若年層が標的の詐欺が増加…「将来への不安」利用した悪質すぎる手口
Finasee / 2023年6月8日 17時0分
Finasee(フィナシー)
かつての金融詐欺の標的
金融詐欺をはたらく人たちは、誰をメインターゲットにするのでしょうか。
以前は専ら高齢者でした。それも年老いた夫婦だけで生活している世帯、あるいは一人暮らしの老人が狙われたのです。
国勢調査の数字を見ると、2005年から2020年までの間に、いわゆる核家族世帯の比率は57.7%から54.2%まで微減し、二世代同居や三世代同居などその他世帯の比率は12.8%から7.7%へと減少しています。
また、核家族世帯のなかでも「夫婦と子供から成る世帯」の比率は29.8%から25.1%に減少し、「夫婦のみの世帯」は19.6%から20.1%に増加し、かつ「単独世帯」は29.5%から38.1%へと大幅に増加しました。
これらの数字が意味するのは、それだけ高齢の夫婦、あるいは死別や離婚によって一人暮らしをしている高齢者が増えているということです。
金融詐欺をはたらく連中は、こうした高齢者の心の隙間に入ってきます。
「寂しい」、「つまらない」と思って日々、生活している高齢者の住まいを訪れ、話し相手をしながら信用させ、詐欺的な投資話を持ち掛けるのです。
金融詐欺に起きている標的の変化しかし、最近はいささか様相が変わってきているようです。
警察庁が毎年、取りまとめている「生活経済事犯の検挙状況等について」によると、実は比較的若い世代の被害が増えていることを示す数字が出ているのです。
生活経済事犯とは、国民の安心・安全な生活を脅かす恐れのある犯罪のことで、詐欺的な投資話などに誘導する利殖勧誘事犯、訪問販売や電話勧誘販売に関連する特定商取引等事犯、ヤミ金融事犯、廃棄物事犯などが含まれています。ちなみに本連載のテーマは金融詐欺であり、「利殖勧誘事犯」が該当します。
この利殖勧誘事犯の数字を見ていくと、検挙事件数はこの10年、それほど大きな変化はありません。大体、年間37件から41件の間で推移しています。
また被害額は年によって大きなぶれがあり、そこに明確なトレンドは見いだせません。金融ビッグバンで自由化が進められた直後、2001年の被害額は1890億4449万円と大きく跳ね上がりましたが、その後は100億円を割り込んだこともありますし、2020年は4488億円まで急増し、2022年は157億円にとどまっています。
金融詐欺事件の場合、ひとつの事件で被害額が10億円に満たないこともあれば、1000億円規模まで膨らむこともあるため、その年に大きな被害を伴った事件があったかどうかで被害額が大きく変動するのです。
ただ、ひょっとしたら年々、金融詐欺問題が深刻化しているのではないか、と思われる数字があります。それは「利殖勧誘事犯に関する相談受理件数の推移」です。これは詐欺の被害に遭ったかもしれないと思った人たちが警察署に相談した際の件数を示しています。
この相談件数が、この数年で大きく増えています。2017年の相談件数は1314件でしたが、その後、年々増加傾向をたどっていて、2021年は3109件になりました。2022年は2584件へと減少していますが、過去6年で見ると明確に増加トレンドを描いています。
標的は高齢者から若年層へこの相談件数で注目したいのが、今回のテーマでもあるのですが、どうやら若年層の金融詐欺被害が増えているようなのです。
同データは相談者の年齢別構成比も公表されているのですが、2016年の数字によると、相談件数が圧倒的に多い年齢層は65歳以上の57.5%で、60歳以上65歳未満の9.4%とあわせた比率は66.9%にも達しています。この数字からも、当時の金融詐欺の被害者は高齢者が中心であることが分かります。
ところが2021年に至るまで65歳以上の相談件数は年々低下傾向をたどっています。2022年は前年に比べて若干上昇しましたが、それでも17.8%に過ぎません。ちなみに2021年は15.2%まで低下しました。
その一方で上昇しているのが40歳代以下の相談件数です。
2016年時点における40歳代以下の相談件数は、全体の16.1%でしたが、それ以降は年々上昇傾向をたどり、2022年は50.8%を占めています。これに50歳代を加えると、69.4%が現役世代からの相談になります。
40歳以下の相談件数の比率を時系列で見ると、
2016年・・・・・・7.6%
2017年・・・・・・28.3%
2018年・・・・・・39.0%
2019年・・・・・・44.3%
2020年・・・・・・55.8%
2021年・・・・・・55.8%
2022年・・・・・・50.8%
上記のようになります。
詐欺師は「将来不安」へ漬け込んでいる2017年以降、2020年にかけて毎年のように大幅増となっていますが、この間に、若年層を中心にして将来不安が高まっているのと無縁ではなさそうです。
特に2019年は金融審議会市場ワーキング・グループが出した報告書で「老後2000万円問題」がクローズアップされ、現役世代を中心にして老後不安が高まりました。老後不安の最たるものは、健康問題もさることながら、やはりお金の問題は避けて通れません。
年金不安に加え、給料が横ばい続きのなかで貯蓄がなかなかできず、楽にもうかりそうな投資話につい乗せられてしまい、だまされてしまったというパターンが、40歳代以下の資産形成層を中心にして増えているように思えます。
増加するインターネットを活用した詐欺恐らく、40歳代以下の人たちの場合、だまされ方も高齢者とは違います。
詐欺師の訪問を受け、彼らを信頼してお金を出してしまうのが高齢者によくあるパターンですが、40歳代以下の場合、インターネット上に表示された広告から「資産運用セミナー」などに誘導され、だまされるケースが多いと考えられます。
昨年の半ばくらいからよく見かけたのは、SNSを用いた広告記事で、資産運用の世界でよく知られた方が資産運用のアドバイスをしますといったことを売り文句にして、別サイトに誘導するという手口です。
実際、私自身はその先まで進んだわけではないため、指示通りに誘導された後どうなるのかは分かりません。しかし、その広告に名前を使われていた「よく知られた方」に確認したところ、「自分のあずかり知らぬところで勝手に出されている」ということだったので、ほぼ間違いなくだましの手口だったと考えられます。
これは情報リテラシーにつながる部分もあるのですが、最も大事なのはインターネットに流れてくる情報をうのみにしないこと。まずは疑って情報に接することが、だまされないための第一歩になるのです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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