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1000億円の賠償請求? スエズ運河でだけは“座礁してはいけない”理由

Finasee / 2023年7月26日 7時0分

1000億円の賠償請求? スエズ運河でだけは“座礁してはいけない”理由

Finasee(フィナシー)

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2021年、スエズ運河で日本企業が所有するコンテナ船が座礁し、エジプトが1000億円もの損害賠償を請求するという事件が起こりました。スエズ運河は1956年7月26日にエジプトが国有化を宣言しており、海上交通で重要な拠点を一国が管理する状態が続いています。

2万隻が通過する物流の要

地中海と紅海をつなぐスエズ運河は、アジア・ヨーロッパ間における海上輸送の要衝です。もしもスエズ運河を通らない場合、アフリカ大陸を南回りで迂回する喜望峰ルートを進まねばなりません。仮に日本(京浜港)からオランダ(ロッテルダム港)へ向かう場合、スエズ運河経由の航行距離は2万728キロメートルほどですが、喜望峰ルートだと2万6867キロメートルと、6000キロメートル以上も伸びてしまいます(出所:日本港湾協会 港湾用語の基礎知識)。

別の選択肢としてユーラシア大陸を北回りに進む北極海ルートも模索されていますが、砕氷または耐氷の性能を備えた船が必要となること、また冬季は通行が困難となることから、積極的には利用されていません。取扱貨物量は2020年で3300万トンほどでした(出所:国土交通省 北極海航路の利用動向について)。

これらから、アジアからヨーロッパを目指す船の多くがスエズ運河を通行することになります。2021年は約2万隻、約12億7000万トンもの荷物が通過しました(出所:ジェトロ)。

冒頭の座礁事故は、海運市況がコロナショックから回復していた2021年3月に発生しました。運航が再開されるまでは約1週間かかり、400隻以上が足止めされたとみられています。需要が強まる中でスエズ運河が閉ざされたことから、コンテナ船運賃の世界的な高騰を招いたと指摘されています。

【北米コンテナ運賃指数の推移(月別、2019年12月=100)】

日本海事センター コンテナ運賃動向より著者作成

スエズ運河を管理するエジプトは、当初求めた1000億円もの損害賠償を600億円に減額して船主側に請求しました。最終的な条件は明らかになっていませんが、両者は同年7月に協議を終え、事故を起こしたコンテナ船はおよそ100日間の拘留から解放されました。損害額の一部は「P&I保険(船主責任保険)」から賄われたとみられています。

懐は意外に厳しい?「アラブの春」後のエジプトを襲った経済危機

競合する航路がないスエズ運河の優位性は強く、エジプトは通行料の値上げを繰り返してきました。2021年は過去最高となる約63億ドルの収入があったとみられています(出所:ジェトロ)。

これほど安定した収入があるエジプトですが、近年は苦境が続いています。エジプトは2011年、チュニジアで始まった民主化運動「アラブの春」の影響でムバラク大統領が退陣し、それまでの独裁政権が崩壊しました(エジプト革命)。

民主化は喜ばしいことですが、経済には強い混乱が生じました。主要産業の観光が大きな打撃を受け、経済成長率は大きく低下。エジプト革命後に発足したムルスィー政権は退陣に追い込まれます。

2015年に国民投票でエルシーシ大統領が選出されるも、事態の打開には至りません。観光収入が見込めず外貨準備不足が深刻化し、2016年にIMFへ支援を求めました。同年11月、エジプトは支援の条件として求められた為替の変動相場制へ移行します。その結果エジプトポンドは急落し、20%を超える著しいインフレが発生しました。

【エジプトポンド円(月足、2015年12月~2017年12月)】

Investing.comより著者作成

【エジプトのGDP変化率とインフレ率の推移(2010年~2020年)】

IMF 世界経済見通し(2023年4月)より著者作成スタートアップが活況 「MENA」に投資する方法は?

厳しい経済状況に陥ったエジプトですが、最近は有望な新しい企業が多数生まれているようです。民間調査によると、エジプトのスタートアップは2022年に160件の投資を獲得し、MENA(※)で最多となりました。エジプトが首位となるのは2018年の調査開始以来で初めてのことです。

※MENA(ミーナ):Middle East & North Africaの略。中東・北アフリカの国々のこと。

【MENA地域のスタートアップ投資件数上位5カ国(2022年)】
・エジプト:160件
・アラブ首長国連邦(UAE):153件
・サウジアラビア:144件
・カタール:45件
・チュニジア:30件

出所:ジェトロ

MENAは今後の経済成長が見込める地域の1つで、近年は日本のベンチャーキャピタルもスタートアップ投資に参加しているようです。公募投信でも、一時は多くのファンドが設定された人気のテーマでした。

しかし現在はその多くが償還されており、選択肢は多くありません。投資信託協会で調べたところ、投資対象地域に「アフリカ」または「中近東」のいずれかを持つ投資信託は、償還が決まっている銘柄を除くと以下5つに限られました(2023年6月22日時点)。

【アフリカまたは中近東の国に投資する投資信託】

※基準日:2023年6月21日

出所:投資信託協会 投信総合検索ライブラリー

MENAに投資したい場合、これらのファンドを活用してみてはいかがでしょうか。なお、先進国と比べると株式市場の規模が小さく、リスクは比較的大きくなる傾向にあることは覚えておきたいところです。

執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。

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