就活生人気No.1 ソニーグループ賃上げの理由とプレステ誕生秘話
Finasee / 2023年5月23日 17時0分
Finasee(フィナシー)
・「敵に回してはいけない」任天堂法務とユニバーサル・スタジオの因縁
日本経済新聞社とマイナビが共同で発表した2024年卒の大学生・大学院生の就職人気ランキングで、「ソニーグループ」が理系の1位となりました。ソニーグループの首位は2年連続で、抜群の知名度や人材投資に積極的な姿勢が評価されているとみられています。2023年3月には大幅な賃上げも発表しており、今後はますます人気を集めそうです。
ソニーグループはどのような企業なのでしょうか。過去のエピソードや現在の事業から、同社の魅力に迫ってみましょう。
「設立趣意書」の精神が息づくユニークな人事制度ソニーグループは世界で10万人以上が働く巨大企業ですが、同社が大きく成長できた理由として、人材をうまく活用してきたことがよく指摘されます。ソニーグループには独自の人事制度があり、社員の能力を生かしながら事業を拡大してきました。
代表的なものが「社内募集制度」です。これは部署やプロジェクトが社内向けに人材を公募し、社員であれば所属にかからわず、しかも上司の許可なく誰でも応募できるユニークなものでした。ソニーグループによると、社内募集制度は人事開発室が新設された1966年に取り入れられ、現在まで7000人以上が利用したそうです。
ソニーグループでは他にも独自の人事制度を採用しており、社員の流動的な活用を促してきました。これは、ソニーグループ設立当初の精神が反映されているといわれています。
ソニーグループの前身である「東京通信工業」は1946年に設立されました。このとき、創業者の1人である井深大(いぶか・まさる)氏によって起草されたのが「東京通信工業株式会社設立趣意書」です。
この設立趣意書には、経営方針として「従業員は(中略)形式的職階制を避け、一切の秩序を実力本位、人格主義の上に置き個人の技能を最大限度に発揮せしむ」と明記されています。つまり、社員は所属や階級などによらず、実力主義で評価すべきだと示しているのです。ソニーグループの人事制度は、まさにその精神を受け継いたものだといえるでしょう。
【東京通信工業株式会社設立趣意書(経営方針)】
一、不当なる儲け主義を廃し、あくまで内容の充実、実質的な活動に重点を置き、いたずらに規模の大を追わず
一、経営規模としては、むしろ小なるを望み、大経営企業の大経営なるがために進み得ざる分野に、技術の進路と経営活動を期する
一、極力製品の選択に努め、技術上の困難はむしろこれを歓迎、量の多少に関せず最も社会的に利用度の高い高級技術製品を対象とす。また、単に電気、機械等の形式的分類は避け、その両者を統合せるがごとき、他社の追随を絶対許さざる境地に独自なる製品化を行う
一、技術界・業界に多くの知己(ちき)関係と、絶大なる信用を有するわが社の特長を最高度に活用。以(もっ)て大資本に充分匹敵するに足る生産活動、販路の開拓、資材の獲得等を相互扶助的に行う
一、従来の下請工場を独立自主的経営の方向へ指導・育成し、相互扶助の陣営の拡大強化を図る
一、従業員は厳選されたる、かなり少員数をもって構成し、形式的職階制を避け、一切の秩序を実力本位、人格主義の上に置き個人の技能を最大限度に発揮せしむ
一、会社の余剰利益は、適切なる方法をもって全従業員に配分、また生活安定の道も実質的面より充分考慮・援助し、会社の仕事すなわち自己の仕事の観念を徹底せしむ
引用:ソニーグループ 設立趣意書
「プレイステーション」は任天堂との決裂で生まれた2020年、「任天堂プレイステーション」と称された1台のゲーム機が36万ドル(約3800万円)もの高値で落札されました。「プレイステーション」は言わずと知れたソニーグループの看板ゲーム機で、当然ライバル企業である任天堂のものではありません。なぜ任天堂を冠したプレイステーションが存在するのでしょうか。
その背景には、プレイステーション誕生にまつわるエピソードが関係しています。実はプレイステーションは、もともと任天堂とソニーが共同でリリースするはずのゲーム機でした。上述の「任天堂プレイステーション」は、この頃の試作品の1つだとみられています。
任天堂がゲーム業界を席巻していた1990年、ソニーと任天堂は新しいフォーマット対応のゲーム機を開発することで合意します。「スーパーファミコン」や「ゲームボーイ」など、当時の人気ゲーム機はカセット式が主流だったところ、両社はCD-ROMに対応するゲーム機を目指しました。
しかし、この提携は土壇場で破棄されたため、両社が開発したゲーム機が世に出されることはありませんでした。試作品も完成し、記者会見での発表も間近に控えていた1991年、任天堂は一方的に提携の解消を申し出たのです。
離縁状を突き付けられたソニーは、ゲーム開発からの撤退も検討します。国内のゲーム業界は任天堂の独壇場であり、エレクトロニクス企業のソニーがそこへ進出することは簡単なことではありませんでした。このとき、ソニーがゲームから手を引いていても、誰も不思議には思わなかったでしょう。
しかしソニーは開発を諦めませんでした。自社でゲーム機を開発し、1994年にCD-ROM対応のゲーム機として「プレイステーション」をリリースします。この判断がなければ、プレイステーションは誕生しなかったかもしれません。プレイステーションは世界的にヒットし、現在ではゲーム事業が同社の最も大きな収益源となっています。
【ソニーグループのセグメント状況(2022年3月期)】
出所:ソニーグループ 2022年3月期決算短信
次のドライバーはソフトビジネスソニーグループは音楽や映画事業などでさまざまな知的財産を抱えています。その帳簿上の評価額を示すコンテンツ資産は、2022年末時点で1兆5000億円を突破しました。これは金融分野を除けば、同社が持つ非流動資産で最も大きい割合を占めています。
【ソニーグループのコンテンツ資産】
出所:ソニーグループ 決算短信より著者作成
【コンテンツ資産の内訳(2022年3月末時点)】
繰延映画製作費:4534.77億円
テレビ放映権:1012.18億円
ミュージック・カタログ:7047.90億円
アーティスト・コントラクト:152.43億円
音楽配信権:340.61億円
その他:332.57億円
合計:1兆3420.46億円
ソニーグループは家電やゲーム機といったハードウェアから、サービスや音楽・映像などのコンテンツといったソフトウェアで稼ぐ企業へと変貌しています。2022年5月の経営方針説明会でも、「人の心を動かす事業」と銘打ち、コンテンツIP(知的財産)への投資で事業を拡大する方針を示しました。
ハードウェアは売り切り型のビジネスモデルですが、ソフトウェアは継続的な収益が見込めます。ソニーグループの今後は、ソフトウェア事業にかかっているといえるでしょう。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
Finasee編集部
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