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配属ガチャ、働かないおじさん…“JTC”はオワコン? それでも日本に「能力主義」が浸透しない理由

Finasee / 2023年5月19日 11時0分

配属ガチャ、働かないおじさん…“JTC”はオワコン? それでも日本に「能力主義」が浸透しない理由

Finasee(フィナシー)

今でこそ“さげすみ”の対象だが、「JTC」はかつて憧れの的だった

JTC(Japanese Traditional Company)という言葉を初めて聞きました。年功序列などを引きずる古い体質の日本企業のことを言うそうですね。そこには“やゆ”や“さげすみ”のニュアンスが含まれているとも……。自分より仕事ができない人が、年次が上だというだけで給料が高かったり、あるいは社員の意向や明確な方針のない人事異動などが、若者には敬遠されがちだとか。

そんな日本の記事を読んで思ったのですが、1990年前半、私がアメリカのビジネススクールに留学していたときは、JTCが「憧れの的」でした。ちょうど、バブルがはじけたかはじけないかの頃でしたが、日本経済への敬意は依然として深く「どうやって日本は成功したか」「日本の効率化をマネるにはどうしたらいいか」「日本レベルの品質を実現するには?」など、日本人というだけでいろんな質問やコメントを受けたものです。

そこでいつも話題になったのは日本企業を支えた三本柱である、終身雇用・年功序列・企業内労働組合でした。

すでに当時のアメリカには、四半期ごとの短期的利益率を追求し、株主に利益をもたらさなければ企業の存在意義はなし、パフォーマンスが悪ければ人もプロジェクトもすぐ切るという、いかにもアメリカ的な経営手法がありました。

そんな中、三本柱の上に立つ日本企業は、短期的な株価の上下にはとらわれず、長期的視野に立って人材や研究開発にじっくり投資し、社内の多くの部署を経験したジェネラリストを育て上げ、会社がまるで家族のようで社員の忠誠心が高いのですよ……などと、自分の手柄でもないのに誇らしげに語ったものです。

それが今や「JTC」と呼ばれ、さげすまれるのも時代の変遷と言えばそれまでですが、いくばくかのさびしさも覚えます。

今や情報化が進み、昔のように社内と社外の境目どころか、国と国のボーダーもなくなりつつありますから、仕方がないことかもしれません。

仕事の内容、専門性、給料、待遇などの情報の入手や比較も簡単になり、そういう意味では年功序列や終身雇用を支えていた、いい意味での「不透明さ」が取り払われてしまったのかもしれません。いったん「知って」しまえば、人はやはり条件がいいところのほうがいいに決まっています。好きな仕事をして理に適う人事をしてくれる会社の方がいいに決まっています。

手厚い社内教育を施してやっと育てたと思った社員が、より給料の言いGAFAを代表とする米系会社に転職していってしまうことも多いとも聞きました。

専門性と能力主義で突き進むアメリカ

そうなると、日本もアメリカみたいになっていくのでしょうか?

専門性を追求し、能力主義で、それに見合った報酬を与える社会――アメリカはとことんそれで進んでいます。

専門化と分業ははなはだしく、何でも分野ごとに分かれていて、分野を超えて話ができるジェネラリストはあまりいません。医療や法律やその他の専門性の高いものに関しては、自分の分野をはみ出るとライアビリティの問題もあり、「それはその専門家に相談してください」と言っておしまいになります。

同じようなカテゴリーの仕事をしていても、専門によって報酬も大きく異なります。

たとえば、公立高校の先生であっても教える教科によって給料は違います(そもそも、アメリカでは州や市によって、同じ教科であっても給料は違いますが)。化学の先生の給料が一番高いと聞きました。同じ大学の中でも専門分野で教授の給料は違います。あくまで“平均”の話ではあるのですが、たとえば法学の教授の給料は英文学の教授のそれの2倍です。同じ病院の中で勤めていても、医師の給料も専門によって違います。平均的にですが、脳外科医の給料は内科医の給料の3~4倍です。私の知り合いにお医者さん専門のヘッドハンターがいるのですが、需要の高い人材は見つけては、アメリカ各地を飛び回ってより良い条件を出し引き抜いてくるという仕事をしています。そんな引き抜きでは給料が激増することもあるようです。

コロナの水際対策で実感した、日本と諸外国の違い

「JTC」もこうした、専門性と能力主義の道を突き進むのでしょうか。実は簡単にそうとも言えないと考えます。

というのも、日本はいい意味でも悪い意味でも、とても特異な国だと思うのです。ある意味、切り離されているとさえ感じます。“慣性が高い”とでもいうのでしょうか、ちょっとやそっとのことでは、なかなか変わらないというようにも思います。内と外を分けるからでしょうか、外力が加わっても、内側から引き戻す力が強いので、留まろうとする傾向が強いとでもいいましょうか。

コロナが始まってから、私は今までに4回日本に帰国しました。その間、メキシコ、イスラエル、イギリスにも行きましたが、日本ほど入国が厳しく、時間がかかり、大変な国はなかったです。それは必ずしも悪いことではなくいいことでもありますが、どちらにせよ日本のやり方はすごく特異だと感じました。

私は日本国籍なので、いろいろと手続きが大変でホテルでの隔離などあったとはいえ、入国が許されました。一方で、長い間日本に住んでいて家も日本にある外国籍の方は入国が許されなかったり、あるいは日本生まれの日本人だけど国籍だけ米国に変えてしまった人が、外国籍だという理由で帰国が許されなかったりと、その内と外の分け方はかなりシビアだと思いました。

シビアな反面、徹底的でない部分もありました。隔離ホテルへの護送バスは窓もカバーされた隔離ぶりなのに、バスに乗り込む前にコンビニで買い物が許されたり、自主隔離期間の居場所追跡も形としてはやるが、実は案外いい加減だったりというちぐはぐさです。一応形式としてはやらないと、他からの目があるということなのでしょうか。

昨年(2022年)イスラエルにボランティアに行きましたが、手術を受ける人に付き添うボランティアだったため、日々テルアビブの病院のICUに入って働きました。病院の中の手術室の隣にあるICUでした。

一方、日本のサービス付き高齢者住宅に住む両親に面会をするのは、今年(2023年)4月の時点でも、まだ15分に限られていました。どちらがいいと言っているのではなく、単に日本はかなり特異であり、新しいフェーズに移行するのにすごく時間がかかる、つまり慣性が高いと感じるのです。

物価も給料も上がらない日本はある意味“驚異的”

この内と外を分ける見えない壁、内側の目を意識すること、慣性の高さなどを実感するもう1つが、日本とそれ以外の先進国のインフレ率の差です。他の国が7%、8%、9%というインフレを経験しているのに、日本はやっと3.8%(2023年3月の消費者物価指数/前年同月比)。

私は別にインフレ擁護者でもなんでもありませんが、ただインターネットでも物流・人流でもどんどんつながった世界にあって、日本だけインフレなし、物価も上がらないけど給料も上がらない……というのは驚くべきことだと思います。

日本はここ数十年、物価も値上がらず給料も増えずですが、日本の中だけで暮らすならそれでいいと思います。別に給料が増えなくても、生活費も増えないわけですから。

でも周りの国では、物価も給料も着実に上がっています。アメリカでは材料費や人件費など高くなったなら、すぐ値上げです。「すいませんが、コレコレの理由で値段は上げたくないのですが、上げざるを得ないのです。どうかお許しを」と謝罪する必要もありません。値段が上がって、給料も上がっていくという前提があるのだと思います

※ さらなる詳細は過去記事『値上げラッシュも“当たり前”なアメリカ―悲観しがちな日本との「根本的な違い」』をご参照ください。

日本の正社員の平均年収は508万円(国税庁 令和3年分 『民間給与実態統計調査』より)、「高収入」とは年収800万円以上が目安だそうですが、一方でアメリカでは2022年の大学新卒の全米平均給料が$55,260(743万円)でした。コンピュータサイエンス専攻なら新卒で$75,900(1,020万円)です。アメリカの大学新卒が日本の高収入レベルです。

$75,900(1,020万円)という数字は新卒にしてはすごい数字に見えますが、でもこの給料をもらってもシリコンバレーやマンハッタンに住むなら決して豪華な生活はできません。なぜなら、家賃も食費も高いからです。

アメリカは日本に比べて給料が高いというのは単なる一側面で、アメリカは日本に比べて給料も生活費も高い、つまりインフレがあるだけのことです。

私がアメリカの学生であった1990年代は、日本に帰国するたびに、アメリカのさまざまなものを買ってお土産に持っていきました。日本で買うと大変に高いものが、アメリカで買うと半額くらいで買えたからです。

それがいつの間にか逆転してしまいました。日本人としては、清潔できれいな自分の国で、おしゃれでおいしいものを破格の安さで食べたり楽しんだりできることが本当にうれしいですが、でもこの差、「本当にこのままでどうなるんだろう日本は……」とも思うのです。

世界というコミュニティの中に存在しつつ、日本ならではの独自性を守るのは、なかなか難しいことですね。

 

岩崎 淳子/ファイナンシャルプランナー

「Smart & Responsible」代表。 マーケティング戦略やアナリスト業務を経験した後、2000年に夫の転職を機に米バージニア州へ移住。子育てをしながら米国公認会計士、パーソナル・ファイナンシャル・スぺシャリトに合格。日本と全く異なるアメリカのシステムに戸惑った経験をベースに、個人向けファイナンシャルプラニングの情報提供サイトを立ち上げる。大金持ちでないからこそのプラニング・バランスのとれた家計システム・人任せにせず自分で考える姿勢をモットーにプラニングサービスを提供中。聖書をこよなく愛するクリスチャン。現在は米カリフォルニア州在住。著書に『お金が勝手に貯まってしまう 最高の家計』(ダイヤモンド社)。

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