結局、老後に“2000万円”は必要なのか? 実は“そうとも限らない”驚きの理由とは
Finasee / 2023年6月7日 11時0分
Finasee(フィナシー)
いわゆる「老後2000万円問題」がきっかけの1つとなって、資産形成の機運が高まりつつあります。そうはいっても、リタイアまで10年ほどしか残されていない50代の人の中には「今さら間に合うのだろうか?」と不安に思う人が少なくないようです。
そんな不安に寄り添うのが、話題の書籍『とっくに50代 老後のお金どう作ればいいですか?』。50代の人に向け、どう老後資金を準備すればいいのか、長尾義弘氏が解説しています。今回は本書冒頭の『はじめに』と『とっくに50代…「老後の資金」はどうしたらいいですか!?』、『とっくに50代…「年金」を増やす方法はありませんか?』の一部を特別に公開します。(全3回)
●第1回:退職するまでにどれくらいお金を貯めている? 60歳を迎える人の平均貯蓄額は…
※本稿は、長尾義弘著『とっくに50代 老後のお金どう作ればいいですか?』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
実際、リタイア後の生活費は、毎月どれくらい必要…?――人のことは言えませんが、この調査(第1回参照)の貯蓄額を見ると、お金の面で大変な人はかなり多そうですね。とはいっても、それなりに暮らせるのでは? 年を取ったら、若いときほどお金は使わないでしょうし。
長尾FP:なるほど。では、夫婦2人の老後の生活で、ひと月にお金がどれくらい必要になると思いますか?
――そうですね。それほど使わないだろうと言ってはみたものの、自分の近い将来のことだと想像してみると、やっぱり、それなりの暮らしは維持したいですよね。ぶっちゃけ、いまはひと月30数万円で暮らしています。できれば、同じくらいの生活レベルをキープしたいなあ。
長尾FP:なるほど、そうですか。先ほどの生命保険文化センターの意識調査によると、夫婦2人がゆとりある老後生活をおくるのに必要な金額は月額36万1000円です。
「ゆとり」と考えるのは旅行やレジャー、趣味、教養にかかる費用、それに日常生活費の充実となっています。あなたが希望する生活レベルは、このデータにけっこう近いということです。
――わたしはごく普通の人生をおくってきて、これからもごく普通の感覚で暮らしていきそうですね。あ〜、よかった!
長尾FP:そうなればいいんですけどねえ。この意識調査には、もうひとつの数字も出ています。夫婦2人で老後生活をおくるうえで必要と考える「最低日常生活費」です。これは月額22万1000円になっています。
この程度の収入があれば、余裕はないにせよ、何とかぎりぎりの生活ができるのではないか、というイメージです。
――うーん。でも、ぎりぎりの生活というのは……。せっかく頑張って何10年も働いてきたのだから、老後はそれなりに楽しんで暮らしていきたいなあ、と思うのですが、わたしは甘いのでしょうか。
退職までに2000万円の貯蓄が必要って、やっぱり本当なんですか?――月額36万円や22万円というのは、「これくらいあれば」という意識調査の数字ですよね。老後の生活で、実際に毎月いくらの金額を使っている、というデータもあるんでしょうか。
長尾FP:厚生労働省の家計調査報告に、はっきりした数字が出ています。2020年のデータを見ると、「高齢者夫婦無職者世帯」の収入は月額25万6660円、支出が25万5500円で、毎月1160円の黒字になっています。「無職者世帯」のデータなので、収入とは年金のことだと考えてください。
――へえ、黒字なんですか。さっきの意識調査にあった「ゆとりある老後生活」はできないけれど、「最低日常生活費」よりは数万円のプラスですよね。とりあえず、ほっとしました。年金だけでも、何とか暮らしていけるんですね。
長尾FP:2020年に限っては黒字だった、ということです。この年は新型コロナウイルスが流行した影響で、支出が例年よりもかなり低く抑えられる一方、1人10万円の給付金などもありましたから、じつはあまり参考にはなりません。
その1年前、2019年の同じ家計調査を見ると、だいたい毎月3万円ほどの赤字になっているんですよ。この年のデータがだいたい実情に合っているのではないか、と思います。年金だけでは暮らしていけない、というわけですね。
――毎月3万円の赤字なら、1年で36万円も不足する……。
長尾FP:10年間で360万円が必要になります。老後の生活が30年あるとすれば、トータルで1080万円足りないというわけです。じつは、この厚労省の家計調査は毎年、データがかなり異なっています。
2017年の調査では、毎月5万5000円の赤字という結果が出ました。計算すると、1年で66万円の赤字で、30年間では約2000万円足りないということになります。この「2000万円」という金額に聞き覚えがありませんか?
――あ! 年金だけでは暮らせないから、2000万円の貯蓄が必要だって、大きな話題になりましたね。
長尾FP:そう、いわゆる「老後2000万円問題」です。2017年のデータで見ると、確かに、こうした数字が導き出されます。とはいえ、2020年には逆に黒字になっていますよね。
要するに、老後の暮らしがどうなるのかは、収入と支出とのバランスに尽きます。各家庭や個人の事情、そのときの社会の状況によって変わってくるんです。
なぜ、いまの50代の老後は厳しいんでしょう?――ちょっとおかしい、納得いかないなと思うのが、ひと世代、ふた世代前の人たちは、けっこう楽な老後をおくっていたような気がするんです。これから迎えるわたしたちの老後の暮らしは、なぜ厳しくなるんでしょう。
長尾FP:昔と比べて、いまの現役世代が大変なのは仕方がないんですよ。いまと昔の違いを語るとき、よく例に出されるのが『サザエさん』です。あの国民的アニメに出てくる波平さんは何歳なのか知っていますか?
――「おじさん」というよりも、「おじいさん」という言葉が似合うたたずまいですが、意外と若いんですよね?
長尾FP:ええ、じつはまだ54歳です。昭和の時代の終わり近くまで、会社員は55歳で定年退職するのが一般的でした。
波平さんは定年になる1年前という設定なんですよ。55歳のあなたとほぼ同じ年齢です。
――波平さんの風貌を見るとちょっと信じがたいのですが、一応、わたしのほうが年上なんですね。知り合いだったら敬語使っちゃいそうだなぁ。
長尾FP:波平さんがあれほど高齢者っぽく描かれていたのは、現在と状況がまるで違うからです。昭和30年頃の男性の平均寿命は65歳前後でした。
つまり55歳で定年退職をしたら、そのあと、多くの人はたったの10年ほどで寿命を迎えていたんです。だから、波平さんはあんなに老けていたんですよ。
当時は年金を受け取れる時期も早かったし、多くの場合、退職金もあったでしょう。定年退職後の10年程度なら、ご隠居さんのような暮らし方をしても、何の問題もなく暮らすことが可能でした。
その後、日本人の平均寿命は右肩上がりで延びていきますが、昭和末期でも男性はまだ75歳に届くか届かないか。いまとは老後の長さが違っていたんですよ。
――楽に老後を暮らせたのはうらやましいですが、早く寿命を迎えるというのは困ります……。いまのほうがいいのかなあ。
結局、老後の生活を楽にするには、どうしたらいいんでしょうか…――自分たちの世代はやはり、老後のお金がより多く必要となるんですね。
長尾FP:1年間生きていたら、最低限の暮らしをしても200万円から300万円はかかります。もちろん、ときどきレジャーや旅行を楽しみたいのなら、もっとずっとお金が必要になります。
――贅沢をしなくても、けっこうなお金がかかるでしょうね。
長尾FP:それに老後に必要なのは、生活費とちょっと楽しむためのお金だけではありません。ここのところを、しっかり頭に入れておく必要があります。
年を取ったら、いろいろな病気にかかりやすくなりますし、介護の問題も出てきます。マンションや持ち家に住んでいる場合、10年や20年に1回ほどはリフォームも必要になるでしょう。
そういったプラスアルファの資金は、生活費とは別に用意しておかなければいけません。もしものときの出費を考えておかないと、長い老後生活をおくっていくなかで、間違いなく破綻してしまいますよ。
要するに、長生きすればするほどお金が必要になる、ということです。2020年の日本人の平均寿命を見ると、男性が前年よりも0.23歳延びて81.64歳、女性が0.29歳延びて87.74歳になりました。
――わたしは55歳なので、平均的な寿命をまっとうすると、あと26〜27年の人生があるというわけですね。
長尾FP:平均寿命とは0歳の平均余命のことです。55歳の平均余命は男性が28.58歳、女性が34.09歳なので、あなたの場合、データ上ではもう少し生きて、83〜84歳で天寿を迎えることになります。
しかし、平均寿命は年々長くなっていますので、90歳を超えるまで長生きすると思っていたほうがいいでしょう。
――うちは長寿の家系らしくて、父や母、親族の上の年代が軒並み80代半ばから90代ばかりで、まだみな元気なんですよ。わたしも長生きするんじゃないかな。うれしいことなんですが、お金のことを考えたら……。
長尾FP:楽に暮らすためにはどうすればいいのか、ですよね。答えはシンプルで、長く働くのがいちばんですよ。
寿命が延び、高齢者の数が増えていくのに連動して、会社の定年も延びる傾向にあります。2013年に「高年齢者雇用安定法」が改正され、定年が60歳から65歳へと引き上げられました。
現在は努力義務の経過措置期間ですが、2025年から義務化されることが決まっています。いま50代半ば以下の会社員や公務員は、65歳まで働ける環境が整えられるわけです。
また、2021年には定年を70歳に引き上げることが努力義務になりました。これも数年後には義務化されるでしょう。ごく近い将来、70歳まで働くことが当たり前の社会になるんですよ。
――でも正直なところ、70歳まで働く自分、というのは想像がつきません。ちょっと想定外? って感じですね。
長尾FP:そんな甘いことは言っていられませんよ。長く働くというのはとても大事。老後を楽にするための最大のポイントなんです。
●第3回(何もしなければ、老後は“相当厳しい生活”に…会社員&専業主婦の年金受給額は)では、50代こそ知っておきたい年金の基本的な仕組みについて解説します。
『とっくに50代 老後のお金どう作ればいいですか?』長尾義弘 著
発行所 青春出版社
定価 1,100円(税込)
長尾 義弘/ファイナンシャルプランナー
ファイナンシャルプランナー、AFP、日本年金学会会員。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。新聞・雑誌・Webなどで「お金」をテーマに幅広く執筆。
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