医師が警鐘! 「下流老人」などの言葉に不安を募らせたシニアに広がる“ある病気”
Finasee / 2023年6月16日 11時0分
Finasee(フィナシー)
資産形成をする大半の人の目的は、「老後」の生活のためでしょう。ただ、そうして迎えた“老後”において、心晴れやかに過ごせない人も少なくないと精神科医の保坂隆氏は指摘します。また、現在配偶者やパートナーがいる人も、独居老人――つまり「おひとりさま」になる可能性があることを念頭に置いておくべき、とも。
話題の書籍『老いも孤独もなんのその「ひとり老後」の知恵袋』では、孤独や寂しさとは縁遠い豊かな「ひとり老後」を過ごすための準備について、保坂氏がやさしくアドバイスを送ります。今回は本書冒頭の『はじめに』と第3章『今あるお金とうまくつきあっていく』の一部を特別に公開します。(全3回)
※本稿は、保坂隆著『老いも孤独もなんのその「ひとり老後」の知恵袋』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
実は老後のシングルライフには夢があふれている独居老人、つまりひとり暮らしの高齢者が増えています。
内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると、1980年には男性約19万人、女性約69万人だった65歳以上のひとり暮らしは、2020年には男性約230万人、女性約440万人にまで増加しています。
この数字はさらに大きくなり、2040年には男性約360万人、女性約540万人になると予測されています。約20年後には65歳以上の高齢者の4~5人に1人がひとり暮らしになるのです。
人生百年時代を迎え、「シニアといわれるようになってからをどう生きるか」が大きなテーマになりつつあります。さらに言えば、「ひとり暮らしになってからどう生きるか」は、ますますクローズアップされてくるでしょう。
妻または夫との死別、熟年離婚、子供たちの独立などなど、ひとりになる理由はさまざまでしょうが、備えあれば憂いなし、“その日”に備えて心の準備をしておく必要があります。
実際、ご主人に先立たれ、心にポッカリと空いた穴を埋められずに、うつ状態になってしまった方もいます。奥さんや子供に出て行かれ、孤独感にさいなまれ、すべてのやる気を失ってしまった方もいます。
そうならないためには一に準備、二に準備です。
この記事は、すでにひとり暮らしを始めている方、これからひとり暮らしになる予定の方、あわよくばひとり暮らしをしてみたいと目論む方が主な対象です。心の準備のしかた、近隣の人たちとのコミュニケーションの取り方、毎日の生活の心得、衰えゆく脳をどう活性化させるか、といったことを精神科医の立場から書かせてもらいました。
これまでの人生では、自分の意のままにならないこともあったかもしれません。こうすればよかったという後悔もあるかもしれません。そうした思いは、これからの人生ですべて払拭できるのです。
まさにゼロからのスタート。それがひとり老後です。これからは何から何まで、すべてを自分で決めることができます。若い頃、夢見ていたことにチャレンジするのもいいでしょう。かつて挫折したことに再挑戦することもできるのです。
「ひとり老後」というと、誰とも関わりを持たない、寂しいイメージを抱いていませんか。しかし、断言しておきますが、そのイメージは間違っています。
考えてみてください。これからは現役時代の責任と束縛から解放され、限りない自由が楽しめるのです。医療の発達で寿命も伸びました。高齢者と呼ばれる人でも、昔と比べるとはるかに健康で若いのです。
しかも、ひとり暮らしでは、残されたたっぷりの時間を誰に遠慮することなく、自分のためだけに使えるのです。こんな幸せなことはないでしょう。明日からのことを思い浮かべるだけでワクワクしてきませんか。
どうぞ、生き生きとしたシングルライフを手に入れてください。
お金の心配はするだけ無駄言うまでもなく、生きていくにはお金が必要です。寿命は伸びる一方だし、健康の問題もつきまといます。この先、必要とされる金額はますます増えていくでしょう。預貯金がいくらあっても、不安の気持ちをぬぐえないのはよくわかります。
テレビや雑誌では「老後を豊かに暮らすためには1億円が必要」などという信じられないような金額が出現するので、不安はさらに加速されます。
しかし、ことわざにもあるように「無い袖は振れぬ」。お金はあるだけしか使えませんから、無駄な心配をしてもしかたないのです。
実は、シニア世帯の貯蓄額の平均は、1億円とはほど遠い1563万円です。しかも、この平均値は一部のお金持ちによって底上げされています。中央値(貯蓄額を多い順か少ない順に並べた際、真ん中に位置する金額)は450万円ですし、貯蓄がまったくない世帯も全体の約5分の1に及んでいます(金融広報中央委員会が毎年1回調査している「家計の金融行動に関する世論調査2021年」より)。
そもそも、自分が何歳まで生きられるかなんて誰にもわかりません。「1年に○○万円必要だから、〇〇万円×△△年(残り寿命)で……」と計算しても、たいして意味はないのです。
意味もないことで心配するのは時間の無駄です。心配すればするほど心身に悪影響が出て、病院にかかることになるかもしれません。そんなことになれば、ますますお金が必要になって、不安がふくらみます。
負のスパイラルに巻き込まれる前に開き直ることをおすすめします。
経済的不安とどう向き合うか別の角度から、さらにこの問題を見ていきましょう。「高齢者」と呼ばれる年代になると、ひとり暮らしだろうと家族がいようと、経済的な不安がつきまといます。
それに輪をかけているのが数年前からテレビや週刊誌などで見かけることがやたらに多くなった「下流老人」や「老後破産」といった言葉です。こうした言葉がシニアの不安感を必要以上に煽っているように思えてなりません。
シニアが不安を募らせすぎると、「もうダメだ」と悲観して、うつになる心配があります。
老人性うつは増加の一途をたどっています。その伸び率が「下流老人」「老後破産」という言葉で拍車をかけてしまう可能性が高くなると考えられます。
しかし、こうした言葉から生まれる「悲観」は、単なる思い込みであることが珍しくありません。リタイア当初に考えた10年、20年先のことが実際に起こるかどうかなんて誰にもわからないのですから。
ところが「悲観」にとらわれがちな人は、「貯蓄は300万円しかないし、年金も年に100万円あるかないか。これでは暮らしていけない……」などと考えてしまいます。このような悲観的な考え方が高齢者のうつを誘発するのです。
では、どうすれば老人性うつにならずにすごせるのでしょうか。
あれこれ将来を考えすぎないことです。
とくにシニアの仲間入りをしたばかりの人は頑張りすぎるきらいがあります。「考えすぎない」くらいでちょうどいいと思うのです。
未来は誰にもわかりません。自分が何歳まで生きられるかもわかりません。「神のみぞ知る」の世界なのです。
厚生労働省によると、年金だけで生活している高齢者は2019年調査では約半数(48.4%)いましたが、2022年9月の公表された「2021年 国民生活基礎調査の概況」では24.9%と半減しています。
しかし、この数字は「年金だけで食べていける人が減った」というよりも、「年金をもらいながら仕事をしている人が増えている」結果と考えられます。その根拠となるのが、政府が推奨している、定年延長などで70歳までの就業確保です。
そうでなくても、以前よりは再就職先は見つかりやすくなっているでしょう。賃金は現役時代より大幅に減るでしょうが、それでも年金だけではないのです。
ポジティブな考え方が身につけば、老人性うつとは無縁になります。そして、より楽しく平穏なひとり老後をすごせるようになるでしょう。
●第2回(親戚で揉めまくる事態にも…“子どものため”に残したお金が引き起こす悲劇とは)では、自身でお金を使うことを控え、多くの遺産を残す問題点について解説します。
『老いも孤独もなんのその「ひとり老後」の知恵袋』保坂隆 著
発行所 明日香出版社
定価 1,485円(税込)
保坂 隆/精神科医、保坂サイコオンコロジー・クリニック院長
慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、現職。近著に『70代でも元気に歩ける ゆるウォーキングのコツ』(三笠書房)、『精神科医が教える こじらせない心の休ませ方』(だいわ文庫)など。
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