成功するかどうかは、いつ売るかによります。もちろん、月々の家賃収入というインカムゲインもありますが、前編でご紹介した成功パターンでさえ年間9~10万円程度です。そして近年ワンルームマンションを購入されている方のほとんどがキャッシュフローはマイナスです。私がご相談を受けたワンルームマンション投資で、キャッシュフローがマイナスなのに儲かっている方はほとんどいらっしゃいません。
計算式を下回る物件には要注意!もちろん、最初からマイナスを出さないことがベストですよね。それでは、どうすればよいのでしょうか。今すでに物件を持っていらっしゃる方も、今後購入を検討される方も、まずチェックしていただきたいのが、以下の計算式です。
かなり簡易的な計算なのですが、ご自分のワンルームマンションの健康診断だと思って試してみてください。サブリース契約※がない場合は空室やそれに伴うコストがかかる可能性がありますから、そのリスク分が計上されています。これからワンルームマンション投資を検討される方は、この計算式で0以下になる物件を購入することは避けた方が賢明です。
※サブリース契約=不動産管理会社に手数料を払って物件を一括管理してもらうことで、家賃滞納や空室のリスクを抑える契約
すでに所有している方も、この式でプラスになっていない投資ならば、勝てる可能性は高くはないと考えるべきです。どこかで早めに出口=売却を考えなければいけません。それが今なのか、少し返済が進んだ2、3年後なのか、あるいはもう少しがんばって10年後なのかは、その方の状況によって違います。そこはローン条件や、不動産サイクルを予測しつつ検討することになります。
これからワンルームマンション投資を始めようとされている方は、上記の計算式でプラスになっていないマンション投資には慎重になっていただきたいと思っています。
「じゃあ、どうすればいいんだ!」と激怒する人も…すでに複数戸、マイナスキャッシュフローのマンションを所有されている方が相談に来られた場合は、1件1件を詳細に数字で分析し、継続保有すべきか売却を検討すべきかを一緒に考えていきます。「この物件はあと1年経てば、解約した時の金融機関への手数料は少なくなります」「キャッシュフローのマイナスが多いので、この物件を最初に処理するほうがよいですね」など、専門家としての意見はお客様にお伝えするようにしています。
お客様が今までお聞きになってきた景気の良い話と、全く真逆なお話をすることもあります。「お聞き苦しいところもあるかもしれません」とお断りして分析をするのですが、やはりお怒りになる方もいらっしゃいます。
ただ、ほとんどの方は問題意識を持ってご相談に来られます。「やはり、そうだったのか」とおっしゃる方が多いですね。我々が大切にしているのは、お客様の20年後30年後です。不動産投資を検討されている方は、不動産投資一択になる傾向がありますが、金融商品や積立投資も含め様々な資産運用の可能性をお伝えし、20年、30年先の未来に備えるための情報提供をさせていただいています。
怖いのは、キャッシュフローがプラスにならない物件で35年のローンを組んだら、35年間マイナス投資が確定してしまうことです。そして、そのマイナスは埋まりません。しかも物件が古くなり、賃料が下がれば下がるほど、マイナスが広がって穴が大きくなっていくのです。
逆に言えばキャッシュフローさえプラスになっていれば、持ち続けていいのです。不動産投資の一丁目一番地は、キャッシュフローがプラスかマイナスかです。繰り返しになりますが、決して私はワンルームマンション投資を否定しているわけではありません。ただ、「もうかる投資」と「もうからない投資」があり、それは購入する時にほとんど答えが出ています。ワンルームマンション投資は、手元のお金をあまり出さずに始められるため、取り組みやすい投資です。将来に不安があるからこそ、将来のことを考えているからこそ、検討される方が多いのも事実です。ただ、ローン返済後の35年後のマンションを過大評価してしまっている方があまりにも多いのが現状です。
今回は厳しいお話が多かったかもしれませんが、ぜひこれからの10年後、20年後を考えて、不動産投資を考えていただきたいと思います。
福田 伸二/不動産鑑定士
POLUSグループを経て、大和不動産鑑定株式会社に入社し、東京本社鑑定部課長、鑑定証券化部次長を最後に退社。その後、売買仲介・コンサルティング業務に従事し、J-REIT上場のアドバンス・レジデンス投資法人の運用会社で外部委員も務める。毎年100件以上にわたる収益物件の鑑定評価書の発行や、東京都税事務所のアドバイザーとして相続税路線価のアドバイス業務に従事。2020年にファイナンシャルスタンダード入社。
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