歴史的円安、日銀の為替介入…激動の2022年為替相場から学ぶべきこと
Finasee / 2023年7月7日 11時0分
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米国の利上げ基調を背景に、円安・ドル高が進んだ2022年。一時1ドル150円台をつけたり、政府・日銀による約24年ぶりの円買い・ドル売り介入が実行されるなど、為替にまつわるニュースが注目された1年でした。また、投信投資家にとっても、所有する投資信託の種類によっては基準価額に為替が影響するケースもあり、為替市場に対する理解を深めたいと感じた人も多いでしょう。
話題の書籍『〈最新版〉本当にわかる 為替相場』では、トップアナリスト・尾河眞樹氏が、豊富な現場経験に基づく考察をまじえながら為替市場の仕組みから相場の変動要因の真相まで詳しく解説。今回は本書冒頭の「まえがき」、第1章「そもそも為替レートとは?」を特別に公開します。
※本稿は、尾河眞樹著『〈最新版〉本当にわかる 為替相場』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
大相場を思い知らされた2022年2022年は、長らく外為市場に向き合っている筆者にとっても、正に「記憶に残る1年」となりました。ドル円相場は10月に151円95銭と、32年ぶりの円安・ドル高水準を付け、これに先立ち9月には、政府・日銀が24年ぶりとなる円買い介入に踏み切りました。
同年は、ほかにも歴史的な出来事が目立ちました。新型コロナの影響が世界各地で残るなか、2月のロシアによるウクライナ侵攻は、原油や天然ガスといった資源価格の急騰を招きました。米国は40年ぶりの物価上昇に苦しみ、ユーロ圏でもインフレ率が過去最高となるなど世界的にインフレが加速。
欧米の中央銀行は、正に歴史的といえるハイペースな利上げに追い込まれました。また、地球温暖化により世界各地が記録的な自然災害に見舞われました。とくに欧州では熱波により山火事が多発したほか、ドイツのライン川の水位低下で、物流に影響を及ぼす事態となりました。
そして、これらの出来事すべてが、世界各国の為替レートに影響を及ぼしたのです。実際に、世界の政治経済と金融市場はすべてがつながっているのだということを、改めて思い知らされた1年となりました。「歴史は繰り返す」と言いますが、こうした歴史的な事象による為替相場への影響は、今後の為替相場を予測するうえでも必ず参考になるはずです。
為替の見極めに大切なのは「相場観」ところで、2022年の大相場を経て、ひとつ嬉しいことがありました。筆者は某通信社の運営するホームページ上に、月1回コラムを寄稿しているのですが、担当の編集者から2022年末にいただいたご挨拶のメールに、次のように書かれていました。
「相場が大荒れとなった1年でしたが、相場の読みの鋭さに敬服するばかりです。理論に加えて、ご経験に基づく実践的な勘があるのでしょうか」
まさに、アナリスト冥利に尽きる一言で、ご興味を持ってコラムを読んでいただいている読者に対し、少しでもお役に立てたのではないか、と実感できた瞬間でした。
本記事で解説しているとおり、為替相場はさまざまな要因で動きます。為替相場を分析するにあたっては、経済理論や統計などの基礎的な知識が必要です。しかし、相場が必ず理論どおりに動いてくれればよいのですが、実際にはなかなかそうはいかないのがむずかしいところです。
たとえば、先にも述べたロシアのウクライナ侵攻ですが、事前予測では、理論的に考えればまず起きないだろうといわれていました。しかし、実際には起きてしまい、世界経済や金融市場に極めて大きな影響を及ぼしました。政治も経済も金融市場も、結局は人間が動かしているのであって、時にロジックでは説明できないことが起こり得るのです。
また、もうひとつ相場のむずかしいところは、既に起こった事実ではなく、市場参加者の「期待」で大きく動くところです。このため、「市場参加者の多くは、今後何に注目するだろうか」、「今後、相場のどういった点に市場参加者の期待が高まりそうか」というように、人々の心理を読み解く力も必要になってきます。
これこそ、マーケットの非常に人間味のある、面白いところでもあるのです。
正しい情報は為替レートを読みとる羅針盤ディーリングルームでまだ新人のころ、先輩ディーラーに「相場観はどうやって磨くのですか?」と尋ねたことがあります。当時はまだ、FX市場も発展途上にあり、為替相場のロジックから嗅覚まで、個人投資家にもわかりやすいように網羅的にまとめた書籍はほとんどありませんでした。
先輩はまだヒヨッコの私に「経験が大事」と仰っていましたが、その後、外資系金融機関の為替ディーラーから事業法人の財務部門での為替ヘッジ業務、為替アナリストと、筆者自身が外国為替を軸にさまざまな業務に携わる機会をいただき経験を積んだことで、実際に見えてきたことがあります。
それを何とか書籍にまとめたいと、思い切って『本当にわかる為替相場』を最初に出版したのが2012年5月。それからあっという間の11年でした。
いまや、個人投資家でもスマホさえあれば、現状のスポットレートを確認でき、瞬時に売買することもでき、金融市場の情報も簡単に得られるわけで、新人時代からいまに至るまでの、 すさまじいITイノベーションの波と、外為市場の民主化には目を見張るばかりです。
YouTubeでも、頻繁に相場の解説が行なわれるなど、動画でもわかりやすい情報発信が行なわれており、いちいちディーリングルームに電話してレートを確認したり、ポケットロイターなどの携帯用情報端末を持ち歩いたりしていた世代からすると、正に隔世の感があります。
ただ、インターネット上に情報が溢れる世の中だからこそ、情報の取捨選択はむしろむずかしくなっているように見えます。
1日平均7.5兆ドル(約1000兆円)もの取引が行なわれている外為市場という大海に小さなヨットで漕ぎ出したら、大きな波に飲み込まれぬよう、風向きや風速、天候や波の状態など、羅針盤を片手に確認すべき基礎的かつ重要な情報があるはずです。
大海で方向感を見失ったとき、為替相場は止まって待っていてはくれませんので、その時点から溢れる情報を取捨選択していては間に合わないと思います。
そうした点からも、為替市場にかかわる多くの方々に、何か迷ったときにふと目を通して、「あ、そうだったな」と立ち返っていただくような、そんな羅針盤のような存在として活用いただければ、こんなに嬉しいことはありません。
●第2回(まずは“この3つの通貨レート”をチェックせよ! 為替のトレンドをつかむ王道とは)では、他国の金融政策にも目を向ける重要性や注目すべき通貨のペアなどについて解説します。
『〈最新版〉本当にわかる 為替相場』![](https://finasee.ismcdn.jp/mwimgs/f/c/800m/img_fc5658a44c765d14ddb808c4c3b7341c1009273.jpg)
尾河眞樹 著
発行所 日本実業出版社
定価 1,870円(税込)
尾河 眞樹/ソニーフィナンシャルグループ執行役員 兼 金融市場調査部長 チーフアナリスト
ファースト・シカゴ銀行、JPモルガン・チェース銀行などの為替ディーラーを経て、ソニー財務部にて為替リスクヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析を担当。2016年8月より現職。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、日経CNBCなどにレギュラー出演し、金融市場の解説を行なっている。著書に『ビジネスパーソンなら知っておきたい仮想通貨の本当のところ(2018年朝日新聞出版社)』などがある。ソニー・ライフケア取締役、ウェルスナビ社外取締役。
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