「高いリスクを取るべきではない」60代からの資産運用に必要な助言
Finasee / 2023年4月20日 17時0分
Finasee(フィナシー)
高齢者の資産運用で留意しておくべきことには、どんなことがあるのでしょうか。年代とともに変化する「資産運用の狙い」について解説します。
20歳代~40歳代の資産運用の狙い金融機関でお客様の資産運用アドバイスに携わる人たちは、表向きは「お客様の資産をいかに増やすか」という点でアドバイスをしていると思います。
実際、銀行や証券会社の店頭では、ある投資信託の説明書をお客様に差し出し、「この投資信託は過去、とても高い運用パフォーマンスを上げています。ぜひともご検討ください」などと説明するアドバイザーが大勢います。また、マネー関連のコンテンツを見ても、いかに資産の総額を増やすかという点に重きを置いた内容が大半を占めています。
もちろん、これから資産を作る世代である資産形成層にとっては、その方がよいでしょう。資産形成層にあたる20歳代から40歳代くらいまでは何かと物入りです。また、さまざまなライフイベントに必要なお金を準備しつつ、自分自身の老後に向けた資産形成も進める必要があります。
金融広報中央委員会が毎年行っている「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯)」(令和4年調査結果)によると、20歳代から40歳代で金融資産を保有している人の比率は、次の通りでした。
<20歳代から40歳代で金融資産を保有している人の比率>
20歳代・・・・・・64.3%
30歳代・・・・・・76.1%
40歳代・・・・・・73.9%
出所:金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯)」(令和4年調査結果)
20歳代はまだ働き始めたばかりなので、金融資産無保有世帯があるのは仕方のないことですが、30歳代以降はいよいよ本格的に資産形成をしなければならない年代でもあります。
では、金融資産を保有している世帯では、平均の保有額はいくらになるのでしょうか。
<平均保有額>
20歳代・・・・・・339万円
30歳代・・・・・・697万円
40歳代・・・・・・1132万円
出所:金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯)」(令和4年調査結果)
上記は平均値なので、どうしても保有額の大きい人の数字に引っ張られてしまっている傾向があります。実感としてはもう少し低めの数字になるでしょう。
それはともかく、20歳代で339万円という金融資産を保有している人たちは、それで満足することなく、さらに金額を積み上げていく必要があります。言うまでも無く、高齢になって自分自身が稼げなくなった時に、公的年金に加えて、それまでの蓄えを取り崩し、生活費に充てる必要があるからです。
当然、保有している金融資産の額が大きくなればなるほど、老後の生活に対する不安感も薄らぎますから、資産形成をする人たちは何とかして少しでも保有している金融資産の額を増やそうとします。だからこそ金融機関のアドバイザーも、高いリターンが期待できる投資商品を勧めるのです。
金融機関の顧客の年齢層しかしながら、20代、30代、40代という資産形成層の人たちが、金融機関の窓口に行って資産運用のコンサルティングを受けるケースは少なくなっています。今は金融機関よりも、SNSやYouTubeなどから情報を入手するケースが多いようです。
フィデリティ投信株式会社の「2022年フィデリティ・ビジネスパーソン1万人アンケート」では、「お金に関する情報の入手経路」を聞く項目があり、「特に情報は入手していない」を除けば、情報の入手経路で高い回答比から順に20歳代~30歳代では次のような結果になりました。
<お金に関する情報の入手経路>
SNS、ブログ、YouTubeなど・・・39%
TVの情報番組、コマーシャル・・・23%
職場の同僚、知人・・・13%
金融機関の担当者、セミナーやウェブサイト・・・11%
家族・・・11%
雑誌の特集、広告・・・9%
新聞記事、広告・・・8%
ファイナンシャル・プランナー・・・6%
職場でのマネー教育、研修・・・5%
出所:フィデリティ投信株式会社「2022年フィデリティ・ビジネスパーソン1万人アンケート」
こうして見ると、約4割の人がSNSやブログ、YouTubeなどのネットメディアを情報収集の中心としていることが分かります。逆に、金融機関の担当者、セミナーやウェブサイトと答えた人の回答比はわずか11%です。
インターネットで情報を収集する人の大半は、ネット証券などで口座を開いて資産運用をするでしょうから、わざわざ金融機関へ出向いて資産運用のアドバイスを受ける層は、高齢者が中心と考えられます。
60歳代~70歳代の資産運用の狙いもちろん本人が保有している金融資産の額にもよりますが、一定水準の金融資産を保有している60代、70代のお客様に対しては、資産をさらに増やすための投資商品を勧める必要はないと考えられます。
なぜなら、70歳で金融資産の保有額が3000万円あるような人が、この3000万円をさらに4000万円、5000万円に増やす必要はほぼないからです。むしろ、そこまでリスクを取るくらいであれば、大きなキャピタルゲインは狙えなくとも、安定的したインカムゲインが得られる金融商品を多く保有した方がいいでしょう。
安定的したインカムゲインの例として、仮に3000万円の投資元本に対して年4%の利回りを確保できたとすると、年間120万円の利子・配当所得が得られます。年間120万円ということは、月10万円の所得が公的年金以外に確保できるということです。もしも、年5%の利回りを確保できたとすれば、利子・配当所得は年間150万円。月12万5000円が得られます。
月にどの程度お金が必要かは各々が求める生活レベルによりますが、20代からしっかり厚生年金に加入している人なら、公的年金に加え、毎月10~12万円程度の利子・配当所得が得られれば、70歳以降の生活費をそれほど心配する必要はないでしょう。
このように考えると、すでに一定の金融資産を保有する高齢者の資産運用は、やはりキャピタルゲイン狙いではなくインカムゲイン狙いにすべきだと言えます。
したがって、金融機関のアドバイザーが、資産運用アドバイスを求めるお客様を十把一絡げにし、過去の運用成績、つまり値上がり率の高い投資信託を勧める助言をしていたとすれば、いささかピント外れのアドバイスになっている恐れがあるのです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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