新NISA目前 “手数料無料” でSBI証券は「ひとり勝ち」できるのか?
Finasee / 2023年6月30日 17時0分
Finasee(フィナシー)
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SBI証券は株式売買手数料の無料化で圧倒的な競争力、「Winner takes all」も視野に
SBI証券は2023年9月末までに国内株式の売買委託手数料を無料にする。証券会社の間で繰り広げられている手数料の引き下げ競争は、年々激しさを増しているが、その先陣を切って手数料率の無料化に突き進んできたのがSBI証券だ。SBIグループを率いる北尾吉孝会長兼社長は、今回の改定によって「手数料の引き下げ競争に終止符を打つ」と公言している。米国では、チャールズ・シュワブが2019年10月に株式売買委託手数料の無料化に踏み切った時、同業のTDアメリトレード、Eトレードなどが追随して無料化に踏み出した。そして、チャールズ・シュワブがTDアメリトレードの買収に乗り出すなど、リテール証券会社の再編の動きにまで発展した。今回のSBI証券の無料化に対して、ただちに追随すると発表した証券会社はないが、2024年1月にスタートする新NISAを控えて、SBI証券の仕掛けを黙って見過ごせはしないだろう。当然、その影響はネット証券だけにとどまらず、証券界全体に及ぶだろう。SBI証券が投げかけた波紋が証券界を揺るがそうとしている。
SBI証券が手数料無料化に向けてくさびを打ち込んだのは2020年10月、1日定額プランの売買手数料を1日100万円まで無料化したこと。チャールズ・シュワブが手数料無料化に踏み切ってから1年後のことだった。その後、2021年12月には25歳以下の国内株式現物手数料を無料化し、2022年3月には一般信用取引の「日計り信用」の買方金利・貸株料について約定金額に関わらず年率0%にした。さらに、2022年7月からは単元未満株の買付手数料を無料化している。このような動きに、楽天証券、auカブコム証券などの競合証券は敏感に反応し、それぞれが競争優位にあるサービスで手数料の引き下げを実施。現在までのところ、楽天証券とauカブコム証券が1日の約定代金100万円まで手数料無料、松井証券では同50万円まで無料になっている。
※松井証券のボックスレート手数料は1億円で11万円(税込み)が上限※マネックス証券の1日定額プランの約定代金100万円超は約定代金300万円ごとに2750円(税込み)加算
※各社において若年層向けに一定年齢以下を手数料無料としているケースがある
出所:SBI証券「主要ネット証券株式委託手数料の比較」より著者作成
無料化は業際再編の引き金さて、本来は証券会社の収益の柱といえる株式売買手数料を無料にしてしまって経営は成り立つのだろうか? 実際に、米国では手数料無料化に踏み切ったTDアメリトレードはあっという間に経営が悪化し、ライバルであったチャールズ・シュワブに買収されることになってしまった。SBI証券では、収益の多角化によって株式売買手数料から得られる収益の比率が相対的に低くなっていることを根拠にあげて無料化に踏み切る理由としている。そして、北尾氏は決算説明会で「SBI証券に口座ができたら、為替取引(FX)、信用取引、外国株取引などがSBI証券の中で取引が成立していく。さらに、ビッグデータ等を活用して他のグループ会社にどんどん送客していく。これが手数料ゼロにしていく意味」と語っている。
SBI証券の収益の内訳については、主要ネット証券(SBI、松井、auカブコム、楽天、マネックス)の比較をしているが、2023年3月期で、SBI証券の営業収益に占める委託手数料は22.5%で、マネックスの27.4%、auカブコムの27.7%などと比較すると低いものの、それでも20%超を占める主要な収益源であることがわかる。SBI証券の委託手数料は2023年3月期(通期)で394.5億円という水準だ。ここには、先物・オプションや外国株式等の国内株式以外の委託手数料の数値を含んでいるとはいえ、大半は国内株式の委託手数料と考えてよい。その収益がゼロとなることは、経営上相当大きな痛手といえる。
出所:SBI証券の決算発表資料より著者作成
現実問題として国内の証券会社が、国内株式の売買委託手数料を無料化することは簡単な話ではない。競合他社が、SBI証券に追随して対抗策を打ち出さないのには、簡単には追随できない理由があるからだ。米国において株式委託手数料ゼロのビジネスモデルが成立するのは、高い短期金利を使った利ざや収入や、注文回送によって得られるリベート収入があってこそという分析がある。マイナス金利になっている短期金利の日本、そして、注文回送を支える事業基盤がない日本では、収益の目減りを補う手段がなく、米国よりも厳しい経営状態に追い込まれると考えられる。それでも、無料化に踏み込むには、どのような目算があってのことだろうか?
「インターネット」と「手数料自由化」の2つの潮流SBIグループを創業した北尾氏は、1974年に野村證券に入社し、当初から幹部候補社員として遇され、野村證券在籍中に英ケンブリッジ大学に留学、M&Aを仲介するワッサースタイン・ペレラ・インターナショナル(ロンドン)で常務に就任するなど海外で経験を積み、1991年に野村企業情報取締役、そして、92年に野村證券の事業法人第3部長に就任する。この事業法人第3部長時代に担当したソフトバンクの孫正義社長に手腕を認められ、ソフトバンクに常務として採用された。北尾氏は、孫氏から誘われたことを「天命」と感じ取ったと回想している。北尾氏が好んで読んできた中国の古典で、孔子が50歳で天命を知ったことになぞって「僕は幸いにも49歳で天命を自覚することができた」と振り返っている。そして、ソフトバンクを離れて手塩にかけて育ててきたのがSBIグループだ、そもそも、SBIは「ソフトバンク・インベストメント」の略称であったが、後に、ソフトバンクグループから独立し、「Strategic Business Innovator(戦略的事業の革新者)」の略称と読み替えた。
ソフトバンク・インベストメントを設立した1999年7月とは、まさに、インターネットの離陸期にあたる。誰もが、無料で様々な情報にアクセスできる時代、また、情報をグローバルに発信できる時代が始まっていた。北尾氏は、情報産業である金融とインターネットの親和性の高さに着目し、インターネットの最大の武器である「爆発的な価格破壊力」を生かしたビジネスモデルを構築していく。折しも、当時の橋本龍太郎内閣が「日本版ビッグバン」を提唱し、証券手数料の自由化を打ち出した。当時、アメリカでは20年前、イギリスでは10年前に始まっていた株式委託売買手数料の自由化が日本でも始まったのだった。
「インターネット」と「手数料自由化」という2つの潮流を捉えて北尾氏が志向したのが「インターネット金融で、どこよりも低い手数料を提示し、どこよりも多くの顧客を獲得し、圧倒的な存在になること」だった。北尾氏は言う、「インターネットの世界では、どんなビジネスでも『Winner takes all』だ」と。究極の低コストが「無料」であり、規制緩和で先行したアメリカで無料化が実現したことを得て、SBI証券が無料化に踏み出すことは既定路線といえた。創業当時は、規制緩和にアメリカとの間で20年の遅れがあったが、手数料無料化はアメリカに4年遅れで実現しようとしている。
なぜ、手数料無料化を急ぐのか?なぜ、それほど急いでコトを進めようとするのか? それは、超低金利時代が継続し、過去30年以上にわたって続いてきたデフレ(物価下落)経済が終焉(しゅうえん)するとともに、インフレ(物価上昇)の波が起きていること。そして、現在の岸田文雄政権がめざす「資産所得倍増プラン」の推進役として「新NISA」が2024年1月にスタートすることとなり、「貯蓄から資産形成へ」の流れを国策として推進しようとしていること。加えて、日本株の上昇など、さまざまな要素がこのタイミングに集まってきていることが大きな要因だろう。
SBI証券の口座数は2023年3月末時点で1,003万8,000口座となり、第2位の楽天証券の864万7,000口座を大きく引き離している。2020年6月に野村證券(23年3月末時点で残高のある口座数は535万3,000口座)を抜いて業界トップに立ってから、ぐんぐんと新規口座獲得を伸ばし、ついに1,000万口座の大台をクリアした。証券界全体の口座数は2023年3月末時点で3,335万5,193口座(うち個人は3,285万4,963口座)になっている。実に、国内の証券口座の約30%をSBI証券が占めていることになる。これほどの支持を得ているのは、圧倒的なコスト競争力であり、インターネットの武器を最大限に生かした結果といえる。そのSBI証券が仕掛ける株式売買手数料の無料化は、手数料自由化の最終段階に入ったことを告げる。「Winner takes all」の原則が証券各社の耳に不気味に響いているのではないだろうか。
出所:各社決算資料に基づき著者作成。楽天は2022年12月末時点。野村と大和は残高がある口座数
文/ 徳永 浩
Finasee編集部
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