“高配当の甘言に釣られて広告をクリック”そこから始まる悲惨な被害
Finasee / 2023年7月13日 17時0分
Finasee(フィナシー)
暗号資産という言葉に対して聞き覚えがないという方でも、「ビットコイン」なら1度や2度、その名を耳にしたことはあるでしょう。昨今、そうした有名な暗号資産を悪用した投資詐欺が多発していますが、どんな手口で被害者はだまされてしまうのでしょうか。
そもそも、暗号資産とは?暗号資産は、かつて「仮想通貨」と呼ばれていたもので、日本銀行によると「インターネット上でやりとりできる財産的価値」であり、以下の性質を有するものと定義されています。
(1)不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米ドル等)と相互に交換できる
(2)電子的に記録され、移転できる
(3)法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない
出所:日本銀行「教えて!にちぎん」
暗号資産は、「ブロックチェーン」と呼ばれている電子取引台帳、すなわち暗号化によって、各種取引履歴を連鎖的に記録させる技術を用いて通貨価値を記録し、各種決済に使用できるものです。
紙幣、貨幣のようにリアルな「お金」の姿かたちは見られませんが、リアルマネーと同様、決済や交換、価値の保存といった通貨としての機能を持ち合わせています。かれこれ世の中に登場して10年ほどが経ちました。
暗号資産に注目が集まる“あるタイミング”その暗号資産が時折、大きな話題を呼ぶことがあります。大抵は、その価格が大きく上昇した時です。
暗号資産は確かに決済通貨としての側面を持ち合わせているのですが、現状では、ある種の思惑で取引価格が高騰するのを狙って売買し、価格差を利益にする投機的な対象になっています。
過去の値動きを見ると、2015年の10月頃までは1BTC=4万円程度で推移していたのが、2017年12月に167万円まで上昇。2019年2月には42万円まで下落。2020年9月頃までは113万円前後で推移していたのが、2021年4月には一気に632万円まで急騰しました。その後、320万円程度まで急落して、2021年11月には780万円の高値をつけ、現在は350万円程度で推移しています。
この数字を追いかけるだけでも、非常に値動きの荒さが見て取れます。逆に言えば、値動きが荒いということは、それだけ大きく利益を得るチャンスもあります。
そのため、一獲千金を狙っているような個人も含めて、暗号資産に値動きが出てくると、一気に投機的なマーケットになるのです。
暗号資産を悪用した詐欺事件そして、暗号資産が注目を集めるのと同時に、暗号資産の特性を悪用した詐欺事件も多発しています。
この手のケースでよくあるのが、暗号資産を利用した架空の運用話を持ち掛けるような事案です。警察庁の「令和4年における生活経済事犯の検挙状況等について」でも、以下のような事例が取り上げられていました。
元会社役員の男(56)らは、暗号資産取引に係る運用事業やFX投資運用を行う個人ファンドへの投資名目で金銭をだまし取ろうと考え、平成30年1月頃から同年8月頃までの間、受け取った金銭を同事業への投資金に充てるつもりがなく、配当金を交付できる見込みもないにもかかわらず、「上場前の暗号資産がある。上場3ヶ月後に約10倍になる。」「FX投資で大きな利益を上げているトレーダーがおり、お金を預ければ、毎月10パーセントの配当がもらえる。」などとうそを言って、30都道府県の約1,000人から約20億円をだまし取るなどした。令和4年10月までに、同男ら5人を金融商品取引法違反(無登録営業)及び詐欺罪で検挙した(兵庫)。
出所:警察庁「令和4年における生活経済事犯の検挙状況等について」
上記は兵庫県における詐欺事件でしたが、似たような話はここ数年、全国的に事件化しています。たとえば2019年4月から2020年11月にかけて約650億円の資金を集めた「ジュビリーエース」事件もそのひとつです。
ジュビリーエース事件の巧妙な手口この事件では、逮捕された男女7人が日本各地でセミナーを開催しており、海外にある「ジュビリーグループ」が運営する投資ファンドに出資すれば、出資金の3倍まで配当金を保証するという触れ込みだったようです。
また、その運用は、取引所間で瞬間的に生じる、暗号資産の価格差を用いた裁定取引であり、出資金は全額ビットコインで払い込まされていたとのこと。
いくら裁定取引を用いると言っても、値動きの激しい暗号資産の売買で、保証付きの配当金を安定的に払い続けること自体、不可能です。ですが、そこに「AI(人工知能)を駆使して裁定取引を行う」といったスパイスを効かせると、人は信用してしまうものなのでしょう。
これは他の金融詐欺でも往々にして見られますが、AIのような流行の言葉をセールストークに盛り込むことによって、相手の興味を引く手口です。
また、ジュビリーエース事件では、マルチ商法の手口も見られました。かつてマルチ商法と言えば、健康食品や化粧品、寝具、浄水器といった現物を商材とするケースが大半でしたが、最近では投資勧誘に、マルチ商法の手口が用いられるケースが増えています。
現物は在庫を抱えるリスクがありますが、金融商品はそもそもバーチャルなものなので、在庫リスクがないのです。その点では、これからのマルチ商法は、投資勧誘に中心が移っていくものと考えられます。
「ICO詐欺」にも注意が必要もう1つ、暗号資産関係の投資詐欺としてICO詐欺があります。
ICOとはイニシャルコインオファリング(Initial Coin Offering)のことで、暗号資産を発行することで行われる企業の資金調達手段を指しています。
例えば、企業が空を飛ぶ自動車の開発を行うのに必要な資金を、独自の暗号資産(トークン)を発行することによって調達します、などと広く不特定多数の投資家に呼びかけます。ここで言う「投資家」には、もちろん個人も含まれます。
そして、インターネット上には、このICOに関する諸条件が記載されています。たとえば、
●目的・・・・・・空を飛ぶ自動車を開発するのに必要な開発資金調達
●配当・・・・・・年20%
●購入対象者・・・・・・先着順(200名限り)
●払い込み通貨・・・・・・ビットコイン
という条件だとしましょう。つまり、このトークンをビットコインで購入すれば、年20%の配当が得られ、なおかつ発行されたトークンは暗号資産の交換所にて売買できるため、事業の期待度が高まれば高まるほど、トークンの価値が上昇して値上がり益まで得られる、というものです。
投資家がこうした条件に魅力を感じ、ICOに応募してビットコインを払い込むまでは良いのですが、ICO詐欺では、結局“空を飛ぶ自動車の開発”は一向に行われる気配がなく、年20%の配当も支払われません。何かおかしいと思って、問い合わせてみても音信不通。この段階でようやくだまされたことに気付くのです。
「暗号資産に投資するファンドで安定・高利回り運用」
「高い配当金と売却益が期待できるICO」
どちらも暗号資産を用いた投資詐欺の代表的な事例です。上記のような広告が目に入ったとしても、一切クリックしないことをおすすめします。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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