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資産運用会社の経験「全くなし」で経営トップ就任も…人事への懸念点

Finasee / 2023年5月1日 17時0分

資産運用会社の経験「全くなし」で経営トップ就任も…人事への懸念点

Finasee(フィナシー)

今、資産運用を真剣に考えるべきワケ

多くの日本人は、戦後初めて資産運用について真剣に考えなければならないタイミングに直面しています。

高度経済成長期は確かに高インフレでしたが、それ以上に個人の所得水準が上昇し、かつ預貯金金利も高かったため、働いて稼いだお金を預貯金にしておくだけでも、ある程度、物価高を吸収できたのです。

80年代のバブル経済は、物価水準以上に地価や株価などの資産価格が上昇の一途をたどりましたし、そもそも世の中全体の景気がよかったため、資産運用をしなくても人並みの生活ができました。

そしてバブル経済が崩壊した90年代は、物価が下落し続けるデフレ経済が長期化したこともあり、それこそ現金を握っているだけで現金価値が上がるという状態でした。しかも、物価が下落し続けるデフレや、物価が上昇しても極めて低い上昇率に止まる低インフレが、つい最近まで続きました。

このように考えると、私たち日本人は、戦後本格的な資産運用に取り組まなくても、インフレで通貨価値が大幅に下落し、生活の質が落ちるという経験をせずにいられたのです。

しかし、これから先は分かりません。

「2020年基準 消費者物価指数」(令和5年4月21日)を見ると、消費者物価指数の前年同月比上昇は、「生鮮所得品を除く総合」で見ると、2023年1月の4.2%をピークにして、2月の3.1%、3月の3.1%というように、やや鈍化したかのように見えますが、「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」は1981年12月以来の上昇率となっています。

そもそも生鮮食品は希少状況によって、エネルギーは国際情勢・政治問題によって、それぞれイレギュラーな値動きをする傾向が強いのです。

そのため、消費者の実感に近い物価を見る時は、それらの値動きを除いた「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」が目安になるのですが、その上昇率が近年における過去最高を更新しているところからすると、インフレが私たちの生活水準を、徐々に抑圧しつつあるようにも見えてきます。

デフレ経済・低インフレ経済から、インフレ経済へのシフトが確実視され、同時に人口減少によって経済成長が期待しにくいなかで、個人が資産価値を維持しようとするならば、インフレ率を上回るリターンで資産を運用する必要があります。そういう事態に直面しているからこそ、私たちは今こそ本格的に資産運用を考える必要があるのです。

選択肢の1つとしての「投資信託」

資産運用を真剣に考えるべきタイミングを迎えた以上、個人が安心して、かつ長期的に資産運用を任せられるツールが必要です。そして、その最有力候補の1つが、恐らく「投資信託」です。

そうした背景もあり、投資信託会社をはじめとする資産運用業には高度化が求められています。その方向性を指し示すと共に、現状を把握するため、金融庁は年1回「資産運用業高度化プログレスレポート」を作成しています。

このレポートは全部で70ページほどあるので、本稿ですべてを説明することはできませんが、4月に公表された内容で気になった点について、簡単に解説したいと思います。

資産運用会社の経営トップへの疑問

一番気になったのは、「資産運用会社の信頼向上のために」という項目のひとつとして、資産運用会社の経営トップについて触れたことです。

レポートによると、「日系大手資産運用会社11社のデータによると、経営トップは、グループ内他社から資産運用会社への異動後、3年以内で就任する例が多い。中には、資産運用会社での経験が全くないまま経営トップに就任する場合もある」ということですが、これは日本の資産運用会社の独立性に大きく関わる問題です。

そもそも、日本の資産運用会社は、証券会社や銀行、保険会社といった大手金融機関系列のところが大半で、経営トップをはじめとする役員の多くが、大手金融機関から天下ってくるケースが少なくありません。

そのような経営トップがいる資産運用会社が、親会社の顔色をうかがいながら、親会社が販売手数料で儲かりそうな投資信託を設定・運用している姿が浮かんできます。

しかも、顧客から預かった資産を増やし、その成績が良ければさらに多くの人が預けてくれて、徐々に運用資産規模が拡大し、それによって収益を増やす資産運用会社と、右から左に株式や債券、投資信託を売買させて、その売買手数料で収益を稼ぐ金融機関とでは、ビジネスモデルが根本から異なります。

それにもかかわらず、資産運用会社の経験が全くないまま経営トップに就任するケースもあるというのですから、金融機関から独立した意識を持つ資産運用会社が育たないのも当然と言えるでしょう。

ちなみに、ここで言う「独立した意識」とは、資本関係の有無とは関係なく、少なくとも「親会社から言われるがままに、親会社の収益に貢献する目的でファンドを設定・運用することはしない」という気概を持っているかどうかという点が問われます。

しかし、これも経営トップの現状を見る限り、難しいという印象を受けます。

経験年数「3年未満」が最多―その問題とは?

経営トップの出身会社を見ると、日系大手資産運用会社の場合、7割以上が「グループ内他社」の出身でした。

また、資産運用会社での経験を持っている経営トップでも、経営トップに就任する前の資産運用会社における経験年数は、日系大手資産運用会社の場合、「3年未満」が最も多く、全体の36.4%を占めているのに対し、世界の大手資産運用会社30社の場合、たったの11.1%でした。

これでは資産運用会社のカルチャーなど、理解できるはずもありません。

この点、世界の大手資産運用会社30社の経営トップは、半数近くが「勤続10年以上の内部昇進」であり、かつ経営トップに就任する前の、資産運用会社における経験年数は、20年以上が59.3%も占めていることを、同レポートは指摘しています。

資産運用ビジネスを志して新卒で入社し、資産運用ビジネスの最前線で長年働いてきた人物を内部昇進で経営トップに据えるのではなく、グループの中核企業で出世競争に敗れた人物の天下り先として資産運用会社が利用されているとしたら、これは最悪の人事といっても良いでしょう。

***
 

こうした点を指摘したことも踏まえ、今回のレポートは、資産運用会社の経営トップを対象にして、その現状に対する疑問点と、本来どうあるべきかという改善点を示唆したものとして、注目されます。興味のある方はぜひ確認してみてください。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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