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超重要なのに…経済ニュースで「金利」があまり取り上げられない理由

Finasee / 2023年6月29日 11時0分

超重要なのに…経済ニュースで「金利」があまり取り上げられない理由<br />

Finasee(フィナシー)

世界的な金融緩和政策が転換の兆しをみせ、米国の利上げや日銀の出口政策にも注目が集まっています。この数年で揺らぐ金利大変動が移行期を迎えている今こそ、これらのポイントとなる“金利”の意義や仕組みについて改めて知っておきたいところです。

金利について学ぶことは金融の基本であり、金利を糸口にすれば経済を読み解けると説くのが金融アナリストの田渕直也氏。話題の書籍『教養としての「金利」』では、世界経済の新たな構造変化の土台となる金利の基本について解説。今回は本書冒頭の「はじめに」と第1章「金利とは何か」、第2章「金利の計算方法」の一部を特別に公開します。(全4回)

●第1回:無関心で済んだ時代は終わり…大人にとって「金利」が必須の教養になる理由

※本稿は、田渕直也著『教養としての「金利」』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

金利の3つの役割

すでに触れたとおり、金利はお金の借り賃である利息を計算するために使われます。これは、金利の最も基本的な用法といえるでしょう。しかし、金利にはほかにも重要な役割があります。

たとえば、銀行が誰かにお金を貸すかどうかを判断するときに重要な判断材料のひとつが、どのくらいの金利で貸すか、ということです。当たり前のことですが、銀行にとってはできるだけ高い金利で貸すほうがいいですよね。

金利が高ければそれだけ銀行の収益が増えるからです。つまり金利は、お金を貸す側にとっては収益性を判断する基準になるのです。

ここで簡単な数式を登場させましょう。数式をみると頭が痛くなる人は少なくないかもしれませんが、金利の理解にはどうしても最低限の計算が必要になります。とはいってもここに登場するものは極めて単純なものなので、とりあえずは安心してください。

金利で利息を計算し、収益性を判断する

まず、利息は、

元本×金利(利率)=利息

という形で計算できます。実際の計算では、どのくらいの期間にわたって利息を計算するのかという情報が必要ですが、ここでは概念を理解することに重きを置いているので、とりあえず期間の話は無視します。

さてここで、元本と利息の額がわかっているとして、金利(利率)を逆算する式に変えてみましょう。

金利(利率)=利息/元本

ということです。これを、何かに投資する投資家の立場に立った場合の一般的な用語を使って書き換えれば、次のように表すことができます。

収益率=収益/投資額

収益率は、投資した額と、それによって将来得られる収益がわかっているとして、その比率を計算するものであり、投資をするべきかどうかを決定するために収益性の高低を判断する指標となります。

たとえば、この後、何度も登場する債券は、企業や国がお金を借りるための重要な手段ですが、一般的には将来得られる収益の額があらかじめわかっています。

そこで投資家は、その債券に投資することが十分な収益性をもたらすかどうかを、収益率を計算することによって判断するわけです。この収益率のことを、とくに債券の場合は利回りと呼びます。

債券利回りは、債券投資の収益性を判断する目的で計算される金利の一種であり、したがって債券利回りを金利と言い換えることも可能です。

ちなみに、収益率の計算は株式投資でも、あるいは会社の事業計画でも、同じように適用することができます。そういう場合にも収益率を利回りと言い換えることはありますが、利回りという言葉は、明確な定義があるわけではないにしろ、その収益率の計算がある程度の確度をもっている場合に使われることが多いようです。

したがって、収益率を高い確度で計算できる債券の場合は収益率を利回りと呼び、さらにそれを金利と言い換えることも可能になります。

金利を使えば、投資すべき金額を計算できる

さて、先ほどの金利計算の式はもうひとつ別の変換が可能です。覚える必要はまったくないので式としては表しませんが、将来得られる収益の額と金利がわかれば、元本額を計算できるというものです。

元本なんて計算しなくてもわかっているはずではないかと思われるかもしれませんが、この元本を価格と置き換えてみてください。

そうすると、将来得られる収益額がわかっていて、目標とする収益率があるとすれば、その2つからいくらの価格で投資をすればよいかがわかることになります。これが金利の3つ目の役割です。

たとえば、ある一定の金利水準のときに、その金利を使えば、債券などの金融商品のあるべき価格が計算できます。あるいは、賃貸用の不動産に投資するときに、賃貸料の見込みと、目指すべき収益率から投資すべき金額が計算できます。

これは一般に、現在価値計算といわれるものです。そして、この計算に使われるときの収益率や金利を割引率と呼んでいます。

本記事では、この割引率の登場機会があまり多くはありませんが、より専門的な金融実務では非常に重要となる金利の使い方のひとつです。

ということで、金利には、1:利息を計算する、2:投資対象の収益性を判断する、3:投資対象に投資すべき価格を計算するという3つの役割があることがわかりました。

ここでの説明は簡略化しているのでイメージがしづらいかもしれませんが、詳しい説明は追々としていきますので、まずは「金利にはいろいろな使い道があるんだな」と捉えてもらえばよいと思います。

金利は地味だけど、ものすごく重要

一般的に金利には、とても地味な印象があると思います。その理由はいくつかあると思いますが、第一に、利率としての金利が非常に小さな値を扱うものだということがあります。

たとえばこの項を執筆しているときの日本の10年物国債利回りという金利はおよそ0.5%です。実数で表記すれば、0.005というとても小さな値ですね。なんだか非常にせせこましい感じがしてしまうのです。

そして、理由の第二に考えられるのは、金利が経済ニュースなどで取り上げられることが比較的少ないということです。

もっとも、これらは金利が重要でない理由にはなりません。まず、取り扱う数字の小ささですが、これはあくまでも率としてみた場合であって、額としても小さいわけではありません。

一般に個人が最も金利にかかわるのは住宅ローンでしょう。住宅ローンの平均借入額は、新築物件だとだいたい3000万円くらいになります。利率自体は現在、超低金利なのでとても低いですが、元本が大きければ利息額そのものは必ずしも馬鹿になりません。

また、先ほど日本国債の利回りの話をしましたが、こちらも歴史的な低水準にあるものの、国債の発行残高は1000兆円ほどもあります。株式市場の時価総額は時期によって結構変動しますが、ざっくりいえば700兆円くらいです。

それと比べても、金利が大きく関係する債券市場の規模がいかに巨大なものであるかがわかります。

そうするとやはり、額としての金利もそれなりに大きなものになります。さらにいえば、金利は時期によって水準が大きく変化します。いまの日本は超低金利が続き、それが金利に対する関心を低める一因にもなっているのですが、いつまでもそうだとは限りません。

たとえば、2022年にアメリカでは金利がすさまじく上昇しました。返済までの期間が30年の住宅ローン金利は、年初の3%ちょっとから、10〜11月には7%強にまで上がりました。このことによる家計への影響は甚大です。

同じ期間のアメリカ10年物国債利回りをみると、こちらも1.5%ほどから最高で4.2%くらいにまで上がっています。アメリカ国債の発行残高は円換算でざっくり3000兆円以上の規模があるので、これだけの金利変動による影響はやはり非常に大きなものとなります。

だからこそ、このアメリカにおける金利上昇が、現在の世界経済を大きく揺さぶる要因となっているのです。

大きく変化しない金利はニュース性が低い

次に、経済ニュースであまり取り上げられないことについてです。

この点については、いまのアメリカの話とは少し裏腹になりますが、株式相場や為替相場に比べると、金利は通常あまり大きく変化しないということがあります。だからニュース性が低いのです。

結果として、メディアでも、株式市場に比べて金利に詳しい記者は少なくなり、ますます報じられなくなっていきます。

もちろん先ほどのアメリカのように、珍しく金利が急変動すると経済的には大ニュースになるのですが、普段金利について報じていないものだから、扱い始めてもどこかおっかなびっくりで、ちょっとあやふやな内容も多く、受け手の側にも「金利のニュースはなんだかよくわからないな」といったイメージが広がってしまいがちです。

ということで、金利にまつわる地味さや、ある意味でのつまらなさは、金利の重要性が低いことに由来しているのではないということです。むしろ、とても重要なのに、なんだか敬遠されがちなのが金利なのです。

ですから、その金利を理解することで、いままで見えていなかったいろいろなことが見えてくるようになるはずです。そのための具体的な話を次回以降でしていくことにしましょう。

●第3回(「利息」は日割り計算が一般的…どう計算される? 数式とともに具体的に解説)では、金利に関する様々な“決めごと”や具体的な注意点について解説します。

『教養としての「金利」』

田渕直也 著
発行所 日本実業出版社
定価 1,870円(税込)

田渕 直也/金融アナリスト

1963年生まれ。1985年一橋大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行に入行。海外証券子会社であるLTCB International Ltdを経て、金融市場営業部および金融開発部次長。2000年にUFJパートナーズ投信(現・三菱UFJ国際投信)に移籍した後、不動産ファンド運用会社社長、生命保険会社執行役員を歴任。現在はミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役。シグマインベストメントスクール学長。『この1冊ですべてわかる デリバティブの基本』『ランダムウォークを超えて勝つための株式投資の思考法と戦略』『[新版]この1冊ですべてわかる 金融の基本』『図解でわかる ランダムウォーク&行動ファイナンス理論のすべて』(以上、日本実業出版社)、『ファイナンス理論全史』(ダイヤモンド社)、『「不確実性」超入門』(日経ビジネス人文庫)など著書多数。

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