絶縁した父と再会、「拘束された姿」見た姉が一変…見事な手の平返し
Finasee / 2023年6月9日 11時0分
Finasee(フィナシー)
烏丸珠樹さん(仮名)は幼少期に酒乱の父親から虐待を受けていた。ある時、限界を迎えた一家は父親をおいて着の身着のまま家から逃げ出し、別居後は一切連絡を取らなかった。
それから三十数年、それぞれが家庭を築き幸せに暮らしていたところ、“いとこ”と名乗る男性が烏丸さんを訪ねてきた。父親は入院していて介護が必要な状態だと言う。
父との再会をきっかけに起こった“お金の問題”とは、一体何だったのか。
酒乱の父親四国地方在住の烏丸珠樹さん(50代・既婚・IT系会社員)は、現在、車で5分くらいのところに一人で暮らす88歳の母親を通い介護している。
船員をしていた父親は、半年ほど仕事で家を空けては、20日程度の休暇で家に帰ってくる生活を送っていたが、酒を飲むと暴れる人だった。
父親の機嫌が良いのは帰宅した日の夜まで。翌朝から酒を飲み、酔いが回ると暴言と暴力をふるい始める。ターゲットは専ら母親と烏丸さんだった。1歳上の姉は父親にかわいがられており、ほとんど危害を加えられることはなかった。
烏丸さんが高校2年生になったある日、休暇でもないのに父親が突然帰ってきた。母親に聞くと、父親は上司とけんかをして、そのまま退職してしまったのだと言う。これが烏丸さんと母親にとっての、地獄の始まりだった――。
朝から酒を飲んでは、少しでも気に入らないことがあるとすぐに暴力をふるい始める。烏丸さんは、何がトリガーになるか分からず、おびえて暮らさなければならなかった。
烏丸さんをかばう母親はもっとひどい扱いを受けた。素手で殴るだけでなく、物で殴ることもある。母親がガラスの灰皿を投げつけられた時は、頭に当たり出血がひどかったため、病院を受診した。
父親が仕事を辞めてから2〜3カ月たったある夜、母親と姉と烏丸さんで家を出た。着の身着のままで伯父(母親の兄)の家に転がり込んだ。
離婚調停烏丸さんたちは2カ月ほど伯父の家で暮らしたが、母親とすでに社会人になっていた姉が家を見つけてくると、3人で引っ越した。
母親は父親が押しかけてくることを恐れ、父親に自分たちの居場所を知られないよう努めつつ、伯父に間に入ってもらい離婚に向けて話し合いを進めた。
調停も起こしたが、父親は一向に離婚に応じなかった。その頑固さは、調停員もあきれて「あんな人だと、本当に大変だったでしょう?」と同情してくれたほどだった。
やがて、父親は伯父に復讐をほのめかすようになった。自分たちだけでなく伯父にまで危害が及ぶことを恐れた母親は、離婚を諦め別居のまま暮らしていくことにした。
それから父親とは音信不通だ。母親と姉と3人、貧しいながらも穏やかに暮らし、時が流れた。
父親の病状あれから三十数年後。
烏丸さんは結婚し、夫婦2人で暮らしていた。姉も結婚し、2人の子どもを産み育て、4人の孫にも恵まれていた。母親はしばらく伯父の運送会社を手伝っていたが、74歳で退職し一人暮らしをしていた。
そんな頃、烏丸さんのいとこだと名乗る男性が烏丸さんの姉の居場所を探し当て、コンタクトを取ってきた。約7年前のことだ。男性は烏丸さんの父親の姉の息子だと言った。
いとこによると、現在父親は、
・要介護5で入院中
・水頭症で認知症もある
・今後、命に関わる選択もあるので、医師から「親族を探せ」と言われている
・入院してまもなく3カ月たつので、「転院しろ」と言われているが、胃ろうにすればさらに3カ月は入院させておける
という状況だった。
いとことしては、
・父親が烏丸さんたちにどんなことをしてきたかは知っている
・ずっといとこが面倒を見ていたが、いとこの母親(父親の姉)も認知症になり、これ以上見続けることが難しくなってきたため、やむを得ず居場所を探した
という事情があった。
烏丸さんと母親は、今更父親の面倒を見る気はみじんもなかった。そしてこの時は姉も、「私も見るんは絶対嫌よ! 今更何言いよるんじゃろ!」と憤慨していた。
いとこからは、「病院からも親族を探すよう言われているので、一度でいいから会ってやってくれ」と頼み込まれた。烏丸さんは「いとこの面子もあるだろう」とおもんぱかり、姉と2人で会うことにした。
父親との再会・死別父親は病院でも暴れ、医師や看護師に手を上げることもあるため、厳重に拘束されていた。烏丸さんとは目も合わせようともしなかった。
そんな父親を見て烏丸さんは、「あの暴君が哀れなもんだな」と思いはしたものの、それ以上感情が動くことはなかった。しかし姉はひと目見た途端、一瞬で雪解けしたようだ。涙を流し、父娘の再会を喜んでいた。
父親との再会後、姉は病院の説明に応じ、いとこに頭を下げ、「あとは私が見ます」と言った。
「人って、こうもあっさりと手のひらを返せるものだろうかと思いました。ほんの1〜2時間前に、私と母の前で言っていたことと、やっていることが全く違うのですから。姉は私のことを『冷たい』と言いますが、私や母から見れば、父は鬼か悪魔にしか見えません。私は、父による自分に対しての暴力や暴言はもちろんですが、母に対しての暴力や暴言をどうしても許せませんでした」
当時、父親は退院期限が迫っているにもかかわらず、その後の受け入れ先が決まっていなかった。
「胃ろうはせず、父をいとこに戻そう」というのが、烏丸さんと母親の意見だったが、姉は胃ろうを独断。それによって入院期間が3カ月延長されたため、その間に特養を探して入居させた。その3年後、父親は89歳で亡くなった。
●父が遺したのは家とわずかな現金。相続の話し合いは円満に終わったかと思われたが……。続きは、後編【「家賃収入は半々」姉が約束を破り母困窮…認知症のケア足りず徘徊も】で解説します。
旦木 瑞穂/ライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。グラフィックデザイナー、アートディレクターを務め、2015年に独立。グラフィックデザイン、イラスト制作のほか、家庭問題に関する記事執筆を行う。主な執筆媒体は、プレジデントオンライン『誰も知らない、シングル介護・ダブルケアの世界』『家庭のタブー』、現代ビジネスオンライン『子どもは親の所有物じゃない』、東洋経済オンライン『子育てと介護 ダブルケアの現実』、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」など。
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