株価上昇は好機? 確定拠出年金の「スイッチング」を2つの事例で検証
Finasee / 2023年6月30日 11時0分
Finasee(フィナシー)
確定拠出年金(DC)専用の投資信託の残高は、2023年3月末で10兆4,603億円と10兆円を超えました。2018年3月末の同数値は4兆9,110億円なので、5年で2倍以上に増えていることがわかります。このように、DC専用の投資信託残高は、順調に積み上がってきています。
資産残高の増加とともに、運用見直しのニーズも高まっているようです。特に、日経平均株価が3万円を超えるなどの環境変化を受けて、確定拠出年金のコールセンターでは運用商品変更への問い合わせや実際の運用変更指示が増えています。
DCの運用商品変更は制限が少ないのが特徴!?運用商品変更についての質問で多いのは、回数制限の有無や手数料です。回答としては、「回数制限はありませんし、商品変更自体の手数料も不要」となります(※)。
また、企業型DCの場合は、会社での手続きが必要なのか?等を気にされる方もいらっしゃいますが、それも不要です。逆に、事業主(=会社)が個々の加入者の運用状況を把握してはいけない仕組みになっています。
※投資信託の購入時には販売手数料がかかる場合があるが、DCでは販売手数料がかからないことが一般的。ただし、運用商品によってはスイッチングの際に費用が発生する場合もある(信託財産留保額が設定されている投資信託は、所定の信託財産留保額が差し引かれた金額で次の運用商品を購入。解約控除がかかる保険商品を保有している場合も、解約控除後の資金額で次の運用商品を購入)
「商品別配分変更」と「スイッチング」はどう違う?運用商品変更には2種類の方法があります。
一つは毎月の掛金の配分割合を変更(商品別配分変更)すること、もう一つが積み立てられた資産の一部(もしくは全部)の運用商品を売却して、異なる運用商品を買い直すこと(スイッチング)です。
まず、DCでの運用商品の選択方法を見てみましょう。DC口座に資産が入る時は、運用商品は「配分指定」に従って購入されますが、配分指定は運用商品に対して割合(%)で行います。例えば毎月の掛金が5,000円で、国内債券型投資信託(A)と外国株式型投資信託(B)に50%ずつ配分している場合、(A)(B)の投資信託が2,500円ずつ購入されます。
次に、運用結果を見てみましょう。上記の運用商品への配分を1年間続けた場合、6万円の掛金総額について、(A)(B)それぞれ「元金」は3万円ずつです。しかし、投資信託は値段の上下動があるため、1年後の残高は3万円ずつの6万円ではありません。運用結果として(A)3.1万円、(B)4万円になっていたと仮定すると、運用資産7.1万円は、(A)44%、(B)56%と(B)の外国株式型に偏っています。
運用見直しを考えてみましょう。(A)44%、(B)56%の7.1万円を50%ずつの配分に戻すには、ふたつの方法が考えられます。
一つは、商品別配分変更で時間をかけて調整する方法で、毎月の掛金で購入する投資信託を(A)のみに変更し、(A)の割合が50%に近づいたら、再度、商品別配分変更を行います。もう一つはスイッチングを活用します。(B)を4,500円分売却して(A)を購入します。そうすると、(A)(B)ともに3.55万円ずつになります。
なお、投資信託の値段は日々、変動するため、厳密には50%ずつに配分することはできません。
商品別配分変更は少しずつ変更していく時におススメ商品別配分変更は、毎月の掛金の資産配分を見直すためのものです。例えば元本確保型のみを保有していた人が、投資信託の活用に取り組む場合に有効です。
<例>
資産残高:50万円(定期預金のみ)
毎月の掛金:2万円
この場合、商品別配分変更で次の月からバランス型ファンド100%に変更すると、少しずつ、投資信託の割合が増えていきます。資産残高50万円を定期預金のままにしていても、商品別配分変更から1年ほどすれば、定期預金と投資信託の投資元本は2対1ぐらいになります。2年ほどでほぼ同額になります。
スイッチングによる利益確定売りが多かった時期もあるDC専用の投資信託残高を四半期ごとで見ると、2020年10月から2020年12月の間は、国内株式型投資信託の純資金流入額がマイナス96億円でした。同時期の投資信託全体への純資金流入額が829億円と、前4四半期の平均1,594億円の半分程度であることから、国内株式型投資信託の保有者の一定数が、値動きの少ない定期預金等の元本確保型にスイッチングした、と想定されます。
当時を振り返ると、2020年11月の日経平均株価は月次終値としては1990年7月以来30年4カ月ぶりの高水準といわれていました。「コロナショック」での大きな下げを経験した後だけに、上昇局面で運用商品見直しをした加入者が一定割合いたと考えられます。
利益確定は資産の一部で実施してみる制度全体でみると、加入時に選択して以来、運用商品変更をしたことがない、という加入者が多いのも事実です。「なぜ変更しないのか?」を聞くと、「スイッチングのタイミングがわからない」「スイッチングした後にさらに運用環境が好転したら結局、損なのではないか」という意見が聞かれます。そうした時にお伝えするのが、次のような考え方です。
投資元本:100万円
運用結果:120万円
増えた部分の20万円をスイッチングして定期預金などの元本確保型に変更します。
将来の運用環境はわかりませんから、さらに上昇する場合も、下落する場合もあります。
このケースでは、スイッチングしなかった100万円で運用が続きます。その後、値段が大きく下がったとしても(20万円は元本確保型にしてあるので)80万円までであれば、投資元本は棄損しないことになります。逆に上昇したときには、100万円で運用を続けられるメリットがあります。
なお、120万円すべてをスイッチングして利益確定すると、その後も運用環境の好調が続いたときに値上がり益がとれないことになります。
スイッチングにはリバランスの考え方もあるスイッチングにはリバランスの考え方もあります。リバランスは、最初に設定した配分割合から偏りが生じた場合に、行うものです。
<例>
毎月の掛金:2万円
当初の配分割合:国内株式30%:外国株式40%:国内債券30%
2年後の資産残高:30万円
配分割合:国内株式32%:外国株式45%:国内債券23%
この場合、当初想定していた配分割合から乖離しているため、国内株式を2%分、外国株式を5%分売却して、国内債券を購入するスイッチングを行います。リバランスは、値上がりしている資産カテゴリー(国内株式、外国株式)を売却して、運用結果が思わしくない資産カテゴリーを購入することになるため、なかなか踏み切れない人も多いと思います。
そのため、運用商品の機能としてリバランスが組み入れられているバランス型投資信託を活用する方法もあります。実際、バランス型投資信託は多くの方に活用されており、DC専用投資信託残高の28.5%(2兆9,845億円)を占めています。
なお、ターゲットイヤー型投資信託は、年代に応じて株式の組み入れ比率が自動で変更される投資信託です。2023年3月末のターゲットイヤー型の残高は1,816億円と全体の1.7%程度ですが、5年前の465億円の4倍程度まで増加しています。
運用商品の変更は頻繁に行うものではありませんが、定期的にご自身の運用状況を確認することが重要です。その際、WEBサイトの運用見直しのシミュレーション等を活用してみるのもいいでしょう。
運用環境が好調な時こそ、運用見直しを考える好機といえます。
注:本稿は記録関連運営管理機関がJIS&Tの例。記録関連運営管理機関が異なる場合、掛金の配分割合変更は「運用割合変更」、残高配分の変更(=スイッチング)は「運用商品預替」等と呼称が異なります。
津田 弘美/野村證券株式会社 確定拠出年金部
社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。厚生年金基金の隆盛期から企業年金2法の成立等を取材。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。確定拠出年金の運営管理業務に10年以上にわたり従事し、投資教育の企画立案、事業主サポート等を担当。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。
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