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大人なら知っておきたい! なぜ日銀が国債を買うと金利が操作されるのか

Finasee / 2023年7月5日 11時0分

大人なら知っておきたい! なぜ日銀が国債を買うと金利が操作されるのか

Finasee(フィナシー)

計画的な資産形成には、経済分野へのアンテナ感度を高めることが不可欠。しかし、豊富なデータの中から自分が知りたい内容のものを選び数値変化を把握するには、正しい知識と情報の読み解き方を身につける必要があります。もちろん、その背景にある歴史的な出来事への深い理解も外せません。

話題の書籍『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』では、著者で弁護士の明石順平氏が賃金や物価など、日常生活にまつわる数値データから読み解ける客観的事実について優しく解説。今回は本書の第1章「僕の給料は、この国の経済を映している」の一部を特別に公開します。(全4回)

●第3回:金融危機、経済停滞への一途…世界中を震撼させたその時“データ”はどう動いたのか

※本稿は、明石順平著『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』(大和書房)の一部を再編集したものです。

お金が増えていく仕組み

――まず、銀行等の金融機関がお金を貸し出すときに具体的に何をするか、考えてみよう。例えば君が銀行から1000万円を借りるとする。

その場合、銀行は現金1000万円を君に直接手渡すのではなく、まず君にその銀行の口座を開設させる。そして、その口座に1000万円を入金したという記録をつくる。君の預金通帳には1000万円が入金されたという記録が記載される。簡単にいうと「銀行が1000万円を貸す」ということは、「1000万円の預金記録を新たにつくる」ということだ。

つまり、銀行が貸せば貸すほど預金が増える。そして、みんなが一気にお金を引き出すわけではないので、銀行は実際に保有しているお金よりも、たくさんのお金を貸すことが可能であり、その分預金が増える。こうやって貸し付けによって預金が増えていく仕組みを信用創造と言う。

太郎、君も何か支払いをするときに、銀行振り込みで済ませることがあるだろう?

太郎:うん。ネットで買い物して代金を振り込んだりとかね。あとはクレジットカードで使った分が口座から引き落とされたりとか。

――そのように、預金は通貨のような役割を果たすので、預金通貨とも呼ばれている。

太郎:銀行が無限に貸し出しすれば、無限に預金通貨が増えていくことにならないの?

――それは無理だね。借りたお金をみんながいっせいに引き出すわけではないが、かといっていつまでも全部預けているわけじゃないでしょ。現金として引き出したり、支払いなどのために他の銀行へ送金したりするだろう。

例えば実際に持っているお金の100倍も貸し出してしまったら、引き出しや送金の要求に応じることができなくなり、銀行は破綻してしまう。

太郎:貸し出すにも限界があるということだね。

――そう。そして銀行が貸し出す大本のお金になるのが、日銀から供給されるマネタリーベースだ。これは、市中に出回っている日本銀行券(紙幣)、貨幣、そして日銀当座預金の合計を指す。

日本銀行券というのは、1万円札などのお札のことで、貨幣というのは、100円玉などの硬貨のこと。そして、日銀当座預金とは、銀行が日銀に預けているお金のことだ。

太郎:どういうときに日銀はマネタリーベースを供給するの?

――まず、紙幣が発行されるのは、銀行等が日銀当座預金からお金を引き出すときだ。そして、その日銀当座預金が増えるのは、日銀が銀行等にお金を貸すか、または銀行等が持つ資産を買い上げるとき。

現在は、銀行等の持っている国債を買い、その対価としてその銀行の日銀当座預金の口座残高を増やすのが基本になっている。国債というのは、国が発行する、国にお金を貸していることを証明する債券のことで、要するに国の借金のことだ。

太郎:つまり、何の対価もなくお金が発行されることはないということね。

――銀行が日銀に「発行してくれ」と頼めば発行してくれるわけじゃない。借りるか、または何かを売るかしないと、日銀からお金を得ることはできない。

お金の価値とインフレ(物価上昇)の関係性

太郎:日銀が政府の国債を直接買った場合はどうなるの?

――政府が日銀に預けている政府預金(※政府預金はマネタリーベースに含まれない)の残高が増えるね。

例えば10億円の公共工事を行うため、仮に政府が日銀に直接国債を買わせて、その対価に10億円を得たとしよう。公共工事をした会社に対する代金支払いは、民間銀行を通して行われる。

具体的には、政府預金から民間銀行の日銀当座預金に10億円が入る。そして、民間銀行は、工事をした会社の預金残高を増やすことによって支払いを完了する。

太郎:そうなると、10億円分のマネタリーベースが増えるということだね。

――それと同時に、後で説明する「マネーストック」も10億円増える。しかし、政府が日銀に直接国債を引き受けさせることは法律で禁じられている。それをやると政府の財政規律が緩み、日銀がお金を発行しすぎてしまうからだ。

太郎:お金を発行しすぎると何か都合が悪いの?

――お金の価値が下がって、インフレ(物価上昇)が止まらなくなるよ。こういうのは極端な例で考えると分かりやすいんだが、例えば国民1人当たり1億円を配ったとしよう。物の値段はどうなるかな。

太郎:上がるだろうね。みんなたくさんお金を持ってるから、値段を高くしても売れるでしょ。

――そして、物の値段が上がるということは、お金の価値が下がるということだ。

例えば、1缶100円のジュースが200円に値上がりしたとする。以前と比べて倍のお金を出さないとジュースを買えなくなってしまったのだから、お金の価値は半分になったということになる。

物価が無限ループで上がっていく

太郎:要するに、お金の価値が下がるのと、物価が上がるのは同じということだね。

――そして、物価が上がってしまうと、お金が足りなくなる。今の日本の状況をみればイメージしやすい。円安でどんどん物価が上がって、お金が足りない状況が生まれている。

太郎:足りないなら、お金を増やせばいいんじゃないの。

――でもお金を増やすと物価が上がるでしょ。

太郎:あ、そうか……。お金足りないからお金増やす→物価上がる→お金足りないからお金増やす→物価上がる→お金足りないからお金増やす→物価上がる→お金足りないからお金増やす→物価上がる……っていう無限ループが発生するのか。

――そう。過去にあらゆる国でそういう現象が起きて痛い目に遭ったから、どの国も、通貨を発行する中央銀行が政府から直接国債を購入することを原則として禁止しているんだ。

太郎:でも、さっき日銀が銀行の国債を買い取って、その銀行の日銀当座預金を増やすって言っていた。それって結局、日銀が政府から直接国債を買っているのと同じじゃないの?

――やりすぎるとそれと同じことになる。

さて、ここで銀行同士のお金のやりとりの方法を説明しよう。例えばA銀行からB銀行へ100万円の送金をする場合、日銀は、A銀行の日銀当座預金の口座残高を100万円減らして、B銀行の日銀当座預金の口座残高を100万円増やす操作をする。これでA銀行からB銀行へ100万円送金したことになる。

太郎:日銀当座預金を増減させて送金しているんだね。でも、銀行ってそういう銀行間送金をたくさんやっているわけでしょ。もし一時的に送金するための日銀当座預金が足りなくなったらどうするの?

――日銀からお金を借りるか、または他の銀行から借りることになるが、主に他の銀行から借りて対応している。お金の余っている銀行が、お金の足りない銀行へお金を貸すんだ。

銀行同士はそうやって頻繁にお金の貸し借りをしている。そして、日銀当座預金の量が少なければそれだけ日銀当座預金が貴重になるから、お金を貸すときの金利も高くなる。

他方、日銀当座預金の量が多ければ、日銀当座預金の希少性は低くなるから、金利も低くなる。こうやって銀行間取引の金利が上下するのに合わせて、銀行が会社や個人にお金を貸し出すときの金利も上下する。自分が借りたときよりは高い金利で貸す必要があるからね。

「売りオペ」と「買いオペ」の絶妙なバランス

太郎:さっき、日銀は銀行等から国債を買って日銀当座預金の量を増やすって言ってたよね。逆に言えば、日銀が国債を売れば日銀当座預金の量は減るってことね。そうやって日銀当座預金の量が増減すれば、それに合わせて民間の金利も上下するってこと?

――そう。日銀が国債を買って銀行等の日銀当座預金の残高を増やすことを「買いオペ」、逆に国債を売って日銀当座預金の残高を減らすことを「売りオペ」と言う。

日銀は買いオペと売りオペをうまく使い分けることで、金利を操作している。なお、バブルの話(第2回)で触れたように、昔は日銀が民間銀行にお金を貸し出す際の金利(公定歩合)を上下させて民間の貸出金利を操作していた。

太郎、金利が 10%のときと、1%のときだったら、どっちのときにお金を借りたいかな。

太郎:そりゃあ1%のときだね。返すときの負担が軽いから。

――そうだね。そのように、金利が低くなれば、普通は借りたい人が増えるから、貸し出しが増える。

太郎:貸し出しが増えれば、預金通貨が増えるんだよね。

――つまり、金利が下がると預金通貨の増加ペースが速くなる。逆に、金利を上げれば、預金通貨の増加ペースは落ちる。

個人や会社が持っている現金・預金をすべて合わせたものを、マネーストックと言う。これはつまり現実に世の中に出回っているお金で、物価にも影響を及ぼす。金利を下げるとマネーストックの増加ペースは上がる。

すなわちお金の価値は下がるので、物価は上がるというわけなんだ。

『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』

明石順平 著
発行所 大和書房
定価 1,760円(税込)

明石 順平/弁護士

1984年、和歌山県生まれ、栃木県育ち。東京都立大学法学部、法政大学法科大学院を卒業。主に労働事件、消費者被害事件を担当。ブラック企業被害対策弁護団所属。著書に『アベノミクスによろしく』『データが語る日本財政の未来』(集英社インターナショナル新書)など。

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