「次は、宇宙へ。」宣言から8年。コロナショックとANA株価の未来は?
Finasee / 2023年6月9日 17時0分
Finasee(フィナシー)
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コロナショックが落ち着き、壊滅的な打撃を受けた航空業界に復活の兆しが表れ始めています。大手の一角「ANAホールディングス」は、2023年3月期に3年ぶりの黒字を確保しました。株価も、コロナ前の水準まではまだ距離がありますが、大底圏からは脱したように見えます。
【ANAホールディングスの業績】
※2024年3月期(予想)は、2023年3月期時点における同社の予想出所:ANAホールディングス 決算短信
【ANAホールディングスの株価(月足、2019年12月~2023年4月)】
出所:Investing.comより著者作成
危機的な状況から脱した企業の株式は、時に大きく値上がりします。コロナからの脱却が進む今、ANA株式に注目している人も多いのではないでしょうか。その参考となるよう、ANAの歴史や業績を紹介します。
わずか2機のヘリコプターでスタートした日本の翼ANAホールディングスの前身である「日本ヘリコプター輸送」は1952年に誕生しました。1年早く生まれた日本航空(JAL)は政府の出資を受ける半官半民の航空会社※だった一方、ANAは純粋な民間エアラインとしてスタートします。
※日本航空が政府の出資を受けたのは1953年。1987年に日本航空株式会社法が廃止され完全民営化した。
ANAは今でこそグループで270機以上の航空機を保有(2022年3月末時点)していますが、発足当初はわずか2機のヘリコプターしかありませんでした。主要な航空会社の多くが政府主導で運営されていた当時、「敗戦国の民間航空会社」は無謀な挑戦だったのかもしれません。
しかし、ANAは果敢に空を目指し着実に成長していきます。1953年に日本人操縦士による戦後初の定期便を東京・大阪間で就航させると、1962年には戦後初の国産旅客機「YS-11」のテストフライトを成功させました。また世界で初めて機内テレビ放映を実施したのもANAでした(1964年)。これらの取り組みにより、1985年には日本の航空会社で初めて累計旅客数3億人を達成します。
1986年には初の国際線定期便として東京・グアム間の就航を果たしました。これを機に同社の国際線ネットワークは拡大し、就航30周年となる2016年には国際線の累計搭乗者数が1億人を突破しています。
ANAの挑戦は2000年に入っても続きます。2011年にはANAが開発から携わった「ボーイング787」を世界に先駆けて導入したほか、2017年にはLCC大手のピーチ・アビエーションを子会社化 しました。失敗を恐れず挑戦を続けるANAの精神は、同社が今日まで成長できたことと無縁ではないでしょう。
ANA株式はコロナ禍でどう動いた?創業から絶え間なく挑戦し続けてきたANAですが、新型コロナウイルスほどのチャレンジはこれまでになかったかもしれません。2021年3月期には売上高が急減し、4000億円以上の純損失を計上しました。これは前期までに稼いだ4年分の純利益を吹き飛ばすほどの金額です。
【ANAホールディングスの売上高と純損益】
出所:ANAホールディングス 決算短信より著者作成
本業による収益が見込めないため、ANAは当面の運営資金を確保する必要に迫られます。同社は銀行からの借り入れや社債の発行、さらには株式を利用した増資など、ありとあらゆる資金調達を行いました。この結果、同社のバランスシートは肥大化し、自己資本比率は大きく悪化します。
【ANAホールディングスの財務】
出所:ANAホールディングス 決算短信より著者作成
【変動した主な項目】
出所:ANAホールディングス 決算短信
株式を用いた資金調達は、一般に株価にネガティブな影響を与えます。株式の数が増加し、1株あたりの利益や純資産が低下することが投資家に嫌気されやすいためです。
ANAホールディングス株式においても、増資や転換社債の発行を発表したあとは軟調に推移する場面が見られました。同社がコロナ前の株価を取り戻すためには、増資の懸念が薄れることが重要なのかもしれません。
【ANAホールディングスの株価(日足終値、2020年~2021年)】
出所:Investing.comより著者作成
コロナ禍で業績や財務の悪化したANAですが、貨物事業は大きく改善しました。2023年3月期の売上高は3080億円と、2019年3月期(同1250億円)の2.4倍以上も増加しています。人流が途絶える中、ANAにとって貴重な収益源となりました。
【航空事業セグメントの内訳(売上高)】
出所:ANAホールディングス 決算短信
ANAは貨物事業をさらに強化する姿勢を見せています。2023年3月には、航空貨物専業の日本貨物航空(NCA)の買収について、同社の親会社である日本郵船と基本合意しました。
貨物事業は一般に景気の変動を受けやすく、コロナ後の展望は不透明ですが、ANAは旅客以外でも収益を確保できる体制作りを目指していると考えられます。
ANAの翼は宇宙に届くかANAは、実は早くから宇宙ビジネスに取り組んでいることはあまり知られていません。2015年に発表した長期戦略構想で「次は、宇宙へ。」と宣言し、2018年にはグループ内で「ANA宇宙事業化プロジェクト」が発足。2021年には「宇宙事業チーム」として組織化されました。
実績も少しずつ積み上がっています。2016年に有人宇宙機の開発を行うPDエアロスペースに出資したほか、2018年には遠隔ロボットを活用し宇宙関連事業の立ち上げを目指す「アバターXプログラム」をJAXAと共同でスタートしました。またポーラ・オルビスホールディングスと提携し、宇宙環境に適した化粧品の開発を目指すプロジェクトも順調に進んでいます。
もちろん多くの宇宙ビジネスが挑戦段階にあるように、ANAにおいても全てがうまくいっているわけではありません。例えばANAは2021年に米ヴァージン・オービットと人工衛星打ち上げについて基本合意を締結していますが、ヴァージン社は資金繰りに失敗し2023年4月に経営破綻しています。
これまで多くのチャレンジを成功させてきたANAにとっても、宇宙ビジネスは一筋縄ではいかないようです。ANAの翼は、大気の壁を超え宇宙に届くのでしょうか。今後の動向が注目されます。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
Finasee編集部
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