57歳で再就職、生じた周囲との不和…関係を激変させた“涙の謝罪”
Finasee / 2023年5月11日 11時0分
Finasee(フィナシー)
大手製薬会社に勤務していた髙橋さん。長く営業職として活躍し、人事部で採用職も経験しました。57歳の時、会社の経営状況の悪化で「早期退職プログラム」が発表されたことをきっかけに退職を決意。
退職後は、就職活動に苦戦しながらも、過去に経験した採用職のスキルを活かし、保育園を運営する会社でセカンドキャリアをスタートさせることになりました。
しかし、本当の試練は就職してからが始まりだったのです。
●定年後の就職活動は想像以上に厳しかった……。
※前編「『新しい世界が見たい』57歳で決意した再就職、待ち受けていた試練」からの続き
再就職をして最初に課せられたミッションは、「5カ月で20名近くの保育士を採用する」というもの。通常の採用と比べて、かなり短期間で大きな成果を出さなくてはなりません。髙橋さんはとにかく結果を出そうと決意します。前職のやり方を踏襲しつつ、自分でどんどん仕事を進めていきました。
しかし、よかれと思ってやったはずのこの行動が、結果的に幹部の人たちに自分勝手で強引な印象を与えてしまったようです。次第にいじめに近い仕打ちを受けるようになりました。
ある時には、髙橋さんを「採用部門の責任者」と約束して採用しているにもかかわらず、社会人経験も浅く採用職も未経験の社員を上司にされるなど、信じがたい展開も起こりました。
髙橋さんはこの状況にかなり落ち込んでしまいました。そこで友人に一連の出来事を相談してみると、思わぬ回答が――。
「あなたのマイペースで上から目線の会話が、幹部の人の感情を逆なでしたんじゃないの?」
返す言葉のない鋭い指摘でした。この時になって初めて、自分にも落ち度があったことに気が付きます。自身のこれまでの振る舞いを反省した髙橋さんは、幹部の人たちに勇気をふり絞って謝罪することにしました。
「前職のやり方で、自分勝手に仕事を進めてしまっていました。皆さんに不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ありません」
話しているうち気持ちが溢れ、髙橋さんの目には涙がにじんできます。心からの謝罪が伝わったからでしょうか、その後は幹部の対応が激変し、関係性が大きく改善していきました。
「再就職先で上手くやっていくためには、『謙虚であること』が大切だったんだ」
失敗から学びを得た髙橋さん。謙虚な態度で周囲と協調して仕事を進めるうちに、次第に職場になくてはならない存在になりました。周囲とのいい関係性を維持しながら取り組んだ採用活動の実績は、年を追うごとにどんどん伸びていきました。
しかし、試練はこれだけではありません。
年金の受給ができない…?入社して3年が過ぎて60歳になった頃、契約が正社員から嘱託社員に変わり、年金が一部受給できるようなりました。しかしその時、年金と給与を足した金額が一定以上になると、年金が受給できなくなることが発覚します。
困った髙橋さんは年金事務所に相談することに。
「それなら、契約を業務委託契約に変更して、個人事業主になって独立すれば、年金が減額されずに済みますよ」
担当者の説明を聞き、ほっと胸をなでおろしました。
後日、早速会社と交渉します。ところが、「前例がないので難しい」と頭ごなしに断られてしまいました。髙橋さんはどうしたものかと頭を抱えましたが、「それなら自分が前例になればいい!」と前向きに考え、交渉を続けることに。
法律の変更で業務委託契約が推奨されていることなどを根気強く説明し続け、最終的には会社も納得して業務委託へ変更を認めてくれました。
業務委託契約になってからは、仕事内容はそのままで、働く時間・場所は自由になりました。今では会社通いからも解放され、ストレスなく働くことが叶っています。さらに、従来の仕事に加えて他の仕事も請け負えるので、いわゆるパラレルキャリアを実践できており、より充実した毎日を送っています。
定年後の再就職で気をつけたい3つのポイント既にお気づきの方もいるかもしれませんが、この事例は筆者である私自身の話です。身をもって体験したこの一連の出来事から、定年後の就職活動で重要だと気付いたことが3つあります。
1.現役時代の知識、スキル、経験を活かす私の場合は、採用職の経験を活かして就職活動を成功させることができました。また、紆余曲折はありながらも、スキルを応用することで新しい職場でも活躍しています。
定年後はいきなり新しい仕事を始めるよりも、現役時代に培った知識、スキル、経験をベースに自身の専門分野を活かし、深めていくことが大切になります。
2.謙虚でいる長年1つの会社に勤務した人には、その会社でしか通用しない仕事のやり方が身についています。それにもかかわらず、私のように、会社を変えても自分のやり方で仕事を進めて周囲との摩擦を生むケースは、実はよくあることです。
新しい職場では、かつての役職や業績、仕事の進め方はいったん忘れて、その職場のやり方を覚えようとする姿勢を持ちましょう。むしろ、新入社員のようにすべてを学び直すくらいの気持ちでいいかもしれません。
誰に対しても謙虚な姿勢を持ち続ければ、おのずと年齢や性別を問わず慕われる存在になることができるでしょう。
3.独立をするなら、業務委託契約から始める私は年金受給の件をきっかけに業務委託契約となりました。仕事内容はそのままで自由度が上がったため、現在はパラレルキャリアを実現できています。
業務委託契約は、仕事を続けながらリスクなく独立できるため、現役時代に会社員だった方には特におすすめの方法です。
そのためには、現役時代から自分の専門知識を深めると同時に、広げておくことが必要です。その取り組みこそが、定年後の選択肢を広げることになるのです。
***定年が近づいている方は、「自分は何をすれば生き生きできるのか?」というところから、早速考え始めてみるのはいかがでしょうか。また、実際にセカンドキャリアが始まったら、私が失敗から得た教訓をぜひ思い出して、活用していただきたいと思います。
定年後までまだ時間があるという方も、先の話だと思わず、セカンドキャリアについてイメージを膨らませてみてください。やりたいことから逆算して、現役時代に必要なスキルや知識を獲得しておくのもよいかもしれません。そのことが必ず、あなたの定年後の人生を楽しく幸せなものにしてくれるでしょう。
髙橋 伸典/セカンドキャリアコンサルタント・モチベーション総合研究所代表・東京定年男女の会主宰
1957年生まれ。57歳で早期退職するも、多くのつまずき、苦労を経験する。しかし試行錯誤を重ねることで乗り越え、リスクなく独立する道をつかみ取る。東京都主催の東京セカンドキャリア塾、各自治体などでセミナーを行う。雑誌やウェブメディアでは、セカンドキャリアに関する寄稿の実績多数。著書に「定年1年目の教科書」(日本能率協会マネジメントセンター)がある。
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