業界一筋の58歳金融マンが悩んだ“定年後の道”―背中を押した「ある言葉」
Finasee / 2023年7月11日 11時0分
Finasee(フィナシー)
サラリーマンにとって、55歳・60歳・65歳は、役職定年・定年・再雇用のタイミングにあたり、今後を考える節目となる年齢です。そこでどのように考え、何を選択するかでセカンドキャリアは大きく変わります。
選ぶべき道は、今まで歩んできた延長線上なのか、それとも今までとはまったく異なる世界なのか? 今回はまったく異なる世界に進んだ、金融業界で43年間働いたサラリーマンMさんの事例をご紹介します。
金融業界で働いてきたMさんの場合Mさんは大卒で信託銀行に入社、資産運用を中心に55歳まで本社で働きました。55歳からは子会社に出向しますが、58歳から再び本社に戻り、資産運用の教育に携わっていました。
専門分野の仕事を順調にこなしてきた一方で、58歳で定年をひかえ、退職後のことを意識しては次第に思い悩むようになりました。
「こんなことでいいのだろうか。もっと違う道があるのでないか」
そんな折、出張先で偶然手にした雑誌の記事に目を奪われました。経済コラムニストの大江英樹さんの記事で、「定年後は好きなことをするのが大切。そのためにサラリーマンを卒業し、個人事業主で伸び伸びやりましょう」という趣旨でした。
Mさんは「この人はなぜ自分の気持ちが分かるんだ!」と感じました。金融業界一筋で働いてきたMさんにとって、サラリーマンを卒業するという考えは目から鱗でしたが、早速大江さんのセミナーを探して参加し、自分の思いに向き合うことに決めました。
セミナーに参加してからは、定年後は好きなことをやっていきたいという気持ちが固まりました。しかし、次は「自分にとっての“好きなこと”とは何なのだろう……」という悩みに直面します。
「誰かにこの何とも言えない思いを聞いてもらいたい」と思った時、ふと頭に浮かんだのは高校時代の先輩でした。
先輩にもらった“まさか”の助言その先輩の現在の職場は“お寺”でした。しかも、お寺の家の出身だったわけでなく、元々は金融関係の会社に勤務していたサラリーマンだったのです。
Mさんと先輩は高校時代からの付き合いで、今ではたまに会う程度の関係でしたが、同じ金融業界出身というのも何かの縁のように感じました。話を聞いてもらえるのでないかと思い、早速連絡して職場に会いに行くことにしました。
現在の仕事や、これからについての悩みなど、自分の思いを一通り聞いてもらったあと、先輩から思いもよらないアドバイスがありました。
「一度、仏教の勉強をしてみないか?」
あまりに意外な助言にMさんは驚きます。仏教の話をするつもりで相談したわけでなく、何か今後へのアドバイスが欲しいだけだったからです。ですが、考えてみると悪くない選択に思えてきました。
高校時代のMさんは、悩みごとがあったある時、立ち寄った本屋でたまたま「仏教の本」を手に取ったことがありました。仏教の教えにどんどん引き込まれ、「仏教を学ぶのはこんなに面白いんだ」と気付き、それからは仏教に関する本を次々と読むという経験をしていたのです。
これこそ、現在のMさんと高校生時代のMさんの「好き」が線でつながった瞬間でした。
「そうだ、自分は何が好きで何を大切にしているか、その原点になっているのは仏教を学ぶことだったのだ。学びを深められるなら、それが仕事にならなくたっていい」
高齢になっても、体が弱っても、勉強ならできる。そう思ったMさんは、先輩から勧められ、まずは会社に勤めながら仏教の通信教育コースで3年間学ぶことにしました。
Mさんは先輩への相談を通して、かつて自分が大切にしていた「仏教を学ぶ」というキーワードに気付き、今まで歩んできたキャリアとはまったく異なる分野の学びの道をスタートさせたのでした。
●Mさんのセカンドキャリアはここからどう拓けていったのか?
続きは、後編【定年直前の金融マンが掴んだ第2の人生―“好き”を続けて見えた糸口】で解説します。
髙橋 伸典/セカンドキャリアコンサルタント・モチベーション総合研究所代表・東京定年男女の会主宰
1957年生まれ。57歳で早期退職するも、多くのつまずき、苦労を経験する。しかし試行錯誤を重ねることで乗り越え、リスクなく独立する道をつかみ取る。東京都主催の東京セカンドキャリア塾、各自治体などでセミナーを行う。雑誌やウェブメディアでは、セカンドキャリアに関する寄稿の実績多数。著書に「定年1年目の教科書」(日本能率協会マネジメントセンター)がある。
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