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国産ロケットはなぜ飛ばない?日本の宇宙産業が世界に出遅れる理由

Finasee / 2023年6月18日 11時0分

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Finasee(フィナシー)

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先日上場したispace(アイスペース)が話題です。国内初の本格的な宇宙開発ベンチャーの上場ということで投資家の関心が集まり、公開価格(254円)の約3.9倍となる1000円の初値を付けて上場デビューを果たしました。月面着陸失敗のニュースから株価は急落したものの、将来の成長性に期待を寄せる声は少なくありません。

【アイスペースの株価】

Yahoo!ファイナンスより著者作成

宇宙関連ビジネスの市場規模は拡大が見込まれていますが、日本は欧米と比べると出遅れているといわれています。過去には開発を断念し、経営破綻に追い込まれた企業もあります。「ギャラクシーエクスプレス」はその代表的な例で、2010年6月18日に特別清算が開始されました。

「事業仕分け」で国産ロケットが頓挫

ギャラクシーエクスプレスはIHIの子会社で、官民共同の国産ロケット「GXロケット」の開発を手掛けていた企業です。初の国産ロケットである「H-IIロケット」が燃料に液化水素を利用していたところ、GXロケットはLNG(液化天然ガス)を採用したところに大きな特徴がありました。

LNG燃料は、液体水素と比べると宇宙空間での貯蔵性に優れ、また漏洩や爆発といった危険性が低いという特徴があります。イーロン・マスク氏のスペースXが手掛ける大型ロケット「スペースシップ」にも、LNGエンジンが採用されました。

最新のエンジンを搭載しその試験もおおむね順調だったGXロケットですが、政府は2009年に開発の取り止めを発表します。開発しても国内の需要が見込めないこと、また価格面からアメリカ政府などからも受注する見通しが立たないことから、事業仕分けの対象となってしまいました。日本の宇宙産業の市場規模が諸外国のように大きければ、GXロケットの開発は続いていたかもしれません。

【国別、航空宇宙工業生産の売上高(2009年)】

日本航空宇宙工業会「航空宇宙産業データベース(2022年8月)」より著者作成

国が手を引いたことでギャラクシーエクスプレスの事業見通しも立たなくなり、親会社のIHIは同社を2010年3月に解散させました。それに伴い、IHIは100億円以上の特別損失を計上することになります。

宇宙開発企業が初めて上場。実力は?

ギャラクシーエクスプレスは残念ながら清算されてしまいましたが、冒頭紹介したアイスペースの調子はどうでしょうか。

アイスペースは2010年9月に設立された企業です。2013年7月にグーグルがスポンサーとなって開催された世界初の月面調査探査レース「Google Lunar XPRIZE」に日本から唯一参加し、宇宙ビジネスに本格的に進出しました。同レースでは同社の月面探査車が評価され表彰されています。その後、ルクセンブルクと月開発に関する覚書の締結や、NASAに月面輸送サービスのチームに選任されるなど、月の開発において確かな実績を残してきました。

これらもあり、アイスペースの売上高は順調に成長しています。ただし先行投資が続いており、純損失は年々拡大してきました。もっとも、宇宙ビジネスの将来性に期待する投資家は、足元の赤字にはそれほど関心を示さないかもしれません。

【上場前のアイスペースの売上高および純損益】

ispace(アイスペース)「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」より著者作成

アイスペース株式への投資の注意点として、増資による希薄化が指摘されています。同社は2022年7月にシンジゲートローンで約50億円を調達していますが、これには財務制限条項が付されており、抵触すれば一括返済を求められる可能性があります。うち「純資産を正の値に維持すること」とする条項には既に抵触しており、「現預金を30億円以上に維持すること」と定めた条項にも肉薄しています(2023年3月末時点)。

【貸借対照表上の純資産と現預金の額(2023年3月末時点)】
・純資産:-23.5億円
・現預金:33.8億円

出所:ispace(アイスペース) 2023年3月期決算短信

アイスペースによると、同社はシンジゲート団から2023年3月期時点では同条項を行使しない旨の確約を得ていますが、将来も同様の合意を得られる保証はありません。このため、アイスペースは財務制限条項への抵触を避ける目的で将来増資を行う可能性が指摘されています。

増資に伴って株数が増加すれば1株あたりの価値が薄まり、短期的には株価の下落要因として働くでしょう。もちろん、増資に成功すれば財務制限条項に抵触する可能性が低くなるわけですから、これが好感されれば株価は上昇するかもしれません。

【アイスペースの業績】

※2024年3月期(予想)は、2023年3月期時点における同社の予想

出所:ispace(アイスペース) 2023年3月期決算短信

市場規模100兆円が見込まれる宇宙ビジネス

最後に宇宙ビジネスの市場規模について押さえておきましょう。経済産業省は宇宙産業プログラムの評価検討会において、モルガン・スタンレーの調査を引用し2040年までに宇宙ビジネスの市場規模は100兆円規模になると紹介しました。これは25年で約3.14倍、年率では毎年およそ4.7%ずつ成長する計算です。

【世界の宇宙産業市場規模】

モルガン・スタンレーより著者作成

国は国内の宇宙産業を支援するため、2030年代までに国内の市場規模を1.2兆円から2.4兆円へ倍増させる「宇宙基本計画」を閣議決定しました。政府の後押しで国内市場が盛り上がれば、アイスペースに続く宇宙ベンチャーが誕生するかもしれません。

執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。

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