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「自分の退職金の額を知らない人」がマズい理由…まず何から調べるべき?

Finasee / 2023年5月24日 11時0分

「自分の退職金の額を知らない人」がマズい理由…まず何から調べるべき?

Finasee(フィナシー)

人生100年時代といわれる現代では、老後のお金に大きな関心が集まっています。近年は、バブル世代や団塊ジュニア世代といった人口のボリュームゾーンが定年退職を意識する年齢に突入し、「退職金の得する受け取り方」といった記事もさまざまなメディアで取り上げられるようになりました。

また、投資資産の非課税保有期間が無期限化する新NISAのスタートを来年に控え、退職金の運用方法に関心を寄せる定年前後の世代が増えているようです。

しかし、退職金の運用方法を考えるその前に、そもそも会社員の皆さんは、自分の会社の退職給付制度がどんな仕組みで、自分がどれくらい退職金をもらえるのかをご存じですか?

知らないと後悔する「退職金」のこと

筆者はここ数年、社会保険労務士やファイナンシャルプランナーのほか、定年前後のお金の専門家の方々を度々取材してきました。その中で専門家の皆さんが口をそろえて言うことは、「自分の退職金について定年直前まで把握していない人が多すぎる」ということです。

退職金といえば、定年退職時にもらえる「人生最大にして最後の大金」といっても過言ではありません。ところが、多くの会社員は制度について深く知らず、受け取る金額さえ「もらってみないと分からない」という人が相当数いるのだそうです。

退職金とひとことで言っても、実は会社によって導入している制度は異なります。そして、「会社員ならば誰でももらえる」というものでは決してありません。会社に制度がない場合、制度があっても退職金規定に示された要件を満たしていない場合は、給付を受けることができないのです。

また、退職給付制度の中には、自分でもらう方法・年齢を選択できるもの、自ら手続きしないと給付されないものもあります。退職金は受け取り方によってかかる税金が異なるため、自分の会社の制度を把握して最適な方法を選ばなければ後悔することになります。

そこで、本稿では日本の民間企業で採用されている退職給付制度の種類や、最近の傾向について紹介します。

「退職金の有無」は企業規模や業種で変わる

退職金についての統計は、厚生労働省が行っている「就労条件総合調査」が代表的です。この調査の中で、5年に1度、退職給付制度とその支給実態についての調査結果が発表されています。

2023年4月27日現在、公表されている最新のデータである平成30年(2018年)の調査を見てみると、2018年時点での企業の退職給付制度の状況ば、退職給付制度がある企業の割合が80.5%でした。つまり、残りの19.5%の企業には退職給付制度がありません。これは企業規模によっても差があります。

<企業規模別退職給付制度の有無>

常用労働者数 1000人以上・・・あり 92.3%/なし 7.7%
常用労働者数 300~999人・・・あり 91.8%/なし 8.2%
常用労働者数 100~299人・・・あり 84.9%/なし 15.1%
常用労働者数 30~99人 ・・・・あり 77.6%/なし 22.4%

出所:厚生労働省 「就労条件総合調査」平成30年(2018年)

上記のデータから分かるように、常用労働者数1000人以上という規模の大きな企業では9割以上で退職給付制度が導入されています。一方、企業規模が小さくなるに従って、退職給付制度がない企業の割合が多くなっています。常用労働者数30~99人の場合、約2割超の企業に退職給付制度がありません。

また、業種による差はもっと大きくなります。

<産業別退職給付制度の有無>

複合サービス事業・・・・・・・・あり 96.1% /なし 3.9%
鉱業・採石業・砂利採取業・・・・あり 92.3%/なし 7.7%
電気・ガス・熱供給・水道業・・・あり 92.2%/なし 7.8%
サービス業(他に分類されないもの)・・・あり 68.6% /なし 31.4%
生活関連サービス業、娯楽業・・・あり 65.3%/なし 34.7%
宿泊業・飲食サービス業・・・・・あり 59.7%/なし 40.3%

出所:厚生労働省 「就労条件総合調査」

上記は産業別の退職給付制度導入率を高い順から並べて、上位3つの産業と導入率が低かった3つの産業を抜粋したものです。上位および下位3位以外の産業の退職給付制度の導入率はおよそ70~80%程度です。

そして、導入率が低い産業にはサービス業関連が集中していました。特に、宿泊や飲食関連の産業では、退職給付制度がない企業が4割もあることが分かりました。

定年時に退職金があるかどうかは、老後の生活設計に大きくかかわる問題です。「多分、自分ももらえるんだろう」などと思い込んでいると、定年間際に大慌てするはめに。退職給付制度の有無だけでも、早めに確認するに越したことはありません。

企業が導入している退職給付制度の種類

企業ごとに導入している退職給付制度の種類はさまざまです。退職給付制度は、大きく分けて「退職一時金制度」と「退職年金(企業年金)制度」の2つがあります。

1.退職一時金制度

最も多くの企業で採用されているのが、「退職一時金制度」です。この制度は、定年時に一括でお金を支給するタイプの制度で、いわゆる「退職金」と呼ばれています。

先ほどの調査で「退職給付制度がある」と回答した企業のうち、73.3%が「退職一時金制度のみ」を採用しています。つまり、定年時に退職金を一括でドンと受け取る会社員が大半だということです。

2.退職年金制度

「退職年金制度」は企業年金とも言い、この制度のみを採用している企業は8.6%と少数派です。また、「退職一時金制度」と「退職年金制度」の両制度を併用しているという会社は18.1%あります。

後者は非常に恵まれた会社と言えますが、企業規模では常用労働者数1000人以上の企業で47.6%が両制度を併用しているので、やはり大企業ほど手厚い退職金制度があると考えられるでしょう。

それぞれの制度の特徴と種類

前述の通り、退職金制度は大きく2種類あります。では、それぞれの制度の特徴をもう少し詳しく見ていきましょう。

1.退職一時金制度の特徴と種類

退職一時金制度とは、原則として退職時に一時金として一括で給付する制度です。退職金額の計算方法は会社によってさまざまで、主な計算方法として次のようなものがあります。

【退職金額の計算方法の種類】

a.ポイント制方式
「在職中の貢献度による累計ポイント数×ポイント単価」で計算。職能等級や勤続年数をポイント化し、能力や実績を退職金に反映しやすくした方式で、近年多くの会社で採用されている。

b.基本給連動方式
「退職時の基本給×勤続年数に応じた係数×退職理由係数」で計算。伝統的な退職金の計算方法で、勤続年数が長くなり定年退職に近づくほど金額が高くなる。

c.別テーブル方式
「基本給と別枠で設定された基準額×退職時の役職や等級による係数×退職事由係数」で計算。給与と関係なく勤続年数に応じた基準額を設定し、「課長なら1.2倍」「部長なら1.5倍」など役職の状況によって係数が変わる。

d.定額方式
勤続年数のみで退職金を計算するシンプルな方式。貢献度や役職は考慮されず、5年なら100万円、10年なら200万円など、勤続年数に対応した金額が設定されている。退職理由により金額が異なる場合もある。

2.退職年金制度の特徴と種類

退職年金制度は、退職時の給付を一時金、または年金のように分割して受け取ることが可能な制度です。一般的に企業年金と呼ばれます。現在は主に次の3つの制度があり、1つまたは2つ以上の制度を組み合わせて採用している企業もあります。

<退職年金制度の種類>

a.確定給付企業年金(DB)
企業が掛金を拠出し、あらかじめ給付額が確定している。
会社または基金のルールで一時金、5~20年の分割受け取り、一時金と分割受け取りの組み合わせが選択できる。終身で受け取れる場合もある。分割で受け取る場合は、受け取り期間中、給付利率と呼ばれるあらかじめ約束された利息が付与される。
近年は、給付利率が市場金利と連動するキャッシュバランスプラン(CBP)を採用する企業も増えている。

b.企業型確定拠出年金(DC)
企業が掛金を拠出し、従業員は会社が提供する金融商品のラインナップから投資先を選び運用する。本人の運用次第で受取り時の金額が変化する。
退職年齢に関係なく、原則60~75歳の間で希望する時期に一時金または年金で支給。一時金と年金を組み合わせてもらえる場合が多い。
最近は、従業員の退職金または給与を原資として、前払い(給料)として受け取るか、DCに拠出するかを従業員自らに選ばせる「選択制確定拠出年金(選択制DC)」を採用する企業も増えている。

c.中小企業退職金共済(中退共)
中小企業向けの退職金制度。
事業主が中退共と退職共済契約を結び、毎月掛金を納付。従業員が退職した時は、本人が中退共から直接一時金または年金の給付を受ける。
勤続1年以上で退職一時金が支給され、60歳以上なら一時金、分割、両方の組み合わせが選べる。ただし、金額が80万円未満の場合は一時金のみ。

上記のほか、かつては厚生年金基金や企業が生命保険会社や信託銀行等と契約して、外部機関に年金原資を積み立てる「適格退職年金制度」があり、これが主流となっていました。しかし、少子高齢化や経済の低迷などで運用が悪化したため厚生年金基金のほとんどが解散してしまい、今では新設が認められていません。

また、適格退職年金制度も法改正により税優遇が受けられなくなったことで他制度への移行が進み、適格退職年金制度は実質廃止状態となっています。

***
 

制度を比較してみると、受け取り方の選択肢やルールがそれぞれ異なることが分かると思います。もちろん、今回紹介したものとは別の制度を採用している企業もあります。

また、よく「退職金は一時金で受け取るのと、年金で受け取るのではどちらが得か?」といった記事を目にする機会も多いと思います。しかし、自分の会社の制度が「退職一時金制度のみ」の場合は、そもそも原則として一時金でしか受け取ることができません。

繰り返すようですが、皆さんが1番知っておくべきは、自分が勤めている会社がどの制度を採用しているかということです。まずは、自分の会社の制度をよく確認し、分からないことは会社の担当者に聞くことをおすすめします。そして、自分の退職金のもらい方にどのような選択肢があるのかを調べてみてはいかがでしょうか。

加茂 直美/フリーライター・行政書士

主に年金、老後資金、行政手続きなどの細かい情報をリサーチし生活に活かすための記事を執筆。行政書士。2級DCプランナー。行政書士事務所オフィスリーガルブレーンを主宰。『役所や会社は教えてくれない! 定年と年金 3つ年金と退職金を最大限に受け取る方法』(大江加代 監修/ART NEXT)『アメリカ人が当たり前に知っているお金のこと全部』(西村隆男 監修/宝島社)『60歳からの得する年金!働きながら「届け出」だけでお金がもらえる本 2023-2024最新版』(小泉正典 監修/講談社MOOK)などの取材、企画、構成、執筆等を担当。

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