株式分割の理由は「新NISA」? 信越化学工業は日本の半導体ブームに乗れるか
Finasee / 2023年7月11日 17時0分
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「信越化学工業」は国内最大級の化学メーカーです。塩化ビニールと半導体シリコン(シリコンウェハ)で世界1位のシェアを持つことで有名な同社は、2022年3月期に純利益が国内化学メーカーで初めて5000億円を突破しました。
【信越化学工業の業績】
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出所:信越化学工業 決算短信
【信越化学工業の株価(月足、2020年5月~2023年5月)】
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出所:Investing.comより著者作成
信越化学は、JPX総研が2023年7月から算出する「JPXプライム150指数」の選出企業です。信越化学はどのような強みを持つ企業なのでしょうか。焦点を当ててみましょう。
重要分野で高シェアを握る大シリコンメーカー信越化学は1926年に信濃電気と日本窒素肥料の共同出資によって設立されました。初期は石炭窒素や金属マンガンなどを手掛けていましたが、1953年にシリコーン(シリコーン樹脂)、1957年に塩化ビニールの製造に着手します。これらは住宅や自動車など幅広い分野で用いられる材料で、高度経済成長期に大きく成長しました。現在、信越化学はシリコーンと塩化ビニールで世界トップクラスのシェアを握っています。
同じく信越化学が世界首位級のシェアを持つ半導体シリコン(シリコンウェハ)は、1960年に製造を開始しました。あらゆる電子機器に組み込まれる半導体製品の材料で、信越化学は世界の約3割の生産を担っています。
【シリコンウェハの世界シェア(2021年)】
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出所:経済産業省 半導体・デジタル産業戦略(令和5年6月)より著者作成
信越化学は他の製品でも高いシェアを獲得していますが、これは同社がさまざまな業界で顧客を獲得しているということです。特定の業界への依存度が小さいため、景気変動の影響を軽減させることができ、安定的な成長に寄与したと考えられます。
【信越化学工業が高いシェアを持つ主な製品】
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出所:信越化学工業 アニュアルリポートおよび公式サイト
日本の半導体ブームは信越化学を押し上げるか現在、日本はにわかに半導体工場の建設ラッシュが起こっています。2021年にファウンドリ大手の「TSMC」が熊本県に工場を建設すると発表したほか、2023年にはキオクシアやソニーグループなどが出資する「ラピダス」が北海道に先端半導体の生産工場を建設すると表明しました。また「ウエスタンデジタル」や「サムスン電子」も、相次いで日本進出を発表しています。
【日本に生産拠点の新設を表明した主な半導体企業】
2021年10月:TSMC(熊本県)
2022年4月:キオクシア、ウエスタンデジタル(三重県)
2023年2月:ラピダス(北海道)
2023年5月:サムスン電子(神奈川県)
世界の半導体市場はデジタル化で成長してきたものの、日本は取り残されてきました。一時は20%を超えていたシェアは大きく低下しており、現在は10%未満に落ち込んでいます。国内のラピダスやキオクシアはともかく、なぜ海外の大手は市場規模の小さい日本を目指すのでしょうか。
【半導体市場規模の推移】
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出所:電子情報技術産業協会 世界半導体市場統計(WSTS)より著者作成
背景には安全保障上の問題があると指摘されています。現在、半導体は中国や台湾などで多く生産されていますが、近年は両地域で緊張が高まってきました。またアメリカは半導体サプライチェーンから中国企業の締め出しを強めており、半導体企業はこれらの地域に代わる生産拠点として日本を選んでいると考えられています。また日本には半導体製造に関連する機械や素材でトップシェアを持つ企業も多く、設備や材料を調達しやすいという事情もあるでしょう。
信越化学は海外ネットワークに強みのある企業ですが、国内にもシリコンウェハやマスクなど半導体に関連する電子材料の生産拠点を多く持っています。国内で半導体の生産が高まれば、信越化学にも恩恵がありそうです。
サプライズ分割を発表 背景は「新NISA」?信越化学は2023年1月に1:5の株式分割を発表しました。発表時の株価は1万7585円ですから、従来は1単元(100株)取得するのに約176万円必要でした。この分割で必要額は5分の1に減少することとなり、同時に公表した自社株買いの効果もあって信越化学株式は上昇する場面が見られました。
信越化学の株式分割は、実施する理由に「新NISA」を挙げたことが注目を集めました。新NISAとは2024年から始まる制度で、現行のNISAを大きく拡充した内容となることから個人投資家の注目が集まっています。
個別株式への投資は、現行の制度では「一般NISA」、2024年からは新NISA口座に設けられる「成長投資枠」で可能です。年間や累計で投資できる金額が従来の2倍に引き上げられ、さらに非課税期間が撤廃されたことから、上場企業にとっては安定株主を獲得できるチャンスとなっています。
【一般NISAと新NISA(成長投資枠)の比較】
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出所:金融庁 NISA
信越化学は、新NISAで目論見通り資金を集めることができるのでしょうか。その後の動向が注目されます。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
Finasee編集部
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