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放置しないで手続きを! 企業型確定拠出年金の資産移換

Finasee / 2023年4月28日 11時0分

放置しないで手続きを! 企業型確定拠出年金の資産移換

Finasee(フィナシー)

NISA、iDeCoが若年層にも定着

多くの企業で新入社員を迎える季節となりました。

2020年から続いた新型コロナ対策が一区切りとなり、4年ぶりに新入社員の集合研修を実施される企業も出てきました。加えて開催方法も、昨年度までのオンライン開催から、集合研修へと梶を切られているようです。同時に、運営管理機関として、企業型DCについての説明を委託される機会も増えました。

久しぶりの集合研修での説明会、いくつかの変化を感じる場面がありました。
新入社員にDCを説明する際、「投資をしたことがありますか?」と質問することから始めますが、今年度は挙手する人が以前より多い印象を受けました。また、投資先も従来とは異なっていました。「NISA」という回答がほぼ全員の企業もありました。

興味深かったのは、「株式投資をしています」「国債を購入しました」「FX投資をしています」という回答ではなく、「NISAをやっています」という回答だったことです。よく聞いてみると、各種SNS等で話題の投資信託名が上がってきました。つまり、「つみたてNISA」を実施していることがわかりました。

NISAスタート時には、以前から株式投資をしていた人が利用する傾向が高く、裾野の広がりが課題だったかと記憶していますが、「つみたてNISA」が一般化し、利用者が確実に広がりつつあることを感じました。

制度を活用しやすくして、誰もが安心して使えるという「器を整えることからのスタート」がうまく機能した例といえるでしょう。

また、iDeCoの浸透を感じる場面もありました。新卒採用の新入社員から「iDeCoをやっていますが、何か手続きが必要ですか?」という質問が出ました。コロナ以前からは、考えられない変化です。

転職時に気をつけたいDCのポータビリティ(資産移換)

器を整える、ということから考えると、定着にかなり時間のかかった項目があります。DCのポータビリティ(資産移換)です。2000年代の初頭は、DCの資産移換を行う人はほとんどいませんでした。それが、ここ数年でかなり一般化してきましたが、同時に課題もあるようです。

DCのポータビリティ(資産移換)について、実務を振り返ってみましょう。

Aさんの事例
前職S社:2022年6月30日に退職(企業型DCに加入)
転職先N社:2023年1月1日に入社(企業型DCに加入)

【加入者本人の手続き】
Aさんには、いくつかの選択肢があります。
1)S社を退職後にiDeCoに資産移換する
→①iDeCoの加入者になる
→②iDeCoの運用指図者になる
2)S社を退職後に企業型DCの資産はN社に入社するまで手続きをしない

それぞれのケースを見ていきます。

1)S社を退職後にiDeCoに資産移換する
Aさんは、まずiDeCoの受付金融機関を選択する必要があります。S社の退職前に1カ月ほど有給休暇を取得できたので、6月中にWEBサイトでiDeCoの受付金融機関を検索できました。ただ、2022年6月時点では、まだS社の加入者資格は続いていたので、資産移換はできません。

〈7月の初旬〉
記録関連運営管理機関から封書「確定拠出年金 加入者資格喪失手続完了通知書」が届き、手続きができるようになります。
企業型DCのある企業を60歳よりも前に退職する際には、iDeCoの①加入者になるのか、②資産移換のみで運用指図者になるのか、の判断に迷います。
将来の状況がわからないので、②の運用指図者を選択しがちですが、当面の生活費に困らない程度の余裕があるのであれば、①加入者もぜひ検討してみましょう。国民年金の第一号被保険者であれば、iDeCoの拠出上限額は1月あたり68,000円です。住民税は前年の収入に対して課税されますが、iDeCoに掛金拠出することで翌年の住民税の軽減が可能、というメリットがあるためです。
なお、N社への入社が2023年なので年末調整をしてくれる企業がないため、Aさんは2023年の2月16日から3月15日の間に確定申告による税金の手続きが必要です。

〈2023年1月〉
N社に入社後は、iDeCoの資産を移換するかしないか、が選択できます。また、N社の企業型DCの掛金額次第ですが、多くの場合、加入者として掛金拠出を続けることもできます。
2023年1月以前に掛金拠出をしていた場合は、会社員になることでiDeCoの掛金上限額がかわり、勤務先の登録も必要になるため、iDeCoの受付金融機関に連絡を取り、必要な書類を請求することになります。

2)S社を退職後に企業型DCの資産はN社に入社するまで手続きをしない
2)の場合は、「自動移換」が気になるところです。
N社の立場にある企業型DCの担当者から質問をいただくことの多い項目です。
Aさんの場合、資格喪失日は7月1日(退職日の翌日)です。そのため、資格喪失日の属する月の翌月から数えて6カ月が自動移換されない手続き期限となります。つまり、1月の入社後すぐにS社の企業型DC資産の移換手続きを行うことで、自動移換にならずに済むわけです。
Aさんが行う具体的な手続きは、「個人別管理資産移換依頼書」に必要事項を記載し、N社の担当者に提出することです。その際、7月の初旬に届いた「確定拠出年金 加入者資格喪失手続完了通知書」を手元に用意しておくと、必要事項をすべて記載することができます。

※DC資産の移換手続きに必要な情報
①企業名、②実施事業所登録番号(規約承認番号)、③記録関連運営管理機関の名称
①~③の情報は「確定拠出年金 加入者資格喪失手続完了通知書」に記載されています。

移換元企業担当者の注意点

S社のDC担当者は、Aさんの資格喪失手続きを早め(6月中)に実施しました。そのため、Aさんの「確定拠出年金 加入者資格喪失手続完了通知書」は、7月の初旬に届きました。加入者の資格喪失手続きは、将来の日付でも可能です。退職日が決定した時点で手続きをしておくと、「確定拠出年金 加入者資格喪失手続完了通知書」が届く時期(資格喪失日から1週間程度)をAさん本人にも伝えられるので、書類の紛失を防ぐことにもなります。

ただし、留意点もあります。資格喪失手続きが行われると、AさんはS社の企業型DC資産のスイッチングができなくなります。

移換先企業担当者の注意点

N社のDC担当者は、1)の場合は移換を希望するかどうかを確認し、2)の場合は移換手続きが必須となるため、「個人別管理資産移換依頼書」を渡して記載を促します。入社説明の際に「確定拠出年金 加入者資格喪失手続完了通知書」を持参してもらうと、説明時点で記載が終了するのでスムーズです。

「個人別管理資産移換依頼書」は、N社の担当部署から記録関連運営管理機関に提出します。仮にAさんの入社が2カ月遅く、自動移換になってしまっていても、「個人別管理資産移換依頼書」を提出することで、DC資産の移換手続きが可能です。

ポータビリティ(資産移換)の課題

資産移換は「個人別管理資産移換依頼書」を移換先企業から記録関連運営管理機関に提出することで終了しますが、用紙を郵送する必要があるため、時間がかかります。

一方で、自動移換を防止する仕組みとしての「自動移換前移換」や「自動移換後移換」については、何ら手続きをすることなく、資産が移ってきます。カナ氏名、生年月日、基礎年金番号などの情報が一致する必要がありますが、そうした方法が可能であるのならば、用紙による手続きではなくオンライン手続きなどの開発余地があるのではないでしょうか。

DC制度がスタートした当初は、銀行口座やクレジットカード等の作成に用紙を提出することが一般的でしたが、最近ではオンラインで出来ることが増えました。それに対して、移換は用紙の提出に限定されたままで、変化がないといえます。

確定給付企業年金(DB)があった場合は?

仮に前職S社で確定給付企業年金(DB)があった場合、AさんはDB資産をDCに移すことができます。その際、AさんはN社の企業型DC担当者から「厚生年金基金 確定給付企業年金移換申出書」をもらい、S社に提出します。提出期限はS社退職後の1年以内です。

S社はAさんから提出された「厚生年金基金 確定給付企業年金 移換申出書」の処理にかなりの手間がかかります。電話連絡や移換手続き書類の記録関連運営管理機関への郵送が必要となります。

最近では、DB資産のDCへの移換希望が増加傾向だと聞きました。一時金で受け取らずに移換すれば、運用益非課税での運用が可能になります。高齢期の資産形成を考えれば、ポータビリティは重要ですが、「器を整える」時期と定着時期に時間差が発生しているために、手続きがスムーズではないように思われます。

2024年12月には、DBの制度単位でDCの掛金上限額が変わってきます。制度改正に向けて、企業年金プラットフォームが整えられていると聞きます。ポータビリティを生かすためにも、プラットフォームとともに、手続き面の利便性を高める方向にシステムが改善されることが期待されます。
 

津田 弘美/野村證券株式会社 確定拠出年金部

社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。厚生年金基金の隆盛期から企業年金2法の成立等を取材。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。確定拠出年金の運営管理業務に10年以上にわたり従事し、投資教育の企画立案、事業主サポート等を担当。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。

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