トルコリラの“今後の見通し”は? 大統領選・エルドアン勝利の影響
Finasee / 2023年6月5日 17時0分
![トルコリラの“今後の見通し”は? 大統領選・エルドアン勝利の影響](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/finasee/finasee_12162_0-small.jpg)
Finasee(フィナシー)
このところ新聞やテレビなどのニュースを賑わせていたトルコの大統領選挙は、5月14日に行われた投票結果が僅差で決着がつかず、同月28日に行われた決選投票の結果、現職エルドアン大統領に軍配が上がりました。
トルコと日本の意外な関係実はトルコという国は、昔から親日国家ということで知られています。
そのあたりの経緯を調べてみると、1890年にトルコの使節団を乗せた「エルトゥールル号」という軍艦が台風に遭い、日本近海で沈没するという事故で、日本人の必死の救助活動によって69名の乗組員が救助されたことや、日露戦争で日本がロシアに勝利したことに、当時、ロシアから圧力を受けていたトルコが感銘を受けたことに端を発しているようです。
そして現在も東日本大震災や、トルコ・シリア地震など深刻な自然災害が起こった時、お互いに支援・救済チームを派遣し合ったりもしています。
とはいえ、私たちが普段の日常生活を送るなかで、トルコという国を意識することはほとんどないと思われます。地理的な距離が遠いこともその一因でしょう。
トルコと日本との間でどういう貿易取引が行われ、政治的にどのようなつながりがあるのかなど、トルコについて詳しい話ができる人は、こと一個人のレベルではかなり少数になります。
しかし、実は「投資」という観点で考えた時、日本の個人投資家はトルコと案外、深い関係を持っています。ブラジル・レアル、南アフリカ・ランド、といった新興国通貨のなかで、トルコ・リラは高金利であることから、日本人の間で比較的高い人気を持っているのです。
懸念されるトルコ・リラの波乱の展開問題は、エルドアン大統領が再選されたことにより、再びトルコ・リラが波乱含みの展開になるのではないか、という懸念があることです。
決選投票前の5月26日に、第一生命経済研究所から「トルコリラは『行くも地獄、戻るも地獄』の様相を呈する可能性」というレポートが出されました。
現職エルドアン大統領が再選されても、対抗馬である野党統一候補のクルチダルオール氏が当選しても、トルコ・リラにとっては良い結果にならないだろうという内容です。
エルドアン大統領が再選された今、トルコ・リラはどうなるのでしょうか。
同レポートの執筆者である主席エコノミストの西濱徹氏によると、「与党AKP(公正発展党)内で先行きの経済政策の方向性を巡って、金融政策面で緩やかな利上げ路線へ、財政政策面で公的支出や補助金による的を絞った支援を志向するなど、エルドアン政権が採ってきた方策と異なる路線への転換も含めた協議が行われているとされる。しかし、エルドアン氏自身は同協議に関わっていないとされており、仮にエルドアン氏が決選投票を制して3期目入りを果たした場合にそうした路線転換が現実化するかは不透明である」としています。
これまでエルドアン大統領は、「金利の敵」を自認してきました。
どういうことかと言うと、「低金利にすればトルコ・リラ安が進み、トルコの輸出競争力が高まるから貿易収支が黒字化する」「低金利にすれば国内の投資意欲が高まるから、経済は成長する」というロジックなのですが、問題はトルコ国内の物価水準が大きく上昇していることです。
トルコの中央銀行が目標としているインフレ率は+5%ですが、昨年は一時的に+80%を超える場面もありました。直近、4月時点のインフレ率は+43.68%まで落ち着いてきてはいるものの、それでも中銀目標からすれば大きく上振れしています。
本来、インフレが大きく進んでいる時は、金利を引き上げ、かつ財政政策も緊縮型にして物価が落ち着くのを待つのがセオリーですが、エルドアン大統領が採っている金融政策・財政政策は、経済学のセオリーとは全く逆のものです。
昨年から世界的にインフレが加速し、多くの中央銀行は利上げを行ってきましたが、そのなかでトルコ中央銀行は、昨年8月から4回にわたって利下げを実施してきました。
その結果がどうなるのかと言うと、トルコ・リラ安の加速です。
基本的にインフレ国の通貨は売られます。なぜならインフレが進むほど、相対的に通貨価値が下がっていくからです。前述したように、トルコのインフレ率は中銀目標を大きく上回っており、その点でトルコ・リラ安が加速するのは必然と言っても良いでしょう。
そのうえ、同レポートにもあるように、エルドアン大統領の再任により、与党AKP内で検討されていた「緩やかな利上げ路線」と「財政政策面で公的支出や補助金による的を絞った支援を志向」がどうなるか分からないとなれば、再びインフレ率が高まり、さらなるトルコ・リラ安につながらないとも限りません。
今トルコ・リラ絡みの金融商品を購入するのは…現在、一部の証券会社が「トルコ・リラ建ゼロクーポン社債」を販売しています。ゼロクーポン債とは、最初から利息相当分を額面価格から割り引いて販売される債券のことです。
たとえば額面価格が100だとすると、90とか80といった価格で購入でき、償還時に額面金額で償還されるというものです。
ちなみに現在、証券会社が販売しているトルコ・リラ建ゼロクーポン社債は、購入金額が額面金額の52.56%で購入できるもので、約2年2カ月後に償還を迎えた時の利回りは、年35.23%にもなるとされています。
外貨ベースで、約2年2カ月後には投資金額が1.9倍になるなどと表示されていますが、さらにトルコ・リラ安が進んだ場合、当然のことですが、為替差損が発生するため、上記の利回りは実現しません。
さらに言うと、トルコ・リラ建ての債券を購入するためには、手持ちの円をトルコ・リラに交換し、償還された時はトルコ・リラ建ての償還金を円に交換する必要があります。もちろん、ただでは交換してくれません。「為替手数料」というコストを負担する必要があります。
トルコ・リラの為替手数料は、額面200万トルコ・リラの場合だと、1トルコ・リラあたり0.5円となっています。これが往復でかかるとしたら、1円です。現在のトルコ・リラ/円のレートは、1トルコ・リラ=6.95円程度ですから、往復で1円の為替手数料となると、経費率は14.38%にもなります。
逆に言えば、これだけの手数料を取っている金融機関からすると、このゼロクーポン債を売れば売るほど、為替手数料で大きくもうけられることになります。
金融機関に多額のコストを差し引かれ、かつエルドアン大統領の再選によって先行き不透明感が強まるトルコ・リラが絡んだ金融商品を購入する意味があるのかどうか。それは資産運用というよりは、かなり投機に近い行為であるように思えてなりません。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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