金融危機、経済停滞への一途…日本中を震撼させたその時“データ”はどう動いたのか
Finasee / 2023年7月5日 11時0分
Finasee(フィナシー)
計画的な資産形成には、経済分野へのアンテナ感度を高めることが不可欠。しかし、豊富なデータの中から自分が知りたい内容のものを選び数値変化を把握するには、正しい知識と情報の読み解き方を身につける必要があります。もちろん、その背景にある歴史的な出来事への深い理解も外せません。
話題の書籍『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』では、著者で弁護士の明石順平氏が賃金や物価など、日常生活にまつわる数値データから読み解ける客観的事実について優しく解説。今回は本書の第1章「僕の給料は、この国の経済を映している」の一部を特別に公開します。(全4回)
●第2回:山一証券、長銀etc.金融機関が破綻する事態に…バブルはいかにして崩壊したのか
※本稿は、明石順平著『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』(大和書房)の一部を再編集したものです。
金融危機とともに経済停滞へ――ここで、1990年から2003年の間に破綻した銀行数の推移を見てみよう。
(図1-8)13年で20銀行が破綻した!太郎:1998年と1999年は2年連続で5行も破綻したのか。そして1990~2003年の間に合計で20行も破綻したんだね。
――これだけ潰れると、銀行がお金を貸し出す力は当然落ちる。国内銀行貸出金残高の推移を見てみよう。
(図1-9)銀行の貸出金のピークは1997年太郎:バブル期の貸出金残高の伸びがすごいね。1985年は209兆円だったのに、1991年には436.7兆円まで伸びている。バブルの間に倍以上になったんだね。
そこからしばらく横ばいになって、1997年の475.7兆円がピーク。翌年の1998年から下落に転じているね。
――この推移は名目GDPの傾向と一致している。名目GDPの推移を見てみよう。
(図1-10)名目GDPも1997年をピークに停滞…太郎:本当だ。貸出金残高がピークを迎えた1997年に、名目GDPも543.5兆円でいったんピークを迎え、そこから下がってるね。ずーっと停滞を続けて、1997年をやっと超えたのが2016年の544.4兆円か。ピークを更新するのに19年もかかったんだね。
同時期の賃金と物価の推移を見ると――次に、1990年を100とした賃金と物価の推移を見てみよう。
(図1-11)賃金と物価のピークも1997年...?太郎:名目賃金は1997年がピークで、そこから落ちていき、いまだにピークの数字には遠く及ばない。1997年をピークにして下落に転じた点は名目GDPの推移と一致しているね。
実質賃金は1996年がピークで、名目賃金よりもひどい落ち方だ。他方、物価は1998年にいったんピークを迎えて、2015年にそれを超えている。
ただ、17年間もピークを更新しなかったということか。そして、いずれの数字も1997年前後から下落が始まっている点は共通するね。
――1997年の金融危機が影響したことが、この推移からも読み取れるだろう。
ここでポイントなのは、90年代初めにバブルが崩壊してすぐに名目GDPが停滞したのではないということだ。バブル崩壊の後遺症で金融機関が破綻し始めた1997年より後に停滞が始まり、それがずっと尾を引き続けた。
太郎:金融機関がお金を貸すことによって経済が回っているから、その金融機関の貸し出す機能がダメになると、経済全体がダメになるということかな。
――それは失業率の推移を見ても分かる。
(図1-12)失業率も同じ年を起点に変化していた太郎:バブル崩壊後から上昇基調になって、金融危機後に上昇角度が急になっているね。
――そうだ。バブルというのは要するに「貸しすぎ」が招く事態と言ってよい。お金を貸しすぎるから、それが株や不動産に流れて、価格が上がりすぎてしまう。
そして、いつか必ずバブルは弾ける。バブルが弾ければ、金融機関がお金を貸す機能が大きく落ちるから、経済は落ち込む。
1997年から始まった金融危機で日本経済は大きなダメージを受けたが、2008年に起きたリーマン・ショック前まではだんだん回復してきていた。それがリーマン・ショックによって世界同時大不況になったから、また落ち込んでしまった。
リーマン・ショックも、原因は日本のバブルと同じだ。要するに、お金の貸しすぎによって株や不動産の価格が本来あるべき水準より上がりすぎてしまい、それが暴落したので、貸したお金が返ってこなくなり、金融機関の破綻につながった。
あらゆる時代、あらゆる国でこのような現象は起きている。その理由はお金が生まれる仕組みを知るとより深く分かるから、次はそれについて説明しよう。
●第4回(大人なら知っておきたい! なぜ日銀が国債を買うと金利が操作されるのか)では、金融危機期の数値やデータから紐解く“経済停滞の実態”について解説します。
『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』明石順平 著
発行所 大和書房
定価 1,760円(税込)
明石 順平/弁護士
1984年、和歌山県生まれ、栃木県育ち。東京都立大学法学部、法政大学法科大学院を卒業。主に労働事件、消費者被害事件を担当。ブラック企業被害対策弁護団所属。著書に『アベノミクスによろしく』『データが語る日本財政の未来』(集英社インターナショナル新書)など。
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