「アイドルの沼」から抜け出した姉―見つけた“推しより大切な存在”
Finasee / 2023年5月17日 11時0分
Finasee(フィナシー)
結城夏美さん(仮)の姉の梓さんは実家に出戻ったあと一向に働く様子がなく、ここ数年は姪と男性アイドルグループの“推し活”に夢中です。
元義兄からもらっている姪の養育費があると聞かされていましたが、それは姉が自分を正当化するための嘘でした。それどころか、姉は両親から毎月15万円もの資金援助を受けていたのです。
3年前に父が亡くなって年金が大きく減り、先行きが不安になった母から相談を受けた私が「そろそろ経済的に自立したら?」と姉に助言したところ、「あんたに私の何が分かるの⁉」と逆ギレされました。
●両親が毎月お金を……姉が隠していた驚愕の事実
※前編【仕事もせず実家で「推し活」に没頭…父の死後に発覚した“姉の嘘”】からの続き
母からは姪の進学資金を少し都合してくれないかという打診もありましたが、我が家もマイホームを購入したばかりの上に年子の息子たちの中学受験も控え、それほど余裕があるわけではありません。
夫に「ホントにお母さんはお姉ちゃんに甘いんだから」と愚痴ったら、「役に立てるか分からないけれど」と紹介されたのが、仕事上の付き合いがあるシングルマザーのファイナンシャルプランナー(FP)、友田さんでした。
「友田さんも離婚した当初は相当苦労したらしいから、梓さんとも腹を割った話ができるかもしれないよ」
幸い友田さんも「結城君の頼みなら」と快諾してくださり、最初に私が友田さんと話をすることになりました。面談の場所に指定されたのは、友田さんが主宰する月1回の「シンママの会」。そこには20代から50代くらいまで、10数人の女性たちが顔を揃えていました。
私を見て「新入りさんなの?」と誰かが言うと、「ううん、この人は婚姻中」と友田さん。「バツがついたら、いつでも歓迎しますよ」とまた別の人。
友田さんの事務所にメンバーが手料理やスイーツなどを持ち寄り日頃の憂さを晴らし合う会だそうで、話題は学校給食の無料化からFRBの利上げまで多岐に渡り、中には姉や七海の“推し”の男性アイドルグループの一部メンバーの脱退発表を嘆く声もありました。
ふと、「姉もこういう人たちと一緒に盛り上がれたら楽しいんじゃないかな」と思いました。私のそんな思いを見透かしたかのように、友田さんが「私ね、あなたのお姉さんをシンママの会にスカウトしようと画策しているの」といたずらっぽい笑みを浮かべました。
必要だったのは推しではなく“励ましあえる仲間”姉への声かけ役は夫が買って出てくれました。
「今、すごく元気なシングルマザーのFPさんと仕事してるんです。何かの拍子に『実は義理の姉もシンママで』と話したら、『私がやってるシンママの会に紹介しなさいよ』ってうるさくて。僕の顔を立てるつもりで一度だけ参加してもらえませんか? 感じが悪かったら速攻帰っていただいて構いませんから」
本来は社交好きな姉に断るという選択肢はなかったようです。母の言葉を借りれば、翌月のシンママの会に喜々として出かけていき、即日入会を決めたとのこと。
それから数カ月、シンママの会を通して姉に少しずつ変化が表れました。なんと自発的に介護職員初任者研修(ホームヘルパー2級)に通って資格を取り、訪問介護の会社で働き始めたのです。
驚いた私が母に「大丈夫なの?」と尋ねると、「夜間介護とか時間の自由が利くのがいいんだって。『将来はケアマネージャーの資格を取って、お母さんに迷惑をかけないようにする』って言うのよ」と、母も戸惑い半分、うれしさ半分といった様子でした。七海の進学先も、本人の希望を優先させる形で動物看護師を目指す専門学校に決めたようです。
打ち明けられたコンプレックスと感謝先月、父の法要で実家に帰った際、母が就寝した後に姉から「ちょっと飲まない?」と声をかけられました。
「友田さんのこと、紹介してくれたの、あんたでしょ? ありがと」。ほどよく酔った姉はその後、問わず語りにいろいろなことを話してくれました。
子供の頃から勉強もスポーツも、何をやっても妹の私に負けて悔しかったこと。家の中では、母だけが姉の理解者だったこと。大人になっても私は仕事も家庭も順調なのに自分だけうまくいかず、離婚してからは“推し”だけが心の支えだったこと。
「でもね、友田さんと出会って気持ちが変わった。友田さん家はうちと逆なの。知ってる? 友田さんのお姉さん、厚生労働省のキャリアなんだよ。友田さん、DV旦那から逃げ出した時に実家の親から『お前は家の恥だ』って言われて一時期シェルターで暮らしてたんだって。その話をしてくれた時に『梓さん、人生って自己満足なんですよ。人と比べても意味がない。自分が今置かれている場所で、何をしたかで満足度は変わります』って言われて、その通りだと思った」
姉の話を聞き、私自身も姉を誤解していたことに気づきました。そして無力な家族に代わって姉を心の闇から救い出してくれた友田さんに心から感謝しました。
聞けば、シンママの会の有志で子供たちが巣立った時に共同生活を送る「シンママ版やすらぎの里」を作るという目標があるのだそうです。
みんながそこに向けてiDeCo(個人型確定拠出年金)で積み立てをしていて、姉も「もう少し収入が増えたら始めるつもり」と照れくさそうに話してくれました。それで最初に私がシンママの会にうかがった時、米国の利上げが議論されていたのかと妙に納得した次第です。
夏美さん自身も相談へ先月、姉の御礼を兼ねて今度は自分自身のマネープランの相談に友田さんの事務所を訪れました。
「梓さんの妹さんでも容赦しないわよ」と冗談交じりに言われていましたが、確かに痛いところをぐいぐい突かれました。我が家はペアローンで5000万円近い借り入れがあり、完済年齢は夫婦共に70歳過ぎです。
「いくら共働きでそれなりの年金があっても、老後にローンの返済が残るとキツいわよ。毎月5万円近い使途不明金があるのも問題ね。家計簿をつけるようにして不明金をあぶり出し、その分は繰り上げ返済に回すこと!」
「夏美さんは失業するとか、お金に困ったことがないでしょ? でも、過去になかったから将来もないとは限らない。コロナの感染が拡大したり、IT業界で大リストラが行われたりする時代だから、家計もレジリエントで持続可能な状態にしておかないと」
相次ぐ指摘にたじたじしてしまい、気になっていた新しいNISA(少額投資非課税制度)やiDeCoの話は次回以降に持ち越されました。
コンプレックスから解放された姉と、共働き家計の弱点を突かれた私。共に、友田さんとの出会いが自分を見直す第一歩となったことは間違いありません。
厳しいこともおっしゃいますが、的確な現状分析力と行動力、加えて熱いハートを持つ友田さんに、これからも姉妹共々ついていきます!
●賃貸生活を選んだのは失敗だったのか…? 詳しくは【賃貸暮らし夫婦が言葉失う…「持ち家」友人に言われたショックな事実】(本サイト記事)で紹介します。
※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。
Finasee編集部
金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。
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