「資産所得倍増プラン」を悪用した儲け話に注意…資産を守るための大原則
Finasee / 2023年5月25日 17時0分
Finasee(フィナシー)
2022年11月28日、新しい資本主義実現会議において、「資産所得倍増プラン」が決定されました。これは、日本の家計金融資産の半分を占める現預金を投資につなげることで、持続的な企業価値の向上が資産所得の拡大という形で家計にもプラスの恩恵が及ぶようにするための政策です。「国策」として、国民に投資を通じた資産形成を促すためのプランと考えていいでしょう。
しかし、このようなプランが登場したことで、同時に制度を悪用する悪者が一定数現れるのではないかと考えています。参考として、かつて「国民所得倍増計画」が推し進められた時に多発した金融犯罪について説明していきます。
国民所得倍増計画とは戦後経済史において、日本の経済規模がものすごい成長を見せた時期がありました。1955年から1973年までの約19年間で、この期間を「高度経済成長期」と言います。
この高度経済成長を実現させるための理論的支柱となったのが、岸信介内閣の時代に手掛けられ、池田勇人内閣の時代に閣議決定されて推し進められた「国民所得倍増計画」でした。
同計画では、「国民総生産」を10年以内に26兆円まで倍増させ、国民の生活水準を西ヨーロッパ並みにする目標が掲げられていました。
国民総生産(GNP)とは国民総生産は、かつて一国の経済規模を図るのに用いられていた統計のことで、GNPとも言います。国民総生産ですから、ある一定期間中、国民によって新しく生産された財やサービスの総計になります。主体は国民であるため、日本人が米国拠点で生産した自動車や家電製品などもGNPにカウントされます。
国内総生産(GDP)とは1993年からは国民総生産ではなく「国内総生産」によって、日本の経済規模を図るようになりました。これをGDPと言い、国内領土に居住する人たちが新しく生み出した財やサービスの総計を指します。
こちらは「国内領土に居住する人たち」が基準であるため、GDPには日本に居住している日本人、ならびに外国人によって生み出された財やサービスの額がカウントされます。
***上記のような違いはありますが、別の言い方をすると、GNPやGDPはいずれも一定期間中、身を粉にして働いて稼ぎ出すお金の総額と言えます。
前述した通り、国民所得倍増計画は一定期間中に新たに生み出される財やサービスの総計を、10年間で倍増させることが狙いでした。これは結果として想定以上の成果を上げ、1968年には日本は米国に次ぐ世界第2位の経済大国になったのでした。
その後多発した「財テク詐欺」1987年2月、日本政府は1985年に民営化したNTTの政府保有株式を売り出し、各証券取引所に上場させました。時期的にちょうどバブル経済と重なったこともあり、国民の間に財テクブームが沸き起こります。すでにバブル経済の萌芽は1985年くらいからありましたが、この時期と前後して大きな財テク詐欺が多発することになります。
代表的な例として、架空の金地金で預かり証券を発行して大勢の人から金銭を詐取した「豊田商事事件」、保証金を積めばそれに対して10倍の融資を受けられると株式の売買を勧誘した「投資ジャーナル事件」があります。その他、土地ブームを悪用して無価値の原野を高値で販売する「原野商法」なども多発しました。
その後、バブル経済が崩壊により何となく下火になりかけていた金融詐欺ですが、再び勢いを盛り返したのが1990年代の半ばから2000年にかけてです。
この時期何があったのかというと、「日本版金融ビッグバン」と称された大規模な金融制度改革の実施です。「フリー」「フェア」「グローバル」を市場改革の三原則とし、個人が利用できる金融サービスも含めて自由化が一気に加速しました。
例えば、投資信託の銀行窓口販売解禁、改正外為法施行による海外金融機関での口座開設、銀行以外での外国為替取扱、証券デリバティブの全面解禁、資産担保証券など債権等の流動化、株式売買委託手数料の自由化、などがそれにあたります。
この自由化に乗じて、さまざまな金融詐欺事件が1990年代の後半あたりから増えていきました。簡単に言えば、海外のヘッジファンド、プライベートバンク、医療保険請求権、外国籍投資信託などをかたり、実態のない投資商品やサービスを売りつけ、個人資産を詐取する事件が多発したのです。
この時期、私自身もこの手の金融詐欺の取材を行っていましたが、騙す側は口を揃えて「自由化によってこの手の商品を提供できるようになりました。海外ではものすごく人気なのです!」と言っていました。
まさに、規制緩和、自由化が犯罪のネタに使われていたのです。
資産所得倍増プランを悪用する詐欺に要注意!これからの日本で当時と同じ経済成長が実現できるかというと、ほぼ不可能です。1番の理由は、人口が減少傾向をたどっているからです。
GNPやGDPのようなフローの所得を大きく伸ばすためには、消費が盛り上げるためにとりもなおさず人口を増やす必要があります。しかし、これから人口を増加させるのが難しいことは、当然岸田内閣も十分に理解しているでしょう。
では、それ以外に私たちの所得を増やす方法はないのかと言えば、実は1つだけあるのです。それは、今までの蓄えを活用してそこから富を生み出すことです。
日本人は一所懸命に働いた結果、不動産をはじめとする実物資産や、預貯金、有価証券などの金融資産という形で資産形成してきました。この資産を有効活用すれば、新たな富を生み出すことが可能になります。
これが、岸田内閣が言うところの資産所得倍増プランの骨子です。フローの所得倍増が不可能なら、これまで蓄積してきたストックから得られる所得を倍増させようという考え方で、悪いアイデアではないと思います。
もし国民の多くが投資に関心を持つようになり、個人金融資産の50%超を占める現金・預金から株式、投資信託、その他の投資商品に資金がシフトすれば、株価の上昇も期待できるようになりますし、その株価上昇に引き寄せられるようにして、さらに株式や投資信託などの投資商品を購入する比率が高まる可能性があります。
ただ、ここで注意したいのが、国民の資産形成や投資に対して国が首を突っ込んできた時は、その裏側で制度改正や政策変更の裏をかこうとする悪者が必ず一定数いるということです。まさに国民所得倍増計画の後に多発した財テク詐欺が、それにあたります。
特に昨今では、少子・超高齢社会の進展によって、若い世代の年金不安が高まっていますし、物価高でもなかなか上昇しない預貯金金利などを背景に、投資に対する関心が高まっています。その上、真偽不明のいかがわしい投資情報がインターネットを介して大量に流されている時代でもあります。
つまり、個人が犯罪に騙されやすい環境、諸条件が整ってしまっているのです。
これは詐欺全般に当てはまることですが、騙されたことが分かって裁判に訴えたとしても、払ってしまったお金はほとんど戻ってきません。騙されないために何よりも大事にすべき鉄則は、世の中にある詐欺の手口を知り、うまい儲け話があっても簡単に信じず疑う視点を持つことだと言えるでしょう。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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