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日本人はFX好き? 2022年は個人のFX取引高が初の「1京円超え」―過去最高額となった理由とは

Finasee / 2023年6月19日 17時0分

日本人はFX好き? 2022年は個人のFX取引高が初の「1京円超え」―過去最高額となった理由とは

Finasee(フィナシー)

日本銀行が先日発表したレポートによると、2022年中に行われた個人の外国為替証拠金取引(FX)の年間の取引高が、初めて1京円を超えました。本記事では、日銀が個人のFX取引に関心を持っている理由と、個人の取引高が急増した背景を解説します。

個人のFX取引が過去最高を記録

日本銀行が6月9日に発表した「日銀レビュー」のテーマは、「2022年を中心とした最近の個人FX取引」でした。同レポートによると、2022年中に行われた個人投資家による外国為替証拠金取引(個人FX取引)は過去最高を記録し、年間の取引高が初めて1京円を超えたということです。

株式や債券、各種デリバティブなど、さまざまな金融取引はありますが、その取引高が「京」の単位になるケースというのは、恐らくめったにないことです。

ちなみに2022年中における東証プライム市場の売買代金は605兆4162億円ですし、国内ETF市場の売買代金が70兆212億円、東証REIT市場の売買代金が14兆9986億円です。なお、金融取引で圧倒的な取引量を誇るのが債券市場で2022年中における公社債店頭売買高は、約4京4842兆2000億円でした。

ただ、これらの売買代金は個人ベースではなく、さまざまな機関投資家なども含めた数字です。たとえば4京4842兆2000億円の取引高を誇る国内公社債市場の取引参加者のうち、個人の取引高はごくわずかですし、それは株式市場も同じです。

その比較感からすると、個人のみで1京円を超える取引が行われている外国為替証拠金取引のすごさが分かります。

日銀が個人のFX取引に注目する理由

ところで、日本銀行がなぜ個人のFX取引に対して関心を持っているのかというと、それは個人がFX取引を行うことで、インターバンク市場のスポット取引の相場形成に影響を及ぼすと考えられているからです。

スポットレートとは、取引が約定されてから資金受渡日までの期間が2営業日以内の取引に対して適用される外国為替レートのことです。よくニュースなどで報じられている外国為替レートは、このスポットレートになります。

FX取引を行う個人は、さまざまな通貨の売買注文をFX会社に発注します。たとえば米ドル/円で、円売り・米ドル買いの個人もいれば、円買い・米ドル売りの個人もいます。あるいはユーロ/米ドルや米ドル/豪ドルの取引など、さまざまな通貨ペアの取引が行われています。

こうしてFX会社は、そこに集まってくる各通貨の売り注文と買い注文をつけ合わせます。その結果、たとえば米ドルの売り注文と買い注文が同数になれば良いのですが、さまざまな通貨ペアと取引されているので、売り買いの注文が同数になることはありません。必ず特定の通貨の売り注文か、買い注文が余る形になります。

仮に、米ドルの買い注文が50万ドル分、残ったとしましょう。この時点ではFX会社が自己勘定で50万ドルの買い注文を持っている形になりますが、この状態で円高が進んだとしたら、このFX会社は50万ドルに対して為替差損を被ることになります。

それはFX会社の財務リスクになりますから、このFX会社はインターバンク市場を通じて、50万ドルを買いたいと考えている主体に売却します。その結果、インターバンク市場に50万ドルの売り注文が出てきます。

こうして、個人のFX取引によって、インターバンク市場のスポットレートに影響が及ぶことになるのです。

日銀は「物価の番人」ですが、同時に財務省の代理人として、外国為替市場が行き過ぎた場合には、為替介入を行う権限を持っています。

なぜなら、日本のように海外から資源・エネルギー、食料の類いを大量に輸入している国にとって、為替レートの値動きは、国内物価に大きな影響を及ぼすからです。その関連で、日銀は個人のFX取引の動向が外国為替レートに及ぼす影響を常に注視しているのです。

同レポートによると、全スポット取引に占める個人関連の割合は、グローバルでは5%程度であるのに対し、日本国内では全体の約2割が個人の取引で占められたということです。

また、グローバル市場に占める日本のスポット取引高と個人関連の取引高のシェアを見ると、スポット取引が10%未満であるのに対し、個人は約3割にも達したそうです。

つまり日本の個人が行っているFX取引は、グローバルの外国為替市場でも、一定のプレゼンスを持っていることになります。

個人の取引高が急増したのはなぜ?

その個人が、2022年中になぜ1京円を超えるほどの大規模な取引を行ったのでしょうか。同レポートでは、その要因のひとつに「短期的な取引の活発化」を挙げています。

FX取引には2つのパターンがあります。金利の低い通貨を売り、金利の高い通貨を買って、両通貨の金利差をスワップポイントとして獲得していく「キャリートレード」と、外国為替レートの値動きを捉えて売買を繰り返す「短期トレード」です。

特に前者は、スワップポイントを稼ぐのが主目的ですから、短期間のうちに売買を繰り返すのではなく、ポジションを長めに保持する傾向があります。一方、短期トレードは売ったら買い、買ったら売りを繰り返すため、取引高全体を増やす方向に作用します。

これは具体的な数字にも表れています。日本銀行のレポートでは東京先物取引業協会の数字を挙げて解説していますが、特に2022年に入ってからは、建玉に対して取引高が大きく上回っていることを指摘しています。

建玉とは、短期売買を繰り返すことなく保持され続けている外貨の買いポジション、あるいは外貨の売りポジションのことで、この中にスワップポイントの獲得を目的にしたポジションが含まれています。

それに対して、取引高は売買されている金額ですから、これが2022年に入って急増しているのは、個人のFX取引の目的がスワップポイントの獲得にあるのではなく、売買益の獲得にあることを意味するのです。

では、どうして2022年に入ってから、ここまで取引高が急増したのかというと、やはり米ドル/円が大きな米ドル高トレンドを描いたからだと思われます。実際、同レポートでも、2022年の個人FX取引の特徴のひとつとして、米ドル/円の取引の活発化を指摘しています。

米ドル/円の動きを見ると、2022年1月が1米ドル=115円台から、同年10月21日には151円94銭まで米ドル高が続き、同年12月30日には1米ドル=130円78銭の安値まで売られました。

これはチャートを見ると分かるのですが、米ドル/円は2016年以降、非常に狭いレンジでの推移が続いていただけに、2022年は久々に大きなトレンドを描いた1年になりました。この大相場が、個人の短期トレードを促して、取引高の急増につながったと思われます。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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