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払わないと受信料が2倍に? NHKが「スマホからも受信料徴収」したいワケ

Finasee / 2023年6月16日 17時0分

払わないと受信料が2倍に? NHKが「スマホからも受信料徴収」したいワケ

Finasee(フィナシー)

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2023年4月27日、NHK(日本放送協会)の業務を検討する総務省の有識者会議「公共放送ワーキンググループ(WG)」の第7回会合が開催。産経新聞の報道によると、スマートフォンなどで放送を視聴可能な人からの受信料収入が、NHKの財源として望ましいとの意見が有識者間で一致したという。

かねてからNHK受信料については「公共の電波なのに、テレビを持っているだけで支払いを強制されるのはおかしい」などと、疑問の声をあげる世帯が一定数いた。そのうえ、スマホユーザーにまで費用負担を求めるとなると、さらなる議論の的となりそうだ。

ここではNHKが通信領域に重点を置き始めた背景について、「そもそもNHKとはどのような組織なのか?」などをおさらいしつつ、ひもといていこう。

大手グループ企業さながらの規模を誇る特殊法人

国の行政機関でもなく、民間企業でもない… NHKがいったいどのような組織なのか、疑問に思う人もいるだろう。

NHKの起源は戦前までさかのぼり、1925年に日本で初めての放送を行った「東京放送局」など、放送黎明(れいめい)期に政府から事業許可を受けた複数の公益法人が主な母体だ。その後終戦からほどなくした1950年、日本の放送の基本的ありかたについて定めた「放送法」にもとづく特殊法人として設立された。

特殊法人とは公団・公社や金庫など、国に必要な事業のうち能率性などの観点から「企業的経営」がなじむと判断されたものについて、これを行わせるために特別な法人格を与えられた事業体を指す。

行政機関などとは違い、可能な限りの自主性を重んじて経営されるのが大きな特徴。しかし事業計画など特定の領域において、国会の承認や所轄官庁などの監督を必要としている。NHKの場合は以下のような国の規制がある。

 

出所:総務資料「NHKのガバナンス等について」

NHKが「国に必要」として提供する事業が「公共放送」。その定義についてはさまざまな議論があるが、NHK自身は特定の利益や視聴率に左右されず、信頼性のある「公共の福祉のために行う放送」などを特徴としてあげている。

例えば、NHKが公共放送の意義としてあげる事例が、緊急災害時における大幅なタイムテーブルの変更だ。これはスポンサー広告などの利害関係が絡む民間放送局では、比較的行いにくいだろう。また、古典芸能や教養・福祉に関する放送など、市場性や視聴率で測ることが難しい放送も特徴といえる。

非営利を旨とする方針は法にもとづくもので、放送法により、NHKは自ら営利目的の事業を行ってはならないとされている。このように公的事業を担う行政機関のような性格を帯びる一方、複数の事業会社に株主として出資するグループ会社のような側面も持ち合わせる。

NHKが出資した企業は「子会社」や「関連会社」と呼ばれる。そのほか、NHKに関連する公益事業を担う一般財団法人、学校法人、社会福祉法人などの「関連公益法人」もある。

これらすべてを総称して、NHKの「関連団体」という。2023年4月1日現在、関連団体は子会社12社、関連会社4社、関連公益法人など6団体の計22団体。大手ホールディングスさながらの規模を誇っている。

受信料の公平負担を求めて割増金制度も導入

そんなNHKは、国からの一部交付金を除いて、基本的に自立した財政基盤を築いている。冒頭でも述べた「受信料」の制度であり、これはNHK放送を受信できるテレビ保有世帯から定期的に徴収する費用を指す。

NHKは収入を国家やスポンサーといった特定の利害関係者に依存しないことで、外部からの関与を受けにくい「表現の自由を守る言論報道機関」を掲げてきた。受信料はNHKのアイデンティティーの根拠となるビジネスモデルといえる。

こうした背景もあってか支払率を高く維持するためにも、NHKは文書・電話そして訪問営業などを通じて受信料の公平負担を強く求めてきた。

2024年4月からは、正当な理由なく受信料負担を逃れてきた世帯に対し、支払わなかった費用の2倍相当額を請求する割増金制度も導入。NHKは「一律に請求するのではなく、顧客の個別事情を総合勘案していく」としているが、制度の運用次第で新たな論争を呼び起こしそうだ。

なお、NHKは受信料以外にも収入があり、前述した交付金収入のほか、DVD・出版物などによる副次的収入や、利息・配当金など財務収入、固定資産売却益などさまざまだ。

こうしたもろもろの収入を含め、NHKの決算は公式ホームページにて公開されている。2022年半ばに発表された2021年度決算では、事業収入が約7009億円。そのうち、受信料収入は約6801億円と97%程度を占めている。

ネット事業費の上限は20年で20倍、急速なデジタルシフトへ

さまざまな収益源がありつつも、NHKの収益の柱はあくまでも「受信料」ビジネス。これが今、大きな転換期を迎えているのはご存じだろうか。

冒頭で述べた有識者会議をはじめ、2022年ごろより、NHK放送を視聴できるスマートフォンなどの保有者から受信料を徴収することを、本格的に議論し始めているのだ。国民から大きな反発を招きかねない動きの理由は何があるのだろうか。

根本的な背景には、モバイル端末の普及によるインターネットユーザーの急増、そして動画ストリーミングなどのデジタルコンテンツの普及がある。激変するメディア環境により、国民の「地上波離れ」は急速に進んでいる。

例えば、NHK放送文化研究所が5年に1度行う「国民生活時間調査」の2020年調べでは、1日(平日)にテレビを見る人は全体の79%で、15年の85%から大きく減少。とくに若い16〜19歳代後半では47%と約半数がテレビを見ない結果となっている。

現状の受信料制度を維持しているだけでは、将来的な収入のダウンサイジングはどうしても避けられない。事実、受信料契約数の低下などに伴い、2019年度以降は減収傾向が続いている。

あくまで非営利を掲げるNHKだが、将来的には組織の円滑な運営すら危ぶまれる事態にもなりかねない。そのため、提供コンテンツのデジタルシフトが急務となっているわけだ。

そんなNHKの思惑は「インターネット活用業務」の拡大方針からも見てとれる。NHKでは現在、地上波事業を必ず行うべき「必須(本来)業務」とし、現在のインターネット活用事業はあくまで実施可能な「任意業務」と呼ぶ。

 

出所:総務資料「インターネット活⽤業務の財源と受信料制度に関する論点」

このように、現状はあくまでテレビ放送の補完的位置づけとなっているネット事業だが、その費用や予算上限額が近年大幅に拡大しているのだ。

 

出所:決算概要などNHKの各種資料

ネット事業の財源について、現状はまだ安定している受信料収入に加え、これまで積み増してきた繰越余剰金(内部留保)が5000億円以上たまっており、事業開拓に投じられる資金は豊富だ。一般企業よりはリスク投資に臨みやすい環境といえる。

とはいえ、ネット事業拡大の道のりは、決して平たんとはいえない。NHKには乗り越えるべきハードルがいくつもあるのだ。

後編『NHKのネット進出が民業を圧迫? 総務省からは「耳にタコ」の改革要請』
では、今後のネット事業展開における懸念点や、同社が総務省から要請された改革内容などについても詳しく解説していく。

文/藤田陽司(ペロンパワークス) 

Finasee編集部

金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。

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