ドコモ“実質値上げ”で他社も追随? 格安スマホ廃止、気になる料金は
Finasee / 2023年7月29日 11時0分
Finasee(フィナシー)
・わずか1カ月で廃止された“幻のスマホ決済” 大失敗に終わった理由
通信インフラは、今や水道や電気と並び欠かすことができない重要なインフラとなっています。その寸断は、多くの人に影響を与えることとなり、各事業者はその保全を担う大切な役割を持っています。
しかし2022年、「au」を運営するKDDIの携帯電話サービスで大規模な通信障害が発生してしまいました。通信しづらい状況が長期間続き、2000万人以上が影響を受けます。同社は同年7月29日に一律の返金を表明しますが、その額が200円だったことでも話題を呼びました。
61時間もの通信障害 おわびの額は200円KDDIの通信障害の原因は「VoLTE(ボルテ)」交換機の不具合でした。VoLTEとは、携帯電話専用のネットワークである「LTE」上で音声通話を行う技術です。LTEは第4世代(4G)の通信規格の1つで、もともとはデータ通信専用の回線でしたが、2014年に大手キャリアがVoLTEを導入し音声通話もLTE上で行われるようになっています。
事故はメンテナンス中のミスによって引き起こされました。多摩にあるVoLTE交換機でルーターの経路設定を誤り、通信が過剰に繰り返される輻輳(ふくそう)が発生します。分散処理を通じて他の拠点でも輻輳状態に陥ったため、全国的に音声通話を中心に通信しづらい状況となりました。
KDDIは流入制御などを実施し設備の負荷軽減を図りますが、輻輳からの解消には至りません。最終的に異常な状態となったVoLTE交換機を特定し切り離すことで復旧しますが、不具合の解消までに時間がかかり、大規模な障害となってしまいました。事態を重く見た総務省は、通信障害では初めて総務相名で行政指導を行っています。
【KDDIの通信障害の概要】
・影響時間:7月2日1:35~7月4日15:00(61時間25分)
・影響エリア:全国
・音声通話の影響数(VoLTE):約2278万人
・データ通信の影響数(4G、5G):約765万人
出所:KDDI 7月2日に発生した通信障害について
KDDIは、約款に基づいて返金する必要がある約271万人について、基本使用料の2日分相当額を請求額から減算する処置を行いました。また、その他の顧客についても「おわび返金」としてスマートフォンなどを契約する約3589万人に、一律で200円を請求額から差し引くことで返金します。
また再発防止策として、メンテナンス時の作業手順やVoLTE交換機における輻輳制御の見直し、また輻輳が発生したときの復旧手順の確立を発表しています。さらにAIなどを活用した自動復旧システムなどの開発に向け500億円を投資する方針も表明しました。
KDDIが楽天向けローミングを拡大KDDIの通信品質は、その通信網に頼る楽天モバイルにとっても重要です。
2019年にキャリアとして事業を開始した楽天モバイルは、早期の通信網構築に向け当初からKDDIと「ローミング」契約を締結しています。ローミングとは他の事業者の設備を利用して通信網を構築する仕組みのことです。楽天モバイルは「au」の通信ネットワークの一部を融通してもらい、パートナー回線としてこれまでサービスを提供してきました。
なお、楽天モバイルは自社でも通信基地局の建設を進めており、2023年4月時点で5.7万局を突破しています(4G屋外基地局)。しかしその負担は重く、ネットワーク費用は2022年度に4050億円に到達しており、同社が苦戦する要因の1つと考えられています。
【楽天モバイルのネットワーク費用】
楽天グループ 決算データシートより著者作成楽天モバイルは2023年4月、KDDIと新たにローミング契約を締結し、対象エリアを従来から拡大させました。これにより、当初計画していた2023年度の3000億円の設備投資額を約2000億円に圧縮し、2025年度までに3000億円の削減を目指すとしています。
さらに楽天モバイルは、2023年6月から開始した「Rakuten最強プラン」において、従来データ高速通信を月5GBまでとしていたパートナー回線の制限を撤廃しました。これにより、同社のKDDIの通信網に頼る構図はますます強まっているといえそうです。
ドコモが実質値上げ? 料金の新旧比較携帯通信業界では、NTTドコモが実質値上げに踏み切ったのではないかと話題を集めています。ドコモは2023年5月に子会社「NTTレゾナント」の吸収合併を発表し、同社が提供していた格安スマホ「OCNモバイルONE」の新規受付を終了させました。代わりに「irumo(イルモ)」という新プランを発表しています。
OCNモバイルONEとirumoは、どちらもデータ容量が比較的小さいライトユーザー向けのプランですが、「0.5GB」コースを除き、いずれのデータ容量でもirumoの方が高い料金設定となっています。最大で月1287円が差し引かれる(0.5GBコースを除く)割引を適用させても、OCNモバイルONEの方が低料金でした。
【irumoとOCNモバイルONEの料金比較】
※irumoの割引額は、dカードお支払割またはビジネスメンバーズ割で月187円、ドコモ光セット割またはhome 5Gセット割で月1100円(0.5GBコースを除く)出所:NTTドコモおよびNTTレゾナント
ドコモは、KDDIとソフトバンクがそれぞれ「UQモバイル」や「ワイモバイル」を提供する中、大手3社では唯一サブブランドを提供してきませんでした。低価格プランの「ahamo(アハモ)」はリリースしていますが、これはネット申し込み限定で、高齢者など店頭サポートを求めるライトユーザーの獲得が課題でした。irumoは店頭でも申し込みを受け付けるため、これらの層への訴求が期待できます。
携帯通信業界では、国の圧力などから料金を上げづらい環境が続いてきました。しかし他の業界に目を向ければ、近年のインフレから値上げが相次いでいます。ドコモのirumoは直接的な値上げとはいえませんが、実質的な値上げと受け止められれば他の通信業者も追随するかもしれません。irumoの成否は、各社の戦略にも影響を与えそうです。
執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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