親戚で揉めまくる事態にも…“子どものため”に残したお金が引き起こす悲劇とは
Finasee / 2023年6月16日 11時0分
Finasee(フィナシー)
資産形成をする大半の人の目的は、「老後」の生活のためでしょう。ただ、そうして迎えた“老後”において、心晴れやかに過ごせない人も少なくないと精神科医の保坂隆氏は指摘します。また、現在配偶者やパートナーがいる人も、独居老人――つまり「おひとりさま」になる可能性があることを念頭に置いておくべき、とも。
話題の書籍『老いも孤独もなんのその「ひとり老後」の知恵袋』では、孤独や寂しさとは縁遠い豊かな「ひとり老後」を過ごすための準備について、保坂氏がやさしくアドバイスを送ります。今回は本書冒頭の『はじめに』と第3章『今あるお金とうまくつきあっていく』の一部を特別に公開します。(全3回)
●第1回:医師が警鐘! 「下流老人」などの言葉に不安を募らせたシニアに広がる“ある病気”
※本稿は、保坂隆著『老いも孤独もなんのその「ひとり老後」の知恵袋』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
身の丈に合ったお金の使い方をしようお金についての考え方や使い方は千差万別です。テレビや雑誌を見ていると、お金を贅沢に使っていると自慢する人もいれば、ただ単に、いかにお金がないかを誇らしく語る人もいます。
とくに貧乏自慢は今の世の中にけっこう根づいているようで、「うちなんか、毎月、家計は火の車よ。最近では家計簿をつけるのも嫌になっちゃった」「貧乏ヒマなしで毎日頑張っているのに、ちっとも楽にならない」などといった声をよく耳にします。
基本的に、日本人は自分の立場を謙遜して言うことが多いからか、大げさな表現になってしまいがちですが、「ぜんぜんお金がない」「貯金ができない」「やりくりが大変だ」といった貧乏アピールが、反発を招くことはあまりありません。
むしろ、「苦しいのはお互いさま」といった共感を得られるかもしれません。よほど大げさでない限り、受け入れられるのではないでしょうか。
問題なのは、その人の身の丈に合っていないお金の使い方や、見栄を張った消費行動です。ちょっと格好をつけて、セレブなライフスタイルを気取ってみたい気持ちは多くの人にあるのでしょう。
実際、高齢者の中にも、いわゆる“インスタ映え”を狙っているのか、SNSに華美すぎる画像をアップさせている方が少なからずいらっしゃいます。雑誌やネットで話題の店の限定商品を先取りしたり、気前よく後輩や同僚に食事をおごったり、小さな優越感を楽しむのは時にはいいでしょう。
でも、「人にどう見られるか」を基準にしたお金の使い方は、あまり感心できるものではありません。とくにある程度の年齢になれば、流行やモノの値段に関係なく、買うものはそれなりのポリシーと自信を持って選びたいものです。
「ふだんは質素に暮らしていても、お茶だけはいいものを選びたい」
「着るものはそんなにお金をかけないけど、靴だけは質にこだわりたい」
など、自分の感性を生かした消費は、格好をつけているとはいいません。むしろ、お金の使い方にメリハリをつけて、倹約と楽しみをうまくミックスするのは、大人の賢い生活術といえます。
たとえば、セールで買った安いスカーフでも、上手に着こなせたら、何万円もするブランド物を買うより、ずっと素敵に見えるのではありませんか。
着こなし方のセンスを磨いていけば、安い品物でも「品のよい物」のように見せたりもでき、生活に新たな楽しみが生まれることでしょう。
子供のためにお金を残す必要はあるのか「地獄の沙汰も金次第」ということわざがあります。
一般的には「閻魔様のお裁きも金の力でなんとかなる」といった意味合いとされていますが、実際はそうではなく、「村の長者が亡くなった。本来、彼は地獄へ行くはずだったが、死ぬ直前にすべての財産を村人たちに分け与えたことから、天国へ行くことができた」という昔話に由来しているそうです。
また、「いくらお金を持っていても天国に行けるとは限らない。天国へ行きたいなら、お金は生きているうちによいことに使うべき」という意味だという説もあります。
正しいのはどちらなのか、私の知るところではありませんが、少なくともシニアには後者の意味を嚙みしめてもらいたいと思います。
お金が余っているのなら慈善団体に寄付を……とまでは言いませんが、あの世にお金を持って行けるわけではありませんから、生きているうちに有意義に使い切りたいものです。
ときたま、粗末な暮らしをしていた高齢者が亡くなった後に、自宅から驚くほどの大金や高額な美術品が発見されたというニュースを耳にすることがあります。
好きこのんで質素な暮らしをしていたのなら、それはそれで満足のいく人生だったかもしれませんが、金品を溜め込んで、それを守ることだけに腐心し、粗末な暮らしを余儀なくされていたのだったら、その人の人生は満ち足りていたとはいえないでしょう。
私の周辺にも似たような話があります。これは後輩のドクターから聞いた話です。彼の義父は遠方に住んでいたこともあって、彼とはあまり交流がありませんでしたが、質素な人だったそうです。いつも擦り切れたような服を着ていて、質素というよりも貧しいといったほうがぴったりの人だった、と彼は言います。
「ぼくは何度か『援助しましょうか』と言ったのですが、受け入れてもらえませんでした。どうしてだろう。そんな意固地にならなくてもいいのに……と思いましたが、援助を断った理由が義父が亡くなった後でわかりました」
一人娘である彼の奥さんが遺品を整理していたところ、億を超える預貯金があることがわかったというのです。
「通帳の近くには『娘へ』という義父のメモ書きがありました。それはぼくも見ています。でもそれは遺言としては通用しませんよね。現に今、親戚の間でそのお金のことで揉めまくっていて、妻は大変な思いをしています」
「子供のため」と思って残したお金がもとで骨肉の争いが起こるとは皮肉としか言いようがありません。
後輩ドクターが話してくれたこの例からもわかるように、「子供のため」と思って爪に火をともすような生活を送っていても、その思いが子に伝わるとは限りません。また、伝わったとしても、その人がすんなりと遺産を手にできるとは限りません。
むしろ子供は、親が生きているうちに最大限人生を楽しんでくれることを望んでいるのではないでしょうか。「子供のため」という気持ちは捨てて、お金も時間も有意義に使いきってしまったほうがいいのかもしれません。
相手が孫だとしても、それは変わりません。
●第3回(人間関係にも悪影響が…お金をケチる中でも“絶対にタブー”なことは)では、老後“真の意味で”大切なものは何か、そこに対してお金を“ケチる”デメリットを解説します。
『老いも孤独もなんのその「ひとり老後」の知恵袋』保坂隆 著
発行所 明日香出版社
定価 1,485円(税込)
保坂 隆/精神科医、保坂サイコオンコロジー・クリニック院長
慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、現職。近著に『70代でも元気に歩ける ゆるウォーキングのコツ』(三笠書房)、『精神科医が教える こじらせない心の休ませ方』(だいわ文庫)など。
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