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嘘の投資話で“40億円”集めた元税理士…被害者をだました衝撃の手口

Finasee / 2023年7月27日 17時0分

嘘の投資話で“40億円”集めた元税理士…被害者をだました衝撃の手口

Finasee(フィナシー)

つい先日の話です。6月15日に行われた広島地方裁判所の初公判において、元本保証をうたって多額の現金を集め、出資法違反の罪に問われた元税理士(75歳)に対し、検察側は懲役1年6月、罰金100万円を求刑しました。

240名・40億円の被害…どんな事件だった?

元税理士は39歳の無職男性と共謀し、税理士事務所のスタッフを介して自らの顧客に対して出資を募り、2020年5月から2021年1月までの間に、男女5人の被害者から現金合計6億7000万円を集めたというものです。

共謀者である無職男性はトレーダーを名乗っていたものの、受け取った金銭を運用するつもりは全くなく、元本を確実に返済できる見込みも全くない中で、「株式取引で利益を上げ、月2~5%の配当を出す」「元本は保証する」と言って、現金を集めたそうです。

ちなみに、この無職男性に対しては6月30日に、広島地裁において懲役6年、罰金300万円が言い渡されました。

上記被害は、実はこの事件のほんの一部の被害に過ぎません。75歳の元税理士、ならびに39歳の無職男性の他、4人の共謀者がおり、さらなる余罪が疑われています。

広島県警によると、彼らは2014年9月から2022年8月までの8年もの間、20都道府県の約240名から、合計40億円もの資金を集めたとされています。

国民的女優を“勝手に”広告塔にする悪質手口

この事件が一躍有名になったのは、ある女優が広告塔として利用されていたからです。もちろん、この女優の名誉のために言うと、積極的に広告塔として関与していたわけではありません。結果的に広告塔に仕立てられてしまったのです。

さまざまなメディアで報じられている内容を元にして、この経緯を組み立てると、この詐欺集団は以前から架空の投資話を持ち掛けて資金を詐取していましたが、元税理士が、女優の個人事務所を経営している、女優の母親と知り合いというつながりで、母親は事務所資金1億円を投資してしまったのです。

元税理士はさらに資金を集めるために、自分の顧客を招いた会を催し、その場で参加者に投資話を持ち掛けて、億単位の出資を引き出しました。

しかも、この会が行われた場所には、女優も招かれており、その参加者は「これだけ有名な女優さんが参加している会合で勧誘された投資話だから」と、全く疑わずに大金を出資してしまったということでした。

この女優にとっては寝耳に水の話。ただ、招待された会合に参加しただけで、狡猾な元税理士によって、広告塔に仕立て上げられてしまったのです。その後も、元税理士は資金を集める際に、この女優の名前を持ち出していたそうです。

最低限知っておきたい「出資法」

この事件は、出資法違反の典型的な事例ですから、少し「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」(以下、出資法)について触れておきましょう。

出資法が制定されたのは、1954年のことですから、もうかなり古い法律です。当時も現金を他人に預けて失ってしまったり、お金を借りている弱みに付け込まれて、多額の手数料を詐取されたりする事件があったようです。

そういうお金に絡んだトラブルを防ぎ、「一般大衆の財産の保護」を目的にして制定されたのが、出資法でした。

その後、日本は経済的に発展し、人々の生活も豊かになる中で、一般の人々が巻き込まれる詐欺事件が多発しました。その都度、出資法は社会情勢の変化に応じて改正が加えられました。

出資法は、以下の5つの条項からなりたっています。

①出資金の受入れの制限
②預り金の禁止
③浮貸しの禁止
④金銭貸借の媒介手数料の制限
⑤高金利の処罰

以上、第1条から第5条のうち投資関係の詐欺事件で出資法違反が問われるのは、第1条と第2条です。第1条の出資金の受入れの制限とは、

不特定多数の人々を対象にして、一定期間後に出資金の全額、もしくは出資金を超える金額のお金を支払う約束で出資金を受け入れることです。よく「元本保証を提示して不特定多数の人々から資金を集めると出資法違反になる」というのは、この第1条に違反するからです。

次に第2条ですが、これは他の法律によって定められている場合を除いて、不特定かつ多数の人たちから貯金や貯金、定期積金、社債、借入金といった名目で、業として預り金をすると、出資法違反に問われるというものです。つまり何の許可も得ていない個人や、銀行、信用金庫、信用組合以外の法人が、上記の名目で預り金をすることは認められていないのです。

このように出資法の基本的な知識を頭の片隅に入れておくと、金融機関でもない個人や法人から、一定の利回りや元本保証を確約したうえで出資を求められることが、いかに怪しいことか、理解できると思います。

出資法を知れば見えてくる投資話の怪しさ

そのうえで前出のケースを改めて見てみましょう。

まず、「株式取引で利益を上げ、月2~5%の配当を出す」「元本は保証する」といった時点で出資法違反です。

また月2~5%の配当と言われた時点で、「これは有利だ」と思うのではなく、「こんな利回りが実現するはずない」と考えるべきでしょう。低く見積もって月2%の配当だとしても、年利に換算すれば24%。投資で年24%を常に回せるものなど存在しません。しかも「元本保証」とまでうたっているのですから悪質です。

日本の10年物国債利回りは0.4%台です。国債は日本で最も元本安全性の高い金融商品ですから、元本保証でこれを超える利回りの金融商品は、何らかのリスクが内包されているか、あるいは完全な詐欺商品かのどちらかであるという認識を持つべきなのです。

有名人を利用して信用を集めるビジネスに注意!

また、この事件の特徴は、広告塔の存在です。もちろん、この女優は結果的に広告塔に仕立てられてしまったわけですが、そもそも金融機関でも投資会社でもないのに、太くて多数の人たちから運用資金を集めるためには、信用させる何かが必要です。そのために広告塔が存在します。

芸能人やスポーツ選手など、誰もが知っている著名人が直接、その投資商品を勧めていなかったとしても、WEBをはじめとする各種メディアの広告やセミナーなどに登場していたら、すぐに「怪しい」と思うべきでしょう。

さらに言えば、この事件では元税理士が資金集めで大きな役割を果たしていますが、国家資格である税理士に対する信頼も、信用補完に利用されました。

とはいえ、前述したように出資法に関する知識が幾ばくかでもあれば、いくら有名女優が広告塔に使われ、かつ税理士という肩書の人物が近づいてきたとしても、だまされずに済んだのかも知れません。その点でも、出資法という法律の趣旨は、頭の片隅に置いておくと良いでしょう。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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