iDeCo・マッチング拠出。自分にとってベストな制度の選び方
Finasee / 2023年5月30日 11時0分
Finasee(フィナシー)
企業型DCの活用とiDeCo、どっちを選ぶ?
確定拠出年金(DC)には、企業型と個人型の2種類があり、以前は加入対象者が区別されていました。
2002年の個人型DC開始から長らく、企業型DCのある企業の加入対象者(選択制で加入者を選択していない場合でも)は、個人型DCの加入者になれない状況が続きました。
その後、2017年の制度改正では個人型DCの対象範囲が広がり、着実に加入者が増加しました。2020年以降の具体的な数字を見ると、個人型DC(iDeCo)加入者数は1年あたり平均で40万人増加し、企業型DCの1年あたりの増加数・平均31万人を上回っています。
そして2022年5月にはiDeCoの加入可能年齢が65歳まで引き上げられ、国民年金の任意加入被保険者も加入者を選択できる(掛金拠出ができる)ようになりました。その5ヵ月後の10月には、企業型DCの加入者であっても、iDeCoへの掛金拠出が可能になっています(企業型DCでマッチング拠出をしていない場合)。
制度改正は、個々人の選択肢の拡大をもたらす一方、制度の複雑化にもつながっています。以下ではケースを設定して、判断ポイントについて考えてみましょう。
企業型DCのマッチング拠出をやめてiDeCoを選択すべき?【ケース1】Aさんの場合
・30代
・確定給付企業年金(DB)あり
・企業型DCあり:事業主掛金8,000円/月
・企業型DCマッチング拠出可能:拠出上限額8,000円※/月まで拠出中
Aさんは、企業型DCのマッチング拠出を続けるか、iDeCoの掛金拠出を始めるか、を迷っています。
ポイント1 掛金拠出の余裕があるかどうか
マッチング拠出もiDeCoへの掛金拠出も、所得税・住民税の所得控除が大きなメリットです。Aさんの場合、iDeCoの拠出限度額は1.2万円のため、マッチング拠出よりもiDeCoのほうが月4,000円、年間で4.8万円多く拠出できます。その結果としての節税効果は、iDeCoのほうが7,000円程度大きくなります(所得税5%、住民税10%の場合)。マッチング拠出の8,000円よりも多く拠出する余裕があるのであれば、iDeCoも選択肢となります。
ポイント2 コストから判断する
iDeCoは制度運営に関する手数料が本人負担です。一方、Aさんが勤務する企業では、企業型DCの各種手数料は事業主(会社)負担です。手数料面では企業型DCのほうにメリットがあります(iDeCoの手数料は金融機関によって異なりますが、野村のiDeCoの場合は月171円・税込)。また、手続き面でもiDeCoよりもマッチング拠出のほうが手軽です。マッチング拠出は、拠出時点で税のかからないお金として処理されているため、税の手続きをご自身で行う必要がありません。iDeCoは多くの企業で本人払い(銀行口座からの引き落とし)のため、税優遇のためには年末調整(もしくは確定申告)が必要です。一方、年末調整や確定申告により税の還付があるほうが「お得感」があるという考え方もあります。
ポイント3 将来的に企業型DC掛金が増えるかどうか
Aさんの現在の事業主掛金は8,000円ですが、勤続10年目以降は掛金額が1万円に上昇し、15年目以降は1.3万円に上昇します。そのため、将来的にはマッチング拠出できる金額の上昇が想定されます。
ポイント4 2024年12月の法律改正
DBのある企業にお勤めの場合、2024年12月の法律改正の影響も考慮しましょう。
2024年12月以降は、DC(企業型DC、iDeCoとも)の拠出限度額は他制度掛金相当額(DBの掛金相当額)が影響します。具体的には、5.5万円から他制度掛金相当額を引いた金額が拠出限度額となります。
Aさんが勤務する企業では他制度掛金相当額が4万円のため、DCの拠出限度額は1.5万円となります。ただし、企業型DCには経過措置があるため、経過措置の間は2.75万円が活用できます(経過措置は企業がDC・DBの給付に関する変更を行うと終了)。一方でiDeCoは経過措置の対象外のため、AさんがiDeCoに1.2万円を拠出できるのは2024年12月拠出(引き落とし)分までとなります。それ以降は、1.5万円から事業主掛金を引いた金額がiDeCoの拠出上限額となります。
※マッチング拠出(本人掛金)は、企業の負担する掛金(事業主掛金)以下、かつ本人掛金と事業主掛金をあわせて拠出限度額(DB有5.5万円、DB無27,500円いずれも月額)以下、という限定があります。そのため、Aさんの場合マッチング拠出の上限額は8,000円となります。
マッチング拠出は意外に使われていない?マッチング拠出が可能な人は、企業型DC加入者の半数である389万人(企業型DC規約にマッチング拠出が定められている企業の加入者)ですが、実際に利用しているのは131万人です。これは活用可能な対象者の34%、全加入者数の17%にすぎません。マッチング拠出のメリットが十分に認識されていない、ということも想定されます。
なお、iDeCo加入者のうち会社員は150万人で、マッチング拠出利用者を上回っています(他の企業年金制度ありは28.5万人、他の企業年金制度なしは121万人)。
少額からスタートするなら企業型DCのマッチング拠出【ケース2】Bさんの場合
・20代
・確定給付企業年金(DB)あり
・企業型DCあり:事業主掛金6,500円/月(加入者全員一律)
・企業型DCマッチング拠出可能:拠出上限額6,500円/月
Bさんは入社時に「マッチング拠出ができる」と説明を受けました。よくわからなかったので、とくに何もしていません。毎月の給与は生活費として使い切っており、賞与でやっと余裕資金ができる、という状況です。
ポイント1 いま使えるお金か将来的なお金か
マッチング拠出やiDeCoを活用すると、60歳まで受け取れないお金になるため、二の足を踏む方もいらっしゃるかもしれません。その際、「いま使えるお金」の実質を認識したうえで判断しましょう。
Bさんが月6,500円をマッチング拠出すると、900円分の減税になります(所得税率5%、住民税率10%で仮定)。マッチング拠出をしなかった場合は、支給額面は6,500円増えますが、課税されるために「いま使えるお金」は5,600円しか増えない※、ということです。この減税効果は、マッチング拠出もiDeCoも同じ効果があります。
ポイント2 拠出できる金額の多寡
Bさんのお勤め先の企業型DC規約では、1,000円以上500円単位でマッチング拠出の金額を決めることができます。Bさんは、これまでの生活費等から考えて、4,500円であれば「将来のお金」に回せるという結論となりました。
この場合、iDeCoの活用はできません。iDeCoの掛金は最低5,000円からと決められているためです。
ポイント3 転職の可能性はあるのかどうか
Bさんが近い将来、キャリアアップのための転職を想定しているのならば、iDeCoを選択することも意味があります。現状のDC制度のシステムでは、企業型DCの運用商品はいったん現金化してから、ほかの企業型DCやiDeCoに移すことになります。iDeCoであれば、登録事業者の変更手続きは必要ですが、離転職に伴う現金化が発生しないため、同じ運用商品での運用を続けていくことができます。
※住民税は翌年の収入に課税されるため、厳密な数字ではありません。
拠出上限が大きい場合はマッチングが有利だが定年退職後も見据えるとiDeCoの選択肢も
【ケース3】Cさんの場合
・50代
・退職一時金制度あり
・確定給付企業年金(DB):なし
・企業型DCあり:事業主掛金25,000円/月
・企業型DCマッチング拠出可能:拠出上限額25,000円/月
・定年年齢:60歳(企業型DCの資格喪失年齢も60歳)
ポイント1 マッチング拠出が有利
企業型DCのマッチング拠出が2万円以上可能な人は、マッチング拠出を選択するのがよいでしょう。マッチング拠出利用者の月平均掛金額は0.73万円で、会社員のiDeCo掛金の平均掛金額1.55万円の半額以下となっています。マッチング拠出は事業主掛金以下という規定があることの影響と考えられます。
Cさんは、事業主掛金が2.5万円あるので、マッチング拠出も2.5万円まで拠出できます。マッチング拠出の申込月は規約に定められており、いつでも申し込みできるわけではないかもしれませんが、申込月のお知らせがあったら、すぐに対応しましょう。
ポイント2 拠出可能な金額が2万円以下のとき
50代はお子さんの教育費負担が重いという年代でもあります。そのため、2.5万円を拠出するほどの余裕がない、という場合も想定されます。拠出可能な金額が少額の場合は、iDeCoに加入して長く拠出を続けるという考え方もあります。
Cさんは60歳を超えても継続雇用で働き続けることを想定していますが、お勤め先の企業型DCは60歳で資格喪失に決まっています。そのため、65歳まで掛金拠出を継続できるiDeCoを選択する、という考え方もあります。
******
以上のように3パターンをご紹介しましたが、考え方はケースバイケースです。選択肢が増えた現在、身近に相談できる場所があると安心です。企業型DCの運営管理機関の多くは、電話相談に応じています。気軽に相談してみるのもよいでしょう。
注)加入者数や掛金額等については、2022年3月末時点のもの。
資料出所:運営管理機関連絡協議会「確定拠出年金統計調査(2022年3月末)」
国民年金基金連合会「iDeCo(個人型確定拠出年金)の制度の概況(令和4年3月末現在)」
津田 弘美/野村證券株式会社 確定拠出年金部
社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。厚生年金基金の隆盛期から企業年金2法の成立等を取材。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。確定拠出年金の運営管理業務に10年以上にわたり従事し、投資教育の企画立案、事業主サポート等を担当。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。
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