「新しい世界が見たい」57歳で決意した再就職、待ち受けていた試練
Finasee / 2023年5月11日 11時0分
Finasee(フィナシー)
定年後もキャリアは続く
人生100年時代、AIの時代とも言われ、いま誰もが経験したことのない世界の入り口に立っていると言えるでしょう。人々の平均寿命は延びる一方で、若者の人口が減少し、少子高齢化に拍車がかかっています。
これからは高齢になった人も働くことで、労働人口をカバーし、年金財政を維持することが必要になってくるでしょう。そのため、定年を迎える60歳以降も、長く働く人が増えてくると思われます。
現在、多くの会社では60歳を定年として、65歳まで再雇用するというのが一般的です。しかし、2021年4月に改正された「高年齢者雇用安定法」では、企業が労働者を70歳まで再雇用することを努力義務にするなど、長く働ける仕組みが構築されつつあります。
そうした動きの中で、私たち労働者が考えるべきことは何でしょうか?
それは長く働くことをネガティブに捉えるのでなく、「働くことで人との関わりができる」「頭を活性化させて健康でいられる」、そうポジティブに解釈してみることではないかと筆者は考えています。そのためには、定年後に自分が生き生きできる「理想の仕事」を見つける必要があります。
定年後に仕方なく働く人、生き生きと働く人実際、定年後に働いている人を見てみると、「仕方なく働いている人」と「生き生きと働いている人」にはっきりと分かれます。両者を分けるのは、現役時代の仕事への取り組み方と前向きに行動する力の違いにあります。
1.現役時代の仕事への取り組み方現役時代に仕事の質を高めてきた人は、定年後も仕事で培ってきた経験を上手く活用し、生き生きと働いています。
長いサラリーマン時代で得た知識・スキル・経験は会社を離れても消えるものではなく、時代に合わせて応用することで、定年後もその人の強みになるからです。それをさらに強化できる人は求められる人材になり、新たな仕事へとつながっています。
一方、現役時代にそれほど専門分野を極めていない場合、必要とされるレベルに至らず、定年後のキャリアで苦労することになってしまいます。その結果、やりたい仕事より、できる仕事を優先することを余儀なくされるのです。
したがって、自分の強みを活かして、定年後により高い確率でやりがいのある仕事を獲得するためには、現役時代から前向きに仕事に取り組むことが大切だと言えます。
2.前向きに行動する力もう1つ、生き生きと仕事をする人に必ずと言っていいほど共通しているのは、「前向きに行動を起こす力」を持っていることです。
定年後も仕事を続けようとすると、厳しい条件を突き付けられる場面がよくあります。再就職のため就職活動をするも何十件も決まらない。年齢を理由に断られる――。そうした逆境の中でも諦めず前向きに行動してきた人が、自分の望む理想の仕事に出会っています。
先のことを考えると不安も大きいかもしれませんが、考えているだけでは何も生まれません。行動することで初めて次の展開が生まれます。
時に「失敗した」と思うこともあるかもしれませんが、長い目で見ると次の展開に必要なのだと考え、行動を起こし続けられる人にチャンスが訪れるのだと思います。
***では、実際に生き生きとした定年後を過ごしている人は、どのようにセカンドキャリアを選択しているのでしょうか。苦労の中でも何らかの「きっかけ」で自分に合った働き方を見つけ、今を楽しんでいる人のケースを紹介します。
57歳男性・髙橋さんの場合<髙橋さんのプロフィール>
・57歳、男性
・新卒から大手製薬会社に勤務
・営業職、採用職を経験
髙橋さんは大手の製薬会社に新入社員として入社し、57歳で早期退職するまで1つの会社で働いてきた、この年代に典型的なサラリーマンです。長く担当した営業職に加え、人事部の採用職も10年ほど経験しました。
50代半ばになった頃、会社にある問題が起き、大型製品の売り上げが激減。その利益損失を補うためか、会社は全社員向けに「早期退職プログラム」を打ち出しました。
髙橋さんは初めこそプログラムに関心がありませんでしたが、よく考えると年齢も57歳で定年も間近。
「どのみちあと数年で定年退職か……。今後のことを考えると、このプログラムに応募するのも1つの区切りになるのかな」
そう考えて退職を決意。プログラムに応募することにしました。
「定年より少し早めに辞めることで、会社では経験できなかった違う人生が拓けるかもしれない」
退職する頃にはそんな淡い期待も芽生えていたのでした。
想像以上に難しい、定年後の就職活動退職後は現役時代にあったストレスもなく、失業手当をもらいながら解放感に浸たる毎日を送っていました。しかし、そんな幸せな時間も長くは続かず、住宅ローンの支払いが次第に家計を圧迫するように……。
このあたりから、将来への不安がムクムクと膨らみ始めます。
何か行動を起こさねばと資格を取るために学校へ通ったり、独立もできるかもしれないと勉強会に行ったりするも、現実は想像以上に厳しく、なかなか次の仕事が決まりません。
「一体どうしたらいいんだ……」
悩みは尽きず、きっかけすら掴めない日々が続きます。
そんな時、採用業務を募集している会社を見つけました。複数の保育園を経営している会社で、急ぎで保育士の採用をしたいが、採用担当者が退職するので急遽人材が必要になったというのです。
髙橋さんは現役時代には営業職の経験が長かったものの、人事部門で採用職の経験がありました。就職活動に苦戦する中、「これは千載一遇のチャンス!」と迷わず応募します。その結果、10年近く従事した採用職の経験が評価され、即座に採用へとこぎつけました。
髙橋さんの前職は従業規模の大きい会社で専門職のスキルを深めやすい環境でした。中小企業は、採用業務を専門として組織化している会社は少ないと思われるので、髙橋さんのように専門職のスキルを活かせたことは、就職活動を成功させた大きな要因だったと考えられます。
「前職での取り組みが、定年後にも役に立つものだな」
髙橋さんはそう実感すると同時に、未経験の業界でキャリアを積むことに対し、今までと違う世界が拓けそうだと期待で胸がいっぱいでした。
こうして就職活動に苦労しつつも、セカンドキャリアの一歩目を踏み出した髙橋さん。しかし、再就職が叶った安堵もつかの間、待ち受けていたのは怒涛の試練なのでした――。
●再就職後に起こった “予想外の出来事”とは、果たして何だったのでしょうか? 続きは後編「57歳で再就職、生じた周囲との不和…関係を激変させた“涙の謝罪”」で紹介します。
髙橋 伸典/セカンドキャリアコンサルタント・モチベーション総合研究所代表・東京定年男女の会主宰
1957年生まれ。57歳で早期退職するも、多くのつまずき、苦労を経験する。しかし試行錯誤を重ねることで乗り越え、リスクなく独立する道をつかみ取る。東京都主催の東京セカンドキャリア塾、各自治体などでセミナーを行う。雑誌やウェブメディアでは、セカンドキャリアに関する寄稿の実績多数。著書に「定年1年目の教科書」(日本能率協会マネジメントセンター)がある。
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