新NISAの「つみたて投資枠」の対象商品は“233本”のままなのか?
Finasee / 2023年7月6日 11時0分
Finasee(フィナシー)
2024年1月からスタートする新NISAの「成長投資枠」で購入できる投資信託が、6月21日に投資信託協会から公表されました。ひとまず今回は約1000本でしたが、最終的には約2000本がリストアップされる予定です。
新NISAの投資枠と対象商品新NISAは、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」が設けられていて、この両方を併用できます。非課税期間は無期限で、年間投資上限額は、つみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円です。
このうちつみたて投資枠で購入できる投資信託は、現行のつみたてNISAで対象となっている投資信託とETFが、そのまま引き継がれます。
ちなみに、つみたて投資枠で購入できる投資信託は、指定インデックス投資信託が195本、指定インデックス投資信託以外の投資信託(アクティブ型投資信託)が30本、ETFが8本の、合計233本(2023年6月現在)に限定されていますが、成長投資枠は、このように対象商品が絞られるのかどうかという点が注目されていました。
一般NISAの想定外の使われ方というのも、成長投資枠の前身にあたる「一般NISA」の場合、株式と株式投資信託、ETF、J-REITはほぼすべての銘柄が購入対象になっていたからです。
ただ、株式と株式投資信託、ETF、J-REITに関して、ほぼすべての銘柄を購入できた一般NISAは、金融庁が制度をつくる際に想定していた、長期の積立投資によって資産形成をするためのツールという側面にはそこまで注目が集まりませんでした。
どちらかというと短期で大きな値上がりの期待できる個別株式や、レバレッジ型株式投資信託で得た売買益を非課税でまるもうけするといった、想定外の使われ方に注目が集まり、実際、そういう投資をした利用者も結構多かったと聞きます。
2018年1月から、つみたてNISAをスタートさせたのは、このような使われ方をした一般NISAは失敗だと、金融庁自身も認識したからではないかと推察します。
そのためか、つみたてNISAと一般NISAの併用は認められず、つみたてNISAは20年という非常に長い非課税期間が与えられました。
一方で、そもそも一般NISAは、制度の存続が2023年までだったため、金融庁は制度の延長を認めず、そのままフェードアウトさせるつもりだったのかもしれません。
一般NISAが消滅しても、つみたてNISAは残っていますから、その範囲で長期の資産形成は可能です。
成長投資枠に制約ができた背景とは?しかし、一般NISAがなくなると困る人たちがいたのも事実です。一般NISAが廃止になれば、一般NISAの口座を通じて買い付けられている、かなりの金額の株式が売られる恐れがあります。
大量の売りが出てきたら、株価は下がりますし、せっかく一般NISAの口座を通じて投資したいという理由で入ってきた資金が、抜けてしまう恐れもあります。
新NISAが2024年1月からスタートするにあたり、一般NISAを引き継ぐ形で成長投資枠が設けられ、かつ年間投資上限額が240万円まで倍増された背景には、上記の理由で一般NISAの廃止を懸念する証券業界に対する忖度がありました。
とはいえ、以前、制度設計に失敗した一般NISAと、ほぼ同じ内容で成長投資枠をスタートさせたら、間違いなく一般NISAの二の舞です。
それをどうしても避けたい金融庁としては、少なくとも成長投資枠で購入できる投資信託には、一定の制約を付加したかったのでしょう。それが今回、「成長投資枠で購入できる投資信託1000本リスト」の発表につながったと考えられます。
制約への解釈には多くの議論も成長投資枠で購入できる投資信託のうち、そこから除外されるのは、高レバレッジ型、ならびに毎月分配型です。これは新NISAの概要が決まった時から言われていたことですが、その解釈を巡って業界内ではかなり議論が錯綜したようです。
高レバレッジ型とは、ブル・ベア型のように、デリバティブを駆使し、基準価額の騰落率が、ベンチマークに対して2倍、あるいは3倍の倍率で連動するレバレッジ型の投資信託を指しているのだと思われますが、金融庁はこのタイプの投資信託を排除するに際して、デリバティブを使用する場合は、為替変動リスクを抑えるなどリスクヘッジ目的に限定するとしました。
ただ、株式先物取引や債券先物取引、あるいは各種オプション取引は、リスクヘッジ目的だけでなく、ファンドの運用効率を高めるのに用いられることもあります。
たとえばインデックスファンドでも、インデックスを構成する全銘柄を組み入れようとすると、コスト面で不利になるため、個別銘柄の代用として、各種先物取引やオプション取引を用いるケースがあります。
それさえも認められないとなると、中にはかなりの数のファンドが、成長投資枠に適合しない投資信託会社も出てきてしまいます。
ヘッジ目的の適用範囲への解釈は議論の余地あり6月27日の日本経済新聞朝刊に掲載されたコラム記事、「金融取材メモ」によると、約款にデリバティブ利用をヘッジ目的に限定する旨を明記しさえすれば、成長投資枠の基準を満たすことになりました。
しかも、それは投資信託会社が商品の運用実態を精査し、基準を満たすと判断したものを、成長投資枠に適合したファンドとして投資信託協会に申請し、投資信託協会は、申請されたものをそのままリストに載せるということで決着したとのことです。
うがった見方をすると、投資信託会社がヘッジ目的以外でデリバティブを使った投資信託を、約款にはヘッジ目的と明記し、投資信託協会に成長投資枠対象ファンドとして申請すれば、そのままリストに載ることになります。
もちろん、そのようなことをさせないために、金融庁は「約款でヘッジ目的を記載しながらデリバティブを他の用途で使っていることが判明した場合、金融庁は行政罰を辞さない構えだ」と、そのコラム記事にも書かれていますが、改めてヘッジ目的の適用範囲の解釈について、議論の余地を残す形になりました。
つみたて投資枠との整合性、どう図る?それにしても、よく分からないのが、新NISAがスタートした時、つみたて投資枠で購入できる233本と、成長投資枠で購入できる約2000本の整合性を、どう図るのかということです。
6月22日の日本経済新聞朝刊に掲載された記事には、「公募投信は全体で約6000本ある。その中から投資初心者が扱いやすい投信をどう区分けするかが焦点だった」とあります。
これは成長投資枠で購入できる投資信託のことを指しているのですが、要するに成長投資枠で購入できる投資信託は、投資初心者でも扱いやすいものにするとなると、では、どうしてつみたて投資枠で購入できる投資信託は、233本しかないのか、という疑問につながります。
どちらも投資初心者を対象にした制度なのだとしたら、つみたて投資枠で購入できる投資信託を、現行の233本に限定しておく意味が分かりません。
全くの臆測ですが、つみたて投資枠の対象ファンドに関する制限はいずれなくなり、成長投資枠で購入できる投資信託との整合性が取られるようになるのではないかと思うのです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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