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「アメリカ人の在宅勤務」が日本の投資家に与える“ある大きな影響”

Finasee / 2023年6月26日 11時0分

「アメリカ人の在宅勤務」が日本の投資家に与える“ある大きな影響”

Finasee(フィナシー)

世界経済に大きな影響を及ぼした、新型コロナウイルスのパンデミックに伴う混乱は、ほぼ終息したように思えます。街には海外からの観光客が戻りつつあり、以前に比べればマスクを使用している人の数も減りました。

感染症法上の位置づけが、外出自粛要請や入院勧告などの厳しい措置を取れる「2類」から、季節性インフルエンザと同じ「5類」にダウングレードされたことにより、日常が徐々に戻りつつあります。

日本はオフィス出社率が上昇

オフィスの出社率もだいぶ戻ってきました。

ニッセイ基礎研究所金融研究部主任研究員の佐久間誠氏がリリースしたレポート「コロナ禍におけるオフィス出社動向」(2023年5月25日)によると、2020年4月から5月にかけてのオフィス出社率は、東京36.1%、大阪40.4%、名古屋40.4%、福岡41.7%、札幌50.0%、仙台50.2%でした。

この時期は初の緊急事態宣言が発出された時でもあります。結果、在宅勤務が急増し、オフィス出社率が大幅に低下しました。

それが今どうなっているのかというと、これも佐久間氏のレポートからの数字ですが、2023年4月最終週のオフィス出社率は、東京76.2%、大阪81.3%、名古屋84.2%、福岡79.5%、札幌82.1%、仙台83.6%、となっています。

まだコロナ前の水準には到達していませんが、これらの数字を見ると、一部に在宅勤務の人はいるものの、コロナが明けると共にオフィス人口もかなり戻りつつあることが分かります。

オフィス空室率も落ち着きを見せ始める

ちなみにオフィス物件の仲介を行っている三鬼商事が定期的に調査・公表している、東京ビジネス地区(都心5区:千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)のオフィス平均空室率は、2022年8月と9月が直近で最も高く6.49%となりましたが、2023年5月時点では6.16%に落ち着いています。

また地区別の空室率を見ると、千代田区が4.05%、中央区が6.67%、港区が8.59%、新宿区が5.41%、渋谷区が4.55%というように、バラツキが見られます。

とはいえ、日本はまだマシな状況なのかもしれません。

米国は在宅勤務の定着によりオフィス空室率が上昇

大和総研政策調査部主任研究員の山崎政昌氏が公開したコラム「経済再開後も高まり続けるサンフランシスコのオフィス空室率」(2023年6月16日)では、米国のオフィス市場が経済再開後も軟調であることを指摘しています。

同コラムでは、中でも厳しいサンフランシスコのオフィス空室率を事例に挙げています。それによると、2023年3月のオフィス空室率は26%にまで上昇したとのことです。

過去の推移を見ると、リーマンショック後の2010年には17%程度まで上昇していたオフィス空室率は、2019年に5%を切る水準まで低下したものの、2023年3月には26%まで上昇したということで、現状の深刻さがうかがえます。

問題は、経済再開後もオフィス空室率が上昇し続けている点でしょう。これについて山崎氏は、次のように指摘しています。

「在宅勤務が定着したことにより以前のようなオフィススペースが必要でなくなった企業が、リースを打ち切ったりリース面積を縮小したりする動きが継続しているからだ。また、コロナ禍によってeコマースがさらに普及したこともあり、ショッピングモールなどの商業用施設にも逆風が吹いているといわれる。在宅勤務の定着やeコマースの一段の拡大は商業用不動産市場にとって構造的な問題であり、かつてのようなオフィスや商業施設への需要が戻ってくることは考えにくい」。

今後も米国におけるオフィス空室率が上昇し続けるかどうかはともかく、この動向は、私たち日本人の資産運用にも大きな影響を及ぼすことになりそうです。

米国のオフィス空室率が日本の投資家に与える影響

日本の投資家が特にどういう点で影響を受けるかと言えば、米国に上場されているREIT(不動産投資信託)を組み入れた投資信託が、日本国内でも設定・運用されており、その運用成績に悪影響を及ぼす恐れがあるのです。

S&P米国REIT指数は、2020年3月に起こったコロナショックの時に97.38ポイントまで急落した後、徐々に回復傾向をたどり、2022年1月には197.51ポイントまで上昇しました。これが過去最高値です。

しかし、そこから経済は再開に向けて大きく舵を切りましたが、2023年6月14日時点では143.65ポイントまで低下しました。この1年半で、27.26%も下落したことになります。

フィデリティ投信の顧客向け資料である「マンスリー・ウォッチ」の2023年5月号では、米国REIT市場が取り上げられており、そのなかで2023年4月までの過去1年間における米国REIT市場のセクター別騰落率が掲載されています。

ざっと挙げると以下のようになります。

●米国リート業種別騰落率

・特殊=+8.5%
・小売=▲5.5%
・データセンター=▲9.6%
・倉庫=▲12.5%
・複合施設=▲14.3%
・物流=▲14.7%
・ヘルスケア=▲14.8%
・住宅=▲19.5%
・インフラストラクチャー=▲21.5%
・ホテル/リゾート=▲21.7%
・林業=▲22.3%
・オフィス=▲44.4%

出所:フィデリティ投信「マンスリー・ウォッチ」(2023年5月号)

総じてマイナスですが、中でもオフィスの下落率が極めて大きいことが見て取れます。

このように、米国不動産市況の悪化によって米国REITのパフォーマンスが低迷すれば、それを投資対象としている、日本国内で設定・運用されている米国REIT投信の運用成績も厳しくなります。

4月末現在、日本国内で設定・運用されている米国REIT投信(ヘッジ無)の本数は、全部で33本あります。その過去1年間騰落率は、平均▲13.5%でした。

また、同じく4月末現在における、日本のリートを投資対象とした国内REIT投信76本の過去1年間騰落率は、平均で▲1.5%でした。同期間中における運用成績では、米国REIT投信が、国内REIT投信に対して大きく劣後しているのが分かります。

これは明らかに、経済再開後もオフィスを中心にして不動産市況が回復しないことによる影響と考えられます。

投資家は米国REIT投信を解約すべきか?

もちろん、だからといって米国REIT投信を保有している人に解約を勧めるという話ではありません。

運用成績の悪化は仕方のないことです。投資信託を用いて長期投資している限り、どこかで必ず運用成績の悪化には直面します。大事なのは、そういう時に狼狽して解約に走らないことです。

6月12日付、日本経済新聞の記事によると、三菱地所の米国不動産投資子会社、TAリアルティのマネジングパートナーであるジェームズ・ラシディス氏は、「オフィス市況回復は2025年までないかもしれない」というコメントを寄せています。これを、ややポジティブに受け止めるならば、2025年以降は回復する可能性がある、というふうにも読み取れます。

それでも耐えるのがつらいという人は、全部を解約するのではなく、一部を解約してポジションを縮小させます。そうすれば、マーケットが荒れた時でも含み損の発生を最小限に抑えられるので、耐えられます。

全部解約してしまうと、いざ底を打って回復に向かい始めた時でも、「また下がるんじゃないか」という気持ちが先に立ってしまいがちで、そうなると今度はいつまでも買えなくなってしまいます。だから、ほんのわずかでも残しておくのです。

あくまでの気持ちの問題ではありますが、案外、追加購入のハードルは下がります。基本的なスタンスとして、マーケットが下がっているからといって慌てて解約しないこと。ファンドの運用に大きな支障を来さない限り、持ち続けることをお勧めします。特に、10年単位の長期目線で購入している人であれば、なおのことです。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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