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たった1人に国家が負ける? 先進国も敗北した「市場」の恐ろしさ

Finasee / 2023年7月2日 11時0分

たった1人に国家が負ける? 先進国も敗北した「市場」の恐ろしさ

Finasee(フィナシー)

・中国が抱える重大問題…景気は停滞、人口流出の止まらぬ“特別地域”

2022年からドル円は円安傾向が続いています。同年9月には24年ぶりに為替介入が行われ、一部では「通貨危機」を指摘するような声も聞かれるようになりました。

【ドル円(日足終値)】

Investing.comより著者作成

通貨危機に陥るとどのような状況に追い込まれるのでしょうか。「アジア通貨危機」の例を振り返ってみましょう。

バーツを支えきれなくなったタイ

1997年7月2日、タイはそれまでの「ドルペッグ制」(※)を放棄し、変動相場制に追い込まれました。ドルペッグ制とは、自国通貨のレートを米ドルと連動させる為替制度です。

※タイは複数の通貨への連動を目指すバスケット方式だったが、米ドルへのウエートが85%に達していたとみられ、実質的なドルペッグ制だった。

ドルペッグ制を採用し基軸通貨である米ドルと連動させると、外国からその国への投資は為替リスクが低減することになります。また工業品などを輸入に頼ることが多い新興国においては、輸入物価が安定することからインフレを抑える効果にも期待できます。

ただし、ドルペッグ制を宣言したからといって、市場がそれを受け入れるとは限りません。アメリカと経済的な条件が合致しない場合、その国の通貨は不当に高い(あるいは不当に安い)レートで取引されることとなり、価格形成に歪みが生じます。歪みは市場から修正の圧力を受け、ドルペッグ制を採用する国は為替介入などで抵抗することになります。

アジア通貨危機は、その抵抗が市場の圧力に負けた事件です。アメリカは1995年ごろから「強いドル」政策を採るようになり、米ドルの上昇が続いていました。ドルペッグ制を採用するタイは自国通貨のバーツを米ドルへ追随させるよう仕向けた結果、バーツは実力に見合わない高いレートで取引されるようになります。

この歪みがヘッジファンドの目に留まり、バーツは大量の売りを呼び込みました。タイは外貨準備を取り崩してバーツを買い支えますが、売り手の攻勢はやまず、1997年7月に変動相場制へ追い込まれます。バーツは急落し、対円では50%以上下落しました。

【タイバーツ円の推移(月足、1996年1月~1998年12月)】

Investing.comより著者作成アジア通貨危機で生じた深刻な経済危機

アジア通貨危機は、単に為替が値崩れしただけでなく、実体経済に深刻な影響を与えました。

為替レートの急激な下落は、同じくドルペッグ制を採用していたインドネシアや韓国といったアジアの国々にも伝播します。これらの国は外国からの投資で大きく成長していました。しかし為替が急落すると急速に資金が流出し、対外債務の増加とそれらに起因する信用不安が台頭するなど、深刻な打撃を受けます。

自力での再建を断念したタイとインドネシア、韓国の3国はIMFへ支援を求めました。IMFが緊急融資の条件として厳しい緊縮財政を強いたこともあり、1998年には大幅なマイナス成長を記録します。特にインドネシアは前年比50%台の記録的なインフレに見舞われ、経済は大混乱に陥りました。

【主なアジアの国の実質GDP成長率(1996年~2000年)】

 

出所:IMF 世界経済見通し(2023年4月)

【主なアジアの国のインフレ率(1996年~2000年)】

IMF 世界経済見通し(2023年4月)より著者作成管理為替相場の敗北の歴史

ドルペッグ制のように、為替を管理しようとする試みは多くの国で行われてきました。しかし、それによって生じる歪みを市場が見逃すことはありません。通貨をコントロールすることができず、相場の急変を招くケースがたびたび生じてきました。

「ポンド危機」はその代表的な事例です。著名投資家のジョージ・ソロス氏は、イギリスが参加するERM(欧州為替相場メカニズム)(※)によって英ポンドが割高になっていると判断し、100億ドル以上の大規模な売りを仕掛けました。

※ユーロ導入に先立って参加国の為替相場の変動の抑制を目指した制度

イギリスは自国通貨を支えることができず、ERMからの脱退に追い込まれます。英ポンドは激しく値下がりし、ポンド円は260円台から140円台にまで下落しました。

【英ポンド円の推移(月足、1991年1月~1993年12月)】

Investing.comより著者作成

近年では「スイスフランショック」が記憶に新しいでしょう。スイスは2011年、ユーロに対して自国通貨のフランが上昇し過ぎないよう1ユーロ=1.2フランの上限を設定し、これを維持するため無制限に為替介入を行うと宣言します。

しかしギリシャショックなどで信用不安が広がったユーロには下落圧力が働きやすく、スイスはフランの上昇を抑えこむことが難しくなります。そして2015年1月に突如として設定した上限の撤廃を発表し、ユーロスイスフランのレートはわずか20分ほどの時間で0.8フラン台にまで急落しました。ごく短い時間に急激な変動が生じたことから、多くの投資家が損失を抱えたとみられています。

【ユーロスイスフランの推移(月足、2014年1月~2016年12月)】

Investing.comより著者作成

このように、為替相場をコントロールすることは主要な先進国であっても難しく、市場との戦いに敗れるとタガが外れたような急変が起こり得ます。管理為替相場を採用する国の通貨であっても、取引の際は十分に注意するようにしましょう。

執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。

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