バトルの末“失望”を表明… セブン&アイと物言う株主が対立する理由
Finasee / 2023年6月20日 17時0分
Finasee(フィナシー)
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「セブン&アイ・ホールディングス」が好調です。2023年2月期は売上高に相当する営業収益が小売業で初めて10兆円を突破し、純利益も過去最高を記録しました。株価も堅調で、2023年1月には上場来高値を約7年半ぶりに更新しています。
【セブン&アイ・ホールディングスの業績】
※2024年2月期(予想)は2023年2月期時点の同社の予想出所:セブン&アイ・ホールディングス 決算短信
【セブン&アイ・ホールディングスの株価(月足、2020年5月~2023年5月】
出所:Investing.comより著者作成
セブン&アイは2023年にコンビニ事業50周年を迎えます。今注目の企業、セブン&アイに焦点を当ててみましょう。
国内トップクラスの巨大小売りチェーンセブン&アイは国内で最大規模の売上高を誇る企業です。2番手のイオンと拮抗(きっこう)する状態が続いていましたが、直近の決算では2兆6000億円以上の差を付けました。2021年に買収したアメリカのコンビニ「スピードウェイ」の寄与分が大きな差につながったとみられています。
【主な小売業の売上高】
出所:各社の決算短信
セブン&アイの成長は主に『セブン-イレブン』を中心としたコンビニエンスストア事業がもたらしましたが、もともとは総合スーパーの『イトーヨーカドー』を中心とした企業でした。
1920年、創業者である伊藤雅俊(いとう・まさとし)氏の叔父が洋品店の「洋華堂」を開業し、1940年に兄がのれん分けを受けます。伊藤氏は兄の洋華堂に参画しますが、1956年に兄が急逝。伊藤氏が経営を引き継ぎ、1958年に現在の「イトーヨーカ堂」を設立しました。ハトが四つ葉のクローバーをくわえた同社のロゴマークは、このときに誕生します。
その後、1973年に現在の「セブン-イレブン・ジャパン」を設立し、国内でセブン-イレブン事業を開始しました。これが大当たりし、1980年には出店数1000店舗を達成。2001年にはチェーン全店の売上高が国内小売業でトップになりました。セブン-イレブン・ジャパンの企業価値が親会社のイトーヨーカ堂を上回るようになったため、2005年にセブン&アイを持ち株会社として資本関係を整理し、現在の体制になっています。
米セブンを買収!躍進する海外コンビニ事業セブン-イレブンはもともと米国発祥のコンビニチェーンで、国内ではライセンス契約に基づいて展開されていました。しかし日本セブンが大きく成長した一方、米セブンは1980年代に業績が急激に悪化し、現在のセブン&アイに支援を求めます。そして1991年に米セブンの運営会社株式を取得し、2005年に完全子会社化しました。アメリカから輸入した日本のコンビニが、発祥の企業を飲み込んだ瞬間でした。
これを機にセブン&アイの海外事業は大きく前進し、現在では全世界に8万5000店舗を構える世界的な小売りグループとなっています(2023年2月末時点)。特に海外コンビニエンスストア事業の発展が目覚ましく、2023年3月期にはセグメント売上高が8兆円を突破しました。営業利益でも国内を初めて上回っており、セブン&アイの収益源が海外に移っている様子がうかがえます。
【コンビニエンスストア事業の推移】
出所:セブン&アイ・ホールディングス 決算短信より著者作成
セブン&アイは2022年1月、海外戦略を強化するため「セブン-イレブンインターナショナル(7-Eleven International)」を設立しました。これまで主に日本と北米で業績を伸ばしてきましたが、今後はさらに広範な地域へ進出する計画です。日本式のコンビニは新天地でも通用するのか、投資家の期待が集まっています。
アクティビストとの対立激化!株価はどうなる?セブン&アイを巡っては、“物言う株主”として有名な「バリューアクト・キャピタル」との対立が話題を集めています。
バリューアクトは2021年5月にセブン&アイ株式の4.4%を取得し、祖業のイトーヨーカ堂や百貨店を分離してコンビニエンスストア事業や食品小売業へ集中するよう求めてきました。セブン&アイはこれらの提案について一定の同意を示し、そごう・西部の売却を公表します。しかしイトーヨーカ堂の分離には同意せず、同事業の継続を前提とした中期経営計画を公表しました。
スーパー事業の分離に踏み切らないことに業を煮やしたバリューアクトは、2023年4月にセブン&アイ株主に宛てた公開書簡で経営陣の退陣を求めます。これを機に両者ははっきりと対立するようになりました。セブン&アイ取締役会はこの提案に全会一致で反対し、バリューアクトも公開レターで「失望」を表明して応酬します。
経営陣の交代を求めたバリューアクトの提案は、2023年5月の株主総会で否決されました。しかしもともと4%ほどしか議決権を持たないバリューアクトにとって、これは想定の範囲内だと思われます。バリューアクトは目標達成するまでセブン&アイ株式を保有する姿勢を明らかにしており、今後もなんらかの提案を続けるかもしれません。
仮にセブン&アイがイトーヨーカ堂を手放した場合、株式は上昇するのでしょうか。同社のスーパーストア事業の営業利益率は約0.8%と、国内コンビニエンスストア事業(同26.1%)や海外コンビニエンスストア事業(同3.3%)と比べれば効率的とはいえません(2023年2月期) 。
スーパー事業を売却し、その資金をコンビニエンスストア事業へ投資すれば、確かに収益は改善しそうです。また、複数の事業を展開することで株価が割り引かれるとされる「コングロマリット・ディスカウント 」の解消にも期待できます。これらから、もしもイトーヨーカ堂を売却するようなことがあれば、セブン&アイ株式には短期的には上昇圧力が働きそうです。
先の株主総会では、経営陣の再任に賛成する割合が20ポイント以上低下したことも話題でした。バリューアクトが同様の提案を続ければ、今後は経営陣の刷新に賛成する株主が増えるかもしれません。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
Finasee編集部
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