山一証券、長銀etc.金融機関が破綻する事態に…バブルはいかにして崩壊したのか
Finasee / 2023年7月5日 11時0分
Finasee(フィナシー)
計画的な資産形成には、経済分野へのアンテナ感度を高めることが不可欠。しかし、豊富なデータの中から自分が知りたい内容のものを選び数値変化を把握するには、正しい知識と情報の読み解き方を身につける必要があります。もちろん、その背景にある歴史的な出来事への深い理解も外せません。
話題の書籍『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』では、著者で弁護士の明石順平氏が賃金や物価など、日常生活にまつわる数値データから読み解ける客観的事実について優しく解説。今回は本書の第1章「僕の給料は、この国の経済を映している」の一部を特別に公開します。(全4回)
●第1回:賃金、GDP…世界各国との比較データで浮き彫りになる、日本の“衝撃的なマズさ”
※本稿は、明石順平著『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』(大和書房)の一部を再編集したものです。
いつから賃金は下がり始めた?――バブルというのは、ある資産の価格が異常に上がってしまう現象のことだ。1990年前後に起こった日本のバブルでは、株と不動産が異常に値上がりした。このバブルが起きるきっかけとなったのが、日銀による公定歩合(こうていぶあい)の引き下げだ。
公定歩合というのは、日本銀行(日銀)が民間銀行へお金を貸すときの金利のことだ。これを下げると、民間銀行が企業や個人へ貸すお金の金利も下がるようになっていた。
太郎:金利って何?
――お金のレンタル料のことだ。例えば金利1%で100万円借りたとすると、100万円×0.01=1万円がレンタル料ということになる。返すときには100万円に加えて1万円を支払う必要がある。さて、ここで金利を下げるとどうなるかな。
太郎:返すときに支払うレンタル料が減るということだから、借りやすくなるね。
――金利を下げるとお金を借りやすくなる。だから借りる会社や人が増える。そして、みんな借りたお金で手っ取り早く儲けたいと考えると、株や不動産を買うことになる。
太郎:その資産を買ったときより高い値段で売ることができれば、差額で儲かるからだね。でも、なんで公定歩合を引き下げることになったの?
――プラザ合意が原因だ。プラザ合意というのは、1985年9月22日に、先進5カ国蔵相・中央銀行総裁会議(G5)により発表された、為替レート安定化に関する合意のこと。為替レートとは、通貨間の交換比率のことだ。
例えば1ドル100円だったら、1ドルと100円を交換できることになる。プラザ合意以前は1ドル240円ぐらいだった。
太郎:1ドル手に入れるために240円も支払わないといけないから、円の価値が今よりも低かったんだね。
――そしてプラザ合意の具体的な中身は、ドルを安くして、それ以外の先進国の通貨を高くするというものだ。日本とアメリカの関係でいえば、円を高くしてドルを安くすることになる。これを円高ドル安と言う。
アメリカが「円高ドル安」を選択した理由太郎:アメリカにとっては、自分の国のお金を安くするってことだよね。なんでそんなことしたの?
――それは、アメリカの貿易赤字が大きくなっていたから。その大きな要因が、「ドルが他国の通貨に対して高すぎる」ということだった。通貨が安い国であれば、人件費を低く抑えられるから、製品を安く作ることができ、輸出で儲けやすい。
他方、通貨が高い国は人件費が高くなってしまうから、どうしても製品の値段を高くせざるを得ない。そうすると価格競争で通貨の安い国に負ける。ただ、通貨の安い国の製品を買いやすいので輸入は多くなる。
太郎:なら、通貨の高い国は輸出より輸入の方が多くなるね。
――当時のアメリカはそんな状態だった。輸出より輸入が多いから、支払うお金の方が多くなる。放っておいたらどんどんお金が外に出てしまう。それでは困るということで、プラザ合意によってドルの価値を下げようとしたんだ。
太郎:でもそうなると、輸出で儲けていた国は大ピンチにならない?
例えば、1ドル200円のときは、何か作ってそれを1ドルでアメリカで売り、円に換えれば200円手に入る。だけど、1ドル100円になったら、同じ1ドルで売っても100円にしかならないから、売り上げが半分になっちゃうよ。
――そのとおりだ。そこで、公定歩合の引き下げが出てくる。円高によってものすごい不景気になることを恐れた日銀は、公定歩合を引き下げ、お金を借りやすい状況をつくることで乗り切ろうと考えた。当時の公定歩合の推移を見てみよう。
(図1-5)バブル期の公定歩合は太郎:1986年に2%下げて、1987年にさらに0.5%下げて、一番低いときは2.5%になったのね。一番低い状態が2年2カ月ぐらい続き、1989年からまた公定歩合を上げ始めたと。
株と不動産の危険な高騰――こうやってお金を借りやすくした結果、お金の貸し出しが増え、それが株や不動産に流れていった。まずは、土地公示価格 ※1の推移を見てみよう。
※1 地価公示法にもとづいて、国土交通省の土地鑑定委員会が公示する土地の価格。
(図1-6)土地の価格が急激に高く!太郎:公定歩合を下げ始めた1986年から急激に土地の価格が上がってるね。
――貸し出されたお金は土地ころがしに使われた。土地ころがしというのは、これから買おうとする土地を担保にして、銀行等からお金を借り、値上がりしたらすぐに売る、という行為だ。
これをみんなが繰り返したので、土地の値段がどんどん上がり、一時は東京23区の土地の値段でアメリカ全土が買えると言われるほどになった。
次は、株。日経平均株価の推移を見てみよう。
(図1-7)株価のピークは土地代のピークの2年前太郎:土地の価格の推移とほぼ同じグラフの形だね。ピークで4万円近くなっている。今と全然違う。
――株価は1989年をピークに下降に転じたが、土地の値段は下がらず、1991年まで上がり続けたんだ。
土地価格の高騰に対する国の対処太郎:そんなに土地の値段が上がったら、普通の人が買えなくなって困らないかな?
――そのとおりだ。普通の人が手の届かないような土地価格になってしまったので、日銀は1989年から今度は公定歩合を引き上げていき、1990年には、公定歩合を6%にした。
さらに、大蔵省(現・財務省)は、1990年3月27日、各金融機関に対し、不動産業向け融資の伸び率を、総貸出の伸び率の範囲内に抑えるようにという行政指導を行った。
つまり、土地購入のための貸出量を抑えようとした。これらの施策の結果、土地の価格は急激に下がっていき、バブル景気は終わりを告げた。
太郎:株も不動産も、みんな「価格が上がるだろう」という予測のもとにお金を借りて購入してたんだよね。いざとなったら売ってお金に換えれば返済にあてられると。でも、こうして価格が下がってしまったら、借金を返済できなくなるんじゃないかな。
――株価と不動産価格が暴落したせいで、貸したお金が返ってこない状況が発生してしまった。銀行等の金融機関にとっては致命的だ。返済されなかったり、返済が遅れたりする債権のことを不良債権と言うんだが、バブル崩壊によってこの不良債権が大量に発生した。
ただ、金融機関は、返済不能になって潰れそうな会社へお金を貸して延命させたり、子会社に損失を付け替えることによって、不良債権問題が表面化しないようにした。そうやってその場しのぎをしていればいつか景気が回復し、お金をちゃんと返せる状態に戻ると思ったんだろうな。
ところが、そういうその場しのぎが限界を迎えたのが、1997年11月だった。この3日に準大手証券会社の三洋証券、同月17日に北海道拓殖銀行、その1週間後に四大証券会社の一角だった山一證券が次々と破綻していった。
金融機関はお互いに借金をして資金を融通し合っているから、1つ潰れるだけでも大変なことになるんだけど、それが一気に3つも潰れてしまった。この混乱は翌1998年も続き、同年10月23日には日本長期信用銀行が、同年12月13日には日本債券信用銀行が破綻した。いずれも名門といわれる日本を代表するような銀行(金融機関)だった。
それ以外にもたくさん破綻している。こうやって金融機関が次々に破綻してお金が回らなくなる状況を金融危機と言う。次はこの時期の数字について追ってみよう。
●第3回(金融危機、経済停滞への一途…日本中を震撼させたその時“データ”はどう動いたのか)では、金融危機時の銀行の破綻数や賃金と物価のピークについて解説します。
『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』明石順平 著
発行所 大和書房
定価 1,760円(税込)
明石 順平/弁護士
1984年、和歌山県生まれ、栃木県育ち。東京都立大学法学部、法政大学法科大学院を卒業。主に労働事件、消費者被害事件を担当。ブラック企業被害対策弁護団所属。著書に『アベノミクスによろしく』『データが語る日本財政の未来』(集英社インターナショナル新書)など。
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