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「公務員なら将来安泰」は本当? 実は会社員と“そんなに差がない”退職金事情

Finasee / 2023年7月24日 11時0分

「公務員なら将来安泰」は本当? 実は会社員と“そんなに差がない”退職金事情

Finasee(フィナシー)

退職金はサラリーマンの老後を支える重要な資金源ですが、昨今「退職金の支給額は減少傾向にある」という話題がたびたびメディアで取り上げられています。

その理由は、企業の採用する退職金制度が、勤続年数に比例して支給額が増えるタイプから、ポイント制などの成果を反映するタイプ変化してきているからではないかと考えられています。

会社員の退職金は20年間で“こんなに”減った

では、日本の民間企業の退職金支給額はどのように変化しているのでしょうか?

「減っている」と言われる根拠は、厚生労働省が実施している「就労条件総合調査」がおよそ5年ごとに実施している「退職金(一時金・年金)の支給実態」のデータです。時系列に並べたものを見てみましょう。

●時系列で見る勤続年数ごとの退職金支給実態

出典:厚生労働省『就労状況総合調査』平成30年、25年、20年、15年、9年のデータより筆者作成
※2003年までは「本社の常用労働者が30人以上の民間企業」、2008年以降は「常用労働者が30人以上の民営企業」が調査対象

上記のデータを見ると、1997年は、勤続30年以上になると退職金が一気に増えて、1つの会社で35年以上勤めた人は3000万円超の退職金を受け取れたことがわかります。一方で、近年は、勤続年数が増えたからといって劇的に退職金が増額することはなくなっているようです。

退職金制度の変化が支給額に与える影響とは?

また、支給額を退職金制度の受け取り方別(※)に分類したデータもあります。

※退職金制度は、受給方法によって「退職一時金制度」「退職年金制度」「両制度の併用」の大きく3つに分類されます。分類についての詳細は連載第1回【「自分の退職金の額を知らない人」がマズい理由…まず何から調べるべき?】で解説しています。

●退職金制度の形態別に見る定年退職者の退職給付額

出典:厚生労働省『就労状況総合調査』平成30年、25年、20年、15年、9年のデータより筆者作成
※勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者の給付額(大卒 管理・事務・技術職)
※1997年は男性定年退職者

退職金制度の形態別のデータを見ると、一時金よりも企業年金がより大きく減少している印象を受けます。これは1997年当時の企業年金は、「厚生年金基金」や「適格退職年金」が主流で運用も良好だったため、まだ給付額が多かったからではないかと考えられます。

しかし、予定利率5.5%で運用するはずだった厚生年金基金は、バブル崩壊後の運用悪化により予定利率を下回る運用が続き、企業は積立不足を補うために損失を負担する事態に追い込まれました。また、適格退職年金も法改正によって事業主の税制上のメリットがなくなりました。

現在は両制度とも新設不可となり、ほとんどの会社の企業年金制度は確定給付企業年金(DB)や企業型確定拠出年金(DC)へと移行が進んでいます。こうした制度の変化も退職金の支給額に影響していると思われます。

退職金のデータをもっと知るなら…

これまで紹介してきたデータは、厚生労働省により調査されたものですが、実は、退職金額を調査しているデータはほかにもいくつかあります。

●退職金にまつわる主な調査

筆者作成

先ほどご紹介した厚生労働省の「就労条件総合調査」のデータは、幅広い業種や企業規模をカバーしており、有効回答数も多いため、調査結果が常に注目されています。ただし、退職金制度についての調査は、約5年に一度しか行われていないため、発表直後から時間がたつにつれて状況が変化していることを知っておきましょう。

そして、これらのうち、民間企業に対する調査だけでなく、公務員の退職金との比較を行っているのが人事院の「民間企業の退職金及び企業年金の実態調査」です。

やはり公務員の退職金は高いのか?

その比較結果を見る前に、まずは公務員の退職手当の支給状況を見てみましょう。次のグラフは、内閣人事局の調査を参考に、国家公務員の直近5年分の退職手当の支給額を表したものです。

●国家公務員退職手当の支給状況

内閣人事局「退職手当の支給状況」を元に筆者作成

国家公務員の退職金は、会社員の退職一時金にあたる退職手当と企業年金にあたる共済年金の合計金額になっています。グラフを見ると、2018年に支給額が落ち込んでいますが、退職金が年々減っている印象はありません。

ただし、さらに古いデータを見てみると、1999年に定年退職した国家公務員の退職手当は、2658万円ですから、そこから比べると、確かに公務員の退職手当の支給額もおよそ20年で500万円ほど減ったと言えるでしょう。

公務員の退職金だけが高いわけではない

一般的に公務員の退職金は民間より多いイメージがありますが、金額を見ると、民間企業で退職一時金と企業年金の両方を併用している会社の退職金額とほぼ同水準です。

実は、国家公務員の退職手当は、官民均衡を図るため、おおむね5年ごとに行う民間企業の企業年金及び退職金の実態調査を踏まえて見直しを実施することとされています。そのため、人事院は民間企業の退職金の実態調査を行い、国家公務員の退職金との比較を行っているのです。

そして、2021年度中に退職した人の退職金をもとに人事院が比較した結果は、次のようになっています。

●退職金の官民比較結果

出典:人事院「民間の退職金及び企業年金の実態調査の結果並びに国家公務員の退職給付にかかる人事院の見解の概要」令和4年4月21日
※民間企業は事務・技術関係職の常勤従業員で、令和2年度中に勤続20年以上で退職した事務・技術職種の常勤従業員(大卒・大学院修了)の支給額
※公務員は令和2年度中に勤続20年以上で退職した国家公務員のうち一般行政事務職員(大卒・大学院修了・高卒)の退職手当

人事院が行った調査では、退職一時金と企業年金(使用者拠出分)を合わせた退職金額の平均は、民間が2405万5000円、公務員の退職金額は2407万円でした。公務員のほうが1万5000円(0.06%)上回るという結果になりました。

これを受けて、人事院は公務員の退職給付の取り扱いについて、検討を行うことが適切との見解をまとめています。しかし、結局この年の調査は、ご覧の通り金額に大きな差は出なかったため、「国家公務員の退職手当の水準改定は必要なし」とされました。

このように、公務員の退職金給付水準は、国家公務員退職手当法によって官民調整が入るため、「公務員だけが高い退職金をもらっている」というような不均衡は是正されるしくみになっています。民間の退職金が下がれば、公務員の退職金も減るということです。

***
 

今回は、民間企業と公務員の退職金の相場について解説しましたが、ご紹介したデータは統計のほんの一部です。退職金額は、学歴、勤続年数、業種ごとにまとめられたデータもあります。ご自身の環境に近い平均値を参考にしたい場合、前述した5つの統計をじっくり見てみるのもよいかもしれません。

しかし、過去の支給額を見て「昔は高かったのに……」と嘆いても仕方がありません。また、平均値を知ったとて、自分もその金額がもらえるわけでもありません。これから定年退職を迎える方は、まずは自分の会社の制度や退職金額を調べ、自分に合った受け取り方や、資産形成のプランを立てることから始めましょう。

加茂 直美/フリーライター・行政書士

主に年金、老後資金、行政手続きなどの細かい情報をリサーチし生活に活かすための記事を執筆。行政書士。2級DCプランナー。行政書士事務所オフィスリーガルブレーンを主宰。『役所や会社は教えてくれない! 定年と年金 3つ年金と退職金を最大限に受け取る方法』(大江加代 監修/ART NEXT)『アメリカ人が当たり前に知っているお金のこと全部』(西村隆男 監修/宝島社)『60歳からの得する年金!働きながら「届け出」だけでお金がもらえる本 2023-2024最新版』(小泉正典 監修/講談社MOOK)などの取材、企画、構成、執筆等を担当。

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