がん医薬のトップランナー中外製薬 期待の「新薬」は承認されるか?
Finasee / 2023年7月7日 17時0分
Finasee(フィナシー)
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中外製薬の株価に回復の兆しが見られます。従来2年に一度だった薬価改訂が2021年から毎年行われることとなり医薬品全体に下押し圧力が働きますが、2023年に入り中外製薬株式は反発するようになりました。2022年12月期に売上収益が1兆円を超えるなど、足元の好業績が評価されたと考えられます。
【中外製薬の業績】
※2023年12月期(予想)は、同第1四半期時点における同社のCoreベース予想出所:中外製薬 決算短信
【中外製薬の株価(月足、2020年5月~2023年5月)】
Investing.comより著者作成
中外製薬は、2023年7月から算出される「JPXプライム150指数」構成銘柄に、資本収益性基準と市場評価基準の双方を満たして選出されました。今回は今注目の企業、中外製薬に焦点を当ててみましょう。
社名とロゴに秘められた創業の歴史中外製薬は1925年に創業されました。関東大震災で深刻な薬不足に陥る惨状を見た上野十蔵(うえの・じゅうぞう)が「中外新薬商会」を立ち上げ、薬の輸入事業を始めます。社名に付された「中外」は「国内」と「海外」という意味があり、創業者の「海外の良薬を日本に広め、将来は日本の薬も海外へ届けたい」という思いが込められています。
この思いは実り、中外製薬は1927年に医薬品の製造に乗り出します。1930年に結核向けの鎮痛・消炎・解熱剤として「ザルソブロカノン」を開発し、1937年にはその原料となる臭化カルシウムの自社生産にも成功しました。ザルソブロカノンは創業期で重要な稼ぎ柱となり、現在も中外製薬のロゴにそのアンプルをイメージしたデザインが採用されています。
戦後は解毒促進・肝機能改善薬「グロンサン」が世界的にヒットし、ヨーロッパなど31カ国に輸出されました。生産高は1955年に10億円を超え、需要が低迷していたザルソブロカノンから成長のバトンを引き継ぎます。
大衆薬メーカーとして業容を拡大した中外製薬ですが、次第に医療用医薬品へシフトしていきます。1980年代に「アルファロール」や「セフォタックス」など新薬を次々に投入し、1984年に初めて売上高1000億円を達成しました。2004年には一般用医療品(OTC医薬品)事業を化学大手の「ライオン」へ売却し、現在では医療用医薬品へ特化しています。
ちなみに、ライオンへ譲渡された事業には、現在も人気の殺虫剤ブランド『バルサン』も含まれていました。国内初の家庭用蒸散殺虫剤として中外製薬が開発し、2018年にはライオンからさらに日用品大手の「レック」へ譲渡されています。
ロシュの下で成長する国内がん医薬トップランナー中外製薬は2002年、スイスに籍を置く世界最大級の製薬企業「ロシュ」との資本提携を発表し、ロシュグループの一員となりました。ロシュの製品が加わったことで、中外製薬は2008年から国内のがん領域で売り上げトップの地位を占めるようになり、シェアは2022年で14.4%に上ります。業績も大きく成長し、提携後20年で売上収益は7倍超、営業利益は16倍超にまで拡大しました。
【ロシュ提携後の業績推移】
中外製薬 「中外製薬ってどんな会社?」より著者作成
この提携は、中外製薬の独立性が維持されている点で珍しいケースとなっています。ロシュは中外製薬株式の過半数を握ることから支配的な立場にありますが、中外製薬の取締役9名のうちロシュグループからは2名を占めるに過ぎません(2023年4月時点)。またロシュは中外製薬の上場を維持することも認めており、少数株主の存在を許容しているといえるでしょう。
【株式分布状況(2022年末時点)】
出所:中外製薬 株式所有者情報
次の成長を支える主要な開発パイプライン中外製薬の成長は新薬の開発によってもたらされています。2022年は製品別売上高の63%を「新薬創出等加算※」の対象品目が占めました。これらは後発医薬品(ジェネリック医薬品)のない革新的な製品であることから値崩れしにくく、製薬会社にとって安定的な収益となることが期待されます。
※新薬創出等加算:革新的な新薬の創出を目的に、国が後発医薬品のない一定の品目を指定する制度。指定された医薬品は薬価の引き下げが猶予される。
中外製薬で上市間近と目されるのが「クロバリマブ」です。指定難病の一つ「発作性夜間ヘモグロビン尿症」の治療において2023年2月に有効な試験結果を獲得し、同年6月に厚生労働省へ承認申請を行いました。中外製薬はクロバリマブで1000~2000億円のグローバル売上高を見込んでいます。
【開発プロジェクトの市場売り上げ見込み(2023年2月時点)】
出所:中外製薬 決算説明会資料
中外製薬の創薬力は潤沢な研究開発費によって支えられており、2022年度は1400億円にも上りました。今後も先進的な医薬品の開発が続けば、同社の価値はますます向上しそうです。
【研究開発費の推移】
出所:中外製薬 「業績・財務、その他指標の推移」より著者作成
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
Finasee編集部
金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。
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