問題は年齢ではない…「年をとると、仕事がなくなる」という人の“根本的な勘違い”
Finasee / 2023年6月1日 11時0分
Finasee(フィナシー)
人生100年時代における「50歳」は、折り返し地点でもある重要なタイミング。結婚や仕事、育児で悩んでいた20代、30代の頃と異なる不安や心配が出てくるものです。
仕事人生の後半戦ならではの不安や悩みに、働く人々のアドバイザー的存在として書籍や雑誌で執筆活動を行う有川真由美氏が寄り添います。話題の書籍『50歳から花開く人、50歳で止まる人』では、人生後半で様々な不安から解放されて前向きに生きていくための知恵について解説しています。今回は、本書第1章『50歳からは「自分優先」で生きていく』の一部を特別に公開します。(全3回)
●第1回:“終わった”中高年、”いまを生きる”中高年―決定的な違いを生む要素とは
※本稿は、有川真由美著『50歳から花開く人、50歳で止まる人』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
「年をとると、仕事がない」と思っていますか?先日、車椅子の母を転院させるために、病院に介護タクシーをお願いしました。そこにやってきた70代の運転手の仕事ぶりがすばらしかった。
母に「寒くありませんか」と洗濯したての毛布をかけてくれ、和(なご)ませる会話をしてくれる。車への移動も、高速道路の運転も、振動が少ないように丁寧に行い、車のなかも患者が快適に過ごせるよう、さまざまな工夫が施されているのです。介護タクシーの車両は、自分で改造してつくったものだとか。
「さすがプロのお仕事ですね。ずっとこの仕事をされてきたんですか?」と聞くと、「いえいえ、数年前に親の介護のために地元に帰ってきてからです。市立病院に送迎をしているうちに病院のスタッフとも話すようになり、ある日、事務長に『手伝ってくれませんか』と頼まれたんですよ」
おそらく事務長はだれにでも声をかけているわけではなく、介助の様子や会話から「この人なら……」と思ったのでしょう。
「もともと普通自動車二種免許はもっていたんですが、それから介護職員初任者研修を受けました。いまでは、あちこちの病院から声がかかって、1日500キロ運転することもあるんですよ」
数年前までは、関西で重機を貸し出す会社の社長で、さまざまな重機を扱うために20以上の資格を取得。一代で会社を拡大したものの、資産は妻と子に譲り、離婚して身ひとつで故郷に帰ってきたそうです。
目に見える資産はなくなっても、その人のなかにある仕事への姿勢や考え方、スキルといった資産はなくなりません。わかる人には、ちょっと話しただけでも「この人ならできる」「この人にはむずかしいだろう」といったことはわかるものです。
「足りないもの」ではなく、「すでにあるもの」に目を向けるさて、「年をとると、仕事がなくなる」という声はよく聞かれます。それは、若い人と同じ土俵で仕事を奪い合っているから。
実際に転職活動をしたことのある人は、50歳どころか、30歳以降は、特別なスキルや資格でもないかぎり、再就職がむずかしいことを実感するはずです。
一般的な求人枠に、自分を当てはめようとすると、「スキルがない」「経験がない」「資格がない」「若くない」「考え方が柔軟でない」「体力がない」など足りないものばかりが見えてきて、年をとるほど仕事は先細りになるでしょう。
いま、会社で働いていても、あくまでも会社が求める人材であろうとすると、「○○ができていない」「実績が足りない」「リーダーシップがない」など、足りないものを埋めようと必死にがんばることになります。
「会社優先の生き方」から「自分優先の生き方」にシフトするためには、まったく逆の発想が必要です。「足りないもの」ではなく、「すでにあるもの」に目を向けることから始まります。
仕事の資格や経験など明確なものだけでなく、ものを見る目やコミュニケーション力、問題解決力など、本人も自覚していないことが、じつは大事な資産なのです。
「人と話すのが好き」「センスがいいと言われる」「環境問題に興味がある」など、好きや得意、好奇心は最大の資産。エネルギーのもとになります。そんな自分のなかにすでにある資産を総動員して、仕事はできていくのです。
「老い」も、大切な資産になります。健康食品の通販番組には、80代のボディビルダー90代のジムインストラクターなどがよく出てきます。彼らは80代、90代だから賞賛され、ニーズがあるわけです。
知り合いにも、50代でヨガを始めて、60代でインストラクターになった女性がいます。老いの体に精通しているため、中高年に合ったヨガを教えてくれると大人気。
中高年は、だれでもできるような仕事を奪い合っている場合ではありません。50代、60代、70代……と、その年代なりの戦い方があるのです。
「私は○○の仕事しかできない」と思っていますか?若者でも中高年でも「ひとつの会社で定年まで働くのがベスト」と考えて、人生設計を立てている人が多いようです。転職は容易なことではなく、ひとつの会社に長年勤めたほうが、経済的にも立場的にもメリットはあるでしょう。
しかし、現実的にひとつの会社だけで一生を終える人は年々少なくなっています。働く側に問題がなくても、会社の倒産やリストラ、人間関係のトラブルなどで会社を去ることは多々あります。
転職するにしても、「これまで事務職しかしたことがないから」「○○の資格をもっているから」と、ひとつの職種だけにこだわると、これまでの職場で通用していたスキルが、ほかの場所では使い物にならないこともあります。
もちろん、ひとつの会社に長くいるからこそ、キャリアを築けたり、自分のやりたいことを実現できていることもあります。これまでのキャリアが会社内外で評価されるのであれば、転職や定年のときに声をかけられることも多いでしょう。
でも、もしも「これしかできることがない」という消極的な選択で、あなたの心がくすぶっているのなら、ほかの選択肢も考えてみてはいかがでしょう。
そもそも高校や大学を卒業して、ほとんど働いた経験がないまま選んだ会社を「一生の仕事」とするのは、変化が激しい現代では無理があります。
たとえるなら、二十歳(はたち)そこそこで選んだ服を、一生着ているようなもの。なかには、それが一生ものになっていく幸運な人もいますが、「だんだん合わなくなってきた」「ほかにも選択肢があるんじゃないか」と疑問を抱くのも当然ではないでしょうか。
仕事というのは偶然のめぐり合わせのようなもので、やってみないことにはわからない。向き不向きや、時代に合っているのか、やり続けられるか、年齢とともに変わってくることもあります。
生活のために会社を辞められなかった人も、50歳以降、昔からやりたかった仕事に挑戦してみたり、これまでの仕事経験を土台に独立したり、まったく新しい環境で始めたりすることもできるのです。
守りに入って「変わらないこと」より、積極的に「変わること」を選ぶ私がよく行くブックカフェのご夫婦は、60代で移住して店を開きました。
夫は元編集者、妻はいまも短大で古典を教えていて、夫婦のもとには、子どもから90代の方まで多くの人がやってきます。ご夫婦と本の話をするのが楽しくてたまらないし、その明るく元気な姿に刺激をもらえるのです。
子どもが独立したあと、その前身である会員制の文学サロンを開こうとしたのは妻のほうでした。
「夫に反対されたら、離婚してでも一人でやるつもりだった。結局、夫も会社を辞めて一緒にやることになったの」と妻。いまでは夫がデザートをつくったり、講座やイベントを主催したりして、じつに伸び伸びと楽しそうに仕事をしているのです。
このように、これまでやってきたことを武器に、形を変えていくこともできます。
50歳からは未来に「どれだけの結果や報酬が得られるか」より、いま「どれだけ充足した時間や心の満足が得られるか」のほうが大事になってきます。
40代50代で、会社に勤めているのであれば、会社にいるうちに、近い将来の定年後に別の仕事をすることも見据えて、「やりたいこと」「やれること」を見つけておいたほうがいいでしょう。
「辞めても、この道がある」「いつかこんな仕事をしたい」などいくつかの選択肢をもっておくだけでも心強いものです。
ほんとうの安定とは、変わらないことではなく、変化しながら、柔軟にバランスを保つこと。自分の気持ちや状態も、まわりの環境も、移り変わっていくものですから。
●第3回(人生の歯車がうまく回り始める…50代・60代の仕事探しで“はずしてはいけない視点“)では、50歳からアップデートしたい仕事の考え方について解説します。
『50歳から花開く人、50歳で止まる人』有川真由美 著
発行所 PHP研究所
定価 1,485円(税込)
有川 真由美/作家
台湾国立高雄第一科技大学修士課程修了。化粧品会社事務、塾講師、衣料品店店長、着物着付け講師、ブライダルコーディネーター、フリー情報誌編集者など多くの転職経験を生かし、働く女性のアドバイザー的存在として書籍を多数執筆。近著に『まんがでわかる 一緒にいると楽しい人、疲れる人』『孤独を楽しむ人、ダメになる人』『口ぐせを変えれば、人生がうまくいく 朝起きてから夜寝るまで、いいことが起こる92の習慣』(すべてPHP研究所)など。
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