自己破産しかない…年収800万円会社員が不動産投資で大失敗したワケ
Finasee / 2023年7月12日 11時0分
Finasee(フィナシー)
居住用、投資用、相続・節税用とさまざまな用途で取引される不動産。しかし、売り手と買い手の情報に「非対称性」があることからも、不動産に関するトラブルが後を絶ちません。この連載では不動産鑑定士の福田伸二さんが、皆さんの「不動産リテラシー向上」に役立つ情報を事例と共にお届けしていきます。今回は、前回に引き続き、マンション投資でのトラブル例をご紹介します。
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前回の記事(「家賃保証」の甘言に注意…売るに売れない「サブリース契約」の恐ろしい盲点)では、ワンルームマンション投資に潜むリスクについてご説明をしました。投資の失敗も怖いのですが、実は「不動産投資で失敗したな」と思っている方に非常に気をつけていただきたいことがあります。それは、心ない不動産業者による「二次被害」です。
ご相談例で印象に残っている二つの事例をご紹介しましょう。
1人目のAさんは、20代後半の男性で年収500~600万の、ごくごく普通のサラリーマン。Aさんはその若さにして、ワンルームマンションを3室も購入していました。しかし、その投資がうまくいっていませんでした。
購入予定の「値上がりするはずの土地」。実態は!?「自分でもなんとなく失敗したことに気づいています」というAさん。損切りでも構わないという覚悟で、所有物件を売却整理したいと、当社にご相談に来られました。
ところが、そのご相談の直後です。ある不動産業者から「マンション3室をすべて買い取りましょう」と持ち掛けられます。ただし、条件があるといいます。その条件とは「長野県の那須塩原にある450万円の土地を買ってくれたら、あなたのマンションを買い取ってもいい」というものでした。業者の話では、450万円の土地が、2年後には1000万円で売れるというのです。
「不動産業者が整地して宅地として売り出します」「1000万円で売れることが決まっている物件なんですよ」「今なら整地前だから破格の値段です」「450万円で買って1000万円で売ったら、550万円のもうけが出ますよね」「その550万円でワンルームマンションのマイナスを埋めましょう」。不動産業者の甘言に惑わされ、Aさんはこの話に飛びついてしまいました。
これは実は「原野商法」と言って、バブル時代に非常に流行った手口なのです。将来上がる見込みのない原野や山林を「この土地を購入しておくと地価が上がってもうかりますよ」と買わせる手法ですね。この手法を、不動産投資で失敗した人に持ち込んでくる業者がいるのです。
土地を一度も見ずに、契約書に判を押してしまったAさん。しかし、さすがに不安になり、当社に「大丈夫でしょうか?」と問い合わせて来られました。私もGoogleのストリートビューで現地を確認しましたが、何もない荒れ地が広がっている場所でした。もちろん、こんな土地が宅地として売れるわけがありません。明らかに原野商法でした。
「これはマズいです。1000万円で買う人なんていないですよ」とAさんに言いました。真っ青になったAさん。急いでクーリングオフの手続きをしてもらい、なんとか解約できました。
「なぜ、そんなものに判を押してしまうのか?」と不思議に感じる方が多いのではないかと思います。ただ、追い詰められていると、「差額の550万円でワンルームマンションのマイナスが埋められる」という所に意識がいって、そんな話も信じてしまうのです。また、業者もその場で判を押すように迫ってきますので要注意です。うまい話はないのですから、怪しいと思った時は、しかるべき場所にぜひ相談に行ってほしいと思います。
「失敗物件」をつかんだあとに待っていることところで、なぜAさんはマンション投資で失敗していることを、業者に知られてしまったのでしょうか。最初にAさんに“もうからない”ワンルームマンションを売却した不動産業者の関連会社である可能性もゼロではありませんが、私はおそらく違うと思います。
というのも、ワンルームマンションは、もともと1棟を所有している不動産業者から別の業者が買い取って、それを一部屋ずつ分譲しているケースが多く「このマンションは区分所有者が高値でつかまされているな」といったことは、ほかの不動産業者が見れば、わかってしまうのですね。
そのうえ、不動産購入の際には登記をしますので、登記簿を見ればワンルームマンションの所有者の住所がわかります。登記簿には抵当権の債権額も載っているので、困っていそうな人の電話番号を調べて、業者がセールスをかけてくるのです。
「マンション3棟買い」エリート会社員がハマったローン地獄もう1人、ご相談者で印象に残っているのが九州在住のBさんです。Bさんは40代の有名企業勤めのサラリーマンで年収は約800万円。地方では勝ち組といえる年収クラスでした。Bさんは、3棟ものマンションを購入していました。1棟は首都圏、ほかには九州と中部地方に、それぞれ1棟ずつを所有していました。
Bさんは自分の投資がよくない状況であることに、あまり気づいていませんでした。ただ、最近になって空室も増え、あきらかに収支がマイナスなので、売却も考えたいと当社に相談に来られました。
ご相談いただいた時、なぜこの資産背景とご年収で1棟マンションが3棟も所有できるのだろうと不思議に思った私は、1棟マンションを購入した時の契約書や書類を見せてもらいました。すると、典型的な「見せ金」という手法で買わされていたことが分かります。簡単に言うと、お客さまから通帳を預かって、そこに不動産業者が一時的にお金を振り込み、その預金額をもとに銀行のローン審査を通していたのです。もちろん、審査が通れば、お金はまた口座から抜かれます。
Bさんのパターンも典型的な「見せ金スキーム」でした。もっと怖いのは、Bさんはそのことに気づいていなかったのです。必要書類として預金通帳を仲介業者に渡し、言われるがままローンを組んでいました。
ご本人は「あれ、この4000万円はなんだろう?」とおっしゃっていて、まったく気にしていなかったようです。本来であれば中古物件ではありましたが、3棟で2億円もの銀行ローンを結果的に組まされていました。
当社で査定をしましたが、築30年ほどのマンションで、全部合わせてもローンの残債よりもはるかに低い金額でしか売れない物件でした。正しい資産背景と預貯金の額で銀行審査をしていれば、1棟目の購入も難しかったかもしれませんが、結果的に3棟もの収益性の悪い地方のマンションを言葉巧みに買わされてしまってました。正直に言って、手の施しようがありません。これからマンションも老朽化していき、修繕費がかさみ、空室も増え、赤字が垂れ流されていく状況が目に見えています。自己破産も選択肢の一つとしなければならない非常に厳しい状況です。
契約書からわかった“ある事実”とは…この二つの事例で共通して言えることは、ただ投資に失敗するだけでもそのリカバーには大変な労力がかかるのに、さらに“泣きっ面に蜂”状態に陥りかねない「二次被害」が起きがちということです。
Aさんはワンルームマンションに含み損を抱えていたときに、原野商法業者に近づかれ、あやうくさらに損を重ねるところでした。Bさんは、無謀ともいえるほど高いローンを組まされ、“過剰融資”の餌食になっていました。
AさんやBさんの契約書を拝見すると、売主は不動産業者となっているのに、登記簿上の所有者は個人から所有権移転登記がされており、「三為(さんため)業者」が絡んでいると考えられます。実はあまり知られていないこの「三為業者」ですが、不動産の取引では頻繁にみられる取引形態で、特にワンルームマンションの取引では多くなります。
後編「合法だがトラブルも多発…不動産「三為業者」が客に“高値づかみ”をさせやすい理由」ではこの仕組みについて解説し、注意点をお伝えしたいと思います。
※プライバシー保護のため、実際のエピソードから一部変更しています。
福田 伸二/不動産鑑定士
POLUSグループを経て、大和不動産鑑定株式会社に入社し、東京本社鑑定部課長、鑑定証券化部次長を最後に退社。その後、売買仲介・コンサルティング業務に従事し、J-REIT上場のアドバンス・レジデンス投資法人の運用会社で外部委員も務める。毎年100件以上にわたる収益物件の鑑定評価書の発行や、東京都税事務所のアドバイザーとして相続税路線価のアドバイス業務に従事。2020年にファイナンシャルスタンダード入社。
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