20代の“2人に1人”が加入…「若者に生命保険は不必要」と言えるこれだけの理由
Finasee / 2023年7月3日 17時0分
Finasee(フィナシー)
20代など若い人たちの間で生命保険への加入は減っているのでしょうか。
今から30年くらい前は「職域営業」と言って、新入社員が入社してくる時期になると、生命保険会社のセールスがオフィスを回って、生命保険に加入してもらうという風景が、ここかしこで見られました。
しかし、今はオフィスのセキュリティが強固なため、生命保険会社のセールスが簡単に入って来られるような環境ではありません。
さぞや生命保険のセールスも苦労しているのではないかと思うのですが、若い人たちは今、生命保険に対してどのような意識を持っているのでしょうか。
若者の生命保険離れは進んでいる?結論から言うと、若い人たちの生命保険離れは、案外進んでいないようです。
生命保険文化センターが発行した「2022(令和4)年度 生活保障に関する調査」(2023年3月)の内容をベースにして、第一生命経済研究所 総合調査部の岩井紳太郎研究員が執筆した「最近の若者の保険離れは加速しているのか」というレポートによると、明確に保険離れが進んでいるという事実は、データからも見られないという結論でした。
日本は“保険大国”と言われるように、生命保険に加入する率が非常に高い性質が見られます。
日銀の「資金循環統計」(2023年6月27日公表)を見ても、2023年3月末時点で2043兆円ある個人金融資産のうち、最も大きいのは現金・預金の1107兆円で54.2%を占めていますが、その次に大きいのが保険の378兆円で、全体の18.5%を占めています。
時系列で見る20代の生命保険の加入率では、生命保険の加入率はどの程度なのでしょうか。
生命保険文化センターの「2022(令和4)年度 生活保障に関する調査」(2023年3月)によると、全年代のうち79.8%が、何らかの生命保険に加入していることが分かりました。そのうち、20代の生命保険加入率は51.5%です。
同レポートでは、「20歳代の加入率は51.5%で、全年代を大きく下回っている。ただ、生命保険は結婚・出産等のライフスタイルの変化のある30、40歳代での加入率が高く、20歳代での加入は少ない傾向がある。直近約20年間の推移を見ると、20歳代の加入率は、2022年で低下が見られるものの50%台を維持しており、加入率の観点からは現時点で若者の保険離れが加速しているとは明言し難い」としています。
時系列で見ると、20代の生命保険加入率は、
2004年・・・・・・56.2%
2007年・・・・・・57.0%
2010年・・・・・・52.5%
2013年・・・・・・54.6%
2016年・・・・・・55.7%
2019年・・・・・・59.2%
2022年・・・・・・51.5%
このように推移しました。
2004年以降の数値で、相対的に低い年は2回あります。それは2010年と2022年です。両者に共通するのは、経済的に厳しい時期だったということでしょうか。
2010年はリーマンショックの直後ですし、2022年は新型コロナウイルス感染拡大の影響から、まだ完全に抜け出せていない時期でもあります。「経済的に厳しく、保険料を払えるだけの余裕がない」という人が多かったとしても、不思議ではありません。
とはいえ、過去の傾向から見て2019年にかけては生命保険加入率が着実に上昇していますから、2022年の加入率が低下したからと言って、20代で生命保険加入者が減少していると断言するのは、いささか無理があるでしょう。
それよりも、「若いうちは生命保険に加入する必要はない」といった類いの意見が、メディアなどを通じて流布されているにも関わらず、現時点に至るまで50%超の加入率を維持していることの方が、驚異的です。
日本人の生命保険神話は、非常に強いと言わざるを得ません。
20代で生命保険に加入する意味とは?ところで同レポートでは、そうは言っても若者の生命保険加入率が低いことを指摘したうえで、生命保険に加入しない原因について、「生命保険への理解不足、金銭面、保険との接点の少なさが非加入の大きな要因だ。生命保険への理解促進につながる金融教育を社会全体で進めていくことに加え、保険会社としてはSNS等を活用した情報発信や、若者が加入しやすい保険商品(スマホで加入可能等)の提供等が今後の課題となりそうだ」と結論づけています。
この文章を読んだイメージとしては、若いうちから生命保険に加入することを促しているように読み取れますが、果たして若い人が生命保険に加入する意味は、どの程度あるのでしょうか。
メリット確かに、生命保険に加入していれば、自分の身に何か起こったとしても、残された人(保険金の受取人)への経済的保障が手厚く行われるため安心できるのかもしれません。
デメリットですが、20代の死亡率が何パーセントになるのかをご存じでしょうか。
厚生労働省の「令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況」の数字によると、令和元年における25歳から29歳までの死亡率は0.035%です。この数字は男性と女性を合わせた総数ベースのものですが、それ以上の年齢階層別の死亡率を見ると、
30歳~34歳・・・・・・0.046%
35歳~39歳・・・・・・0.061%
40歳~44歳・・・・・・0.091%
45歳~49歳・・・・・・0.145%
50歳~54歳・・・・・・0.231%
55歳~59歳・・・・・・0.360%
さらに上の年齢階層の数字もありますが、そこまで行くと生命保険の加入対象者からほぼ外れるので、ここまでにしておきます。
死亡率とは、日本の場合、通常は1年あたり「人口10万人に対する死亡者数」をベースに計算されます。たとえば55歳~59歳の死亡率0.360%とは、この年齢層になると1年間で10万人中360人が死亡することを意味します。
しかし、考えてみると55歳から59歳までの年齢層になったとしても、死亡率は0.360%でしかないのです。つまり、0.360%のリスクにおびえて、大勢の人たちが生命保険に加入していることになります。
改めて考えたい生命保険加入の必要性これが果たして合理的な判断なのかどうかということを、私たちは一度、真剣に考えてみる必要があります。ましてや、25歳から29歳までの死亡率は、1年間でたったの0.035%でしかありません。
確かに生命保険の保険料は、若いうちから加入した方が安くなりますが、それは死亡するリスクが低い年齢のうちから、生命保険会社に保険料を支払っているからです。
生命保険会社にとって、加入者から払い込んでもらう保険料はキャッシュイン、加入者が死亡した時に支払う保険金はキャッシュアウトです。
したがって、死亡リスクが極めて低い若い人からたくさんの保険料を受け取れれば、生命保険会社にとってはより大きなキャッシュフローが継続的に得られるため、保険料を多少割り引ける、とも考えられます。
このように考えを巡らせていくと、若いうちから生命保険に加入するのは無駄であると言ます。もちろん、0.035%の確率でも不安だから加入するという人に対して、この考え方を押し付けるつもりは毛頭ありません。
しかし、生命保険会社があれだけの巨大組織を維持できるのは、支払う保険金に比べて、受け取る保険料が圧倒的に大きいからだという程度のことには、想像を巡らせても良いのではないでしょうか。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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