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「家賃保証」の甘言に注意…売るに売れない「サブリース契約」の恐ろしい盲点

Finasee / 2023年6月5日 11時0分

「家賃保証」の甘言に注意…売るに売れない「サブリース契約」の恐ろしい盲点

Finasee(フィナシー)

サラリーマンの「副業」として注目されるワンルームマンション投資。「会社を辞めなくても賃貸経営ができる」と人気ですが、そこには大きな落とし穴もあるといいます。不動産にまつわる数々の相談に乗ってきた不動産鑑定士の福田伸二さんが、ワンルームマンション投資で見落としがちな「あるリスク」について解説します。

*** 多くの人が知らないサブリース契約の仕組み

前編(ワンルームマンション投資で「老後も安心」が一転…有名企業勤めの会社員を襲った危機)では、若いサラリーマンが、投資用のワンルームマンションを売却する時に「サブリース契約」がネックとなり、結果的に損をしてしまった事例をご紹介しました。そもそもサブリース契約というのはどういった契約なのでしょうか。そこからご説明していきたいと思います。

サブリース契約とは、「物件オーナーがサブリース業者にその物件を貸し出す」という契約です。ですから、単純に業者が貸借人として、オーナーと入居者との間に入ります。簡単にいうと図のような形です。

サブリース契約の構造(簡略図)

 

出所:ファイナンシャルスタンダード

このサブリース業者というのは、多くの場合、オーナーに物件を売った不動産会社か、その関連会社・子会社です。この先、入居者が抜けても毎月決まった賃料がきっちり入ってくる、非常におトクな契約に見えます。

ところが、サブリース契約を付けると、物件オーナーは業者にすべてを委ねることになってしまいます。オーナーは、後は決まった賃料をただ受け取るだけです。また、賃料もサブリース業者が決めることになります。オーナーのほうから「この賃料でサブリースしてほしい」と言えるケースは、ほとんどありません。

大家なのに家賃を決められない? その理由とは

そもそも、投資用のワンルームマンションの場合は、物件を購入する際に「この賃料保証でサブリース契約付きのマンションを販売します」と、「サブリースありき」で提案されることが大半です。さらにダメ押しで「人が入らなかったら家賃も入らず、ローンも払えなくなるのでサブリース契約があったほうが安心でしょ?」と言われます。

前編でご紹介したAさんも、家賃をサブリース業者が決めていました。しかし、その賃料からサブリースの手数料を引くと、Aさんは手元にお金が残らない仕組みになっていました。

それでも、家賃を保証してくれるのなら良心的な契約だと皆さんは思うかもしれません。しかし、この家賃、このままの水準で継続されるわけではありません。サブリースの契約書には、家賃の保証期間中であってもサブリース業者が賃料を減額できる規定が盛り込まれています。物件を購入してわずか2、3年で「家賃相場も変わってきたので、賃料を下げてくれませんか?」と言われることもあります。

公益財団法人・日本住宅総合センターが実態調査をしているのですが、なんと「築10年以上のサブリース物件オーナーのうち、7割以上が借り上げ賃料を減額された経験がある」というアンケート結果が出ています。

あぜん!  所有マンションが民泊に転用された?

さらに、怖いのがサブリース物件には転貸のリスクがあることです。サブリース業者が誰に転貸するかは、サブリース業者の判断で決められることになっており、オーナーに口を挟む余地はありません。私が経験しただけでも、マンスリーマンションや民泊に利用されていたケースが3、4例ありました。このパターンで怖いのが、不特定多数の人に貸し出されたことで、部屋が傷んでしまうことです。原状回復のコストはオーナー負担となっているケースも多く、ここでもまた赤字が膨らむリスクがあります。

「わかった、こんな物件、売ってしまおう!」と、途中でサブリースを外して売却しようと思っても、オーナーの都合でサブリース契約を解約することはできません。なぜかいうと、借地借家法では、百戦錬磨のサブリース業者も保護すべき“貸借人”として扱われてしまうからです。最高裁でも「貸借人が大企業(サブリース業者)であっても借地借家法を適用されて保護される」という判例が出ています。

サブリースが外れないと、普通に物件を売却することは難しくなります。結局、Aさんのように、購入した不動産業者(サブリース業者)に安い価格で物件を買い取ってもらうしかなかったというケースが少なくありません。サブリースを解約できることもありますが、その場合は違約金の支払いが必要になるケースが多いです。

賃貸経営には「一般管理」という道もある

本来、投資用物件の管理には以下の3つの方法があります。

1.    自主管理
2.    一般管理
3.    サブリース

1つは自主管理です。これは、家賃回収やクレーム処理などをすべて自分で行うもので、賃貸収入がすべて自分の利益になりますが、その分非常に手間がかかるやり方です。

もう1つが、一般管理。これは、不動産会社や管理会社が、入居者募集・家賃回収・入居者のクレーム対応といった管理業務を請け負ってくれます。

最後が、サブリース。しかし、サブリースにはいろいろと注意点があるということを、今回ご説明しました。

実際には一般管理とサブリースでは、物件オーナーの手間はほとんど変わりません。「家賃保証がないと、空室が出た時に不安」と考える方も多いと思います。

しかし、そもそも家賃保証をしてもらわなければ空室が埋まらない心配のある物件であれば、最初から投資してはいけないのです。空室リスクが高い物件投資で勝てるわけがない。その大前提を忘れてはいけません。

「こんな物件、早く売ってきなさいよっ!」夫婦崩壊の危機も!?

前編でご紹介したAさんは損失こそ出ましたが、向こう30年以上赤字の確定していた投資を脱却したことで、新しく資産形成をスタートすることができました。

Aさんは独身でしたが、中にはご結婚されていて、家庭内のトラブルに発展したケースもあります。結婚後にご主人が独身時代にワンルームマンションを複数購入していたことが発覚したり、ご夫婦で相談に来られて、奥さまが帰られたあとに「実は妻にはナイショで物件を持っていまして……」とご主人が打ち明けられたり……。いずれも、赤字物件を抱えて困っているお客さまです。

サブリースに関しては、2021年6月より「賃貸住宅管理業法」(賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律)が完全施行されており、サブリース業者とオーナーとの間でトラブルが頻発し、社会問題化したことが法整備の背景となっています。サブリース業者は重要事項説明書を作成し、顧客に書面で契約内容の説明をすることが義務付けられましたが、具体的には、家賃の減額リスクや将来的な家賃相場の下落リスク、それ以外にも、契約の可否を判断するのに必要な材料はすべて提示することが必要となっています。

事実やリスクを故意に伝えずに不当な勧誘および契約をすることは、違法行為とされていますので、「家賃が減額するリスクは絶対ありません」「このサブリース契約であれば確実に利益を上げられます」など、将来を断言するような文言も禁止されています。トラブルになれば、説明義務を果たしたかどうかを業者が立証する必要がありますので、今後、悪質な例は少なくなると思われます。

現在、ワンルーム投資を行っている方で、少しでも疑問や不安を感じる方は、ぜひ専門家にご相談いただきたいと思います。これまでの連載でも度々お話していますが、不動産投資は、入り口で90%が決まってしまいます。冷静にキャッシュフローがプラスかマイナスかを見極めることが大切です。まずは投資の前に、ご自分が結ぼうとしている契約の内容や、物件のキャッシュフローについてしっかり検討していただきたいと思います。
 

福田 伸二/不動産鑑定士

POLUSグループを経て、大和不動産鑑定株式会社に入社し、東京本社鑑定部課長、鑑定証券化部次長を最後に退社。その後、売買仲介・コンサルティング業務に従事し、J-REIT上場のアドバンス・レジデンス投資法人の運用会社で外部委員も務める。毎年100件以上にわたる収益物件の鑑定評価書の発行や、東京都税事務所のアドバイザーとして相続税路線価のアドバイス業務に従事。2020年にファイナンシャルスタンダード入社。

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