ABEMAやウマ娘で躍進 サイバーエージェント買収の危機を救った楽天との浅からぬ関係
Finasee / 2023年7月21日 17時0分
Finasee(フィナシー)
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サイバーエージェントの株価がさえません。約50億円の純損失となった2023年9月期第1四半期の決算が発表された2022年1月から下落傾向を強め、同第2四半期で黒字に転じても低迷が続いています。創業以来25期連続の増収(2022年9月期)と売り上げは好調ですが、利益面が厳しく評価されているようです。
【サイバーエージェントの業績】
※2023年9月期(予想)は、同第2四半期時点における同社の予想出所:サイバーエージェント 決算短信
【サイバーエージェントの株価(月足、2020年6月~2023年6月)】
出所:Investing.comより著者作成
もっとも、サイバーエージェントはエクイティ・スプレッド※基準から「JPXプライム150指数」に選ばれており、収益性は一定の評価を得ています。株価が下がったことで投資を検討する人も少なくないでしょう。
※エクイティ・スプレッド(ES):企業の利益率が投資家の期待をどれほど上回っているか表す指標。ESが正なら投資家が期待する以上の利益を生み出しているとされる。JPXプライム150指数においては、推定ESが正でかつROEが8%以上の銘柄が選定候補 。
サイバーエージェントとはどのような企業なのでしょうか。同社の収益源や歴史を紹介します。
『ABEMA』や『ウマ娘』で躍進するインターネット企業1998年3月に創業されたサイバーエージェントは、“クリック保証型”の広告で急成長した企業です。
従来のインターネット広告は、単純なページ表示で広告費が決まることが一般的でした。そこに目を付けたサイバーエージェントは、堀江貴文(ほりえ・たかふみ)氏に開発を依頼し、サイト訪問者のクリックに連動して価格が決まる「サイバークリック」をリリースします。
サイバークリックは業界を席巻し、同社を瞬く間に大企業へと押し上げました。初年度の売上高は2000万円でしたが、翌1999年度に4億5000万円へと22倍以上に急増しています(出所:総務省 ICTベンチャー・リーダーシップ・プログラム)。
現在でもインターネット広告はサイバーエージェントの屋台骨ですが、ほかに「ゲーム事業」や「メディア事業」も順調に育っています。特にゲーム事業は『グランブルーファンタジー』や『ウマ娘プリティーダービー』といった自社IP(知的財産)のヒット作に恵まれ、3事業で最大の利益を稼ぐようになりました。
メディア事業は動画配信サービスの『ABEMA(アベマ)』で投資が先行していますが、競輪などの公営競技のオンライン投票サービスである『WINTICKET(ウィンチケット)』が好調だったこともあり、2021年9月期から損失は縮小傾向にあります。サイバーエージェントはメディア事業を中長期の柱に位置付けており、収益化すれば次の成長を支える事業となるかもしれません。
【セグメント損益の推移】
出所:サイバーエージェント 決算説明会資料
買収の危機を助けられた楽天との浅からぬ関係誕生してすぐに大きな収益を稼ぎ出したサイバーエージェントは、創業からわずか2年後に上場を果たします。しかし折り悪くITバブルの崩壊に直面し、他のインターネット関連銘柄と同じくサイバーエージェント株式は大きく売り込まれました。
【当時のサイバーエージェント株価の推移(2000年3月末=100)】
出所:Investing.comより著者作成
株価が急落したこと、また上場で得た潤沢な現金を持っていたこと、さらに創業者の藤田晋(ふじた・すすむ)氏の保有割合が比較的小さかったことから、サイバーエージェントには買収の矛先が向かいます。買収されても一般に企業は存続しますが、株主総会を掌握されれば藤田氏をはじめ従来の経営陣は刷新される可能性がありました。
その窮地を救ったのが楽天(現・楽天グループ)です。2001年12月にサイバーエージェント株式の8.6%を取得する資本提携を発表し、藤田氏と協力して同社の安定株主となりました。これにより、サイバーエージェントは買収の危機を脱することに成功します。
その後、ブロードバンドの普及などで爆発的に増加したインターネットユーザーは、サイバーエージェントにも追い風となりました。先行投資で赤字が続いていましたが、2004年度に通期で初めて黒字化を達成しています。
快進撃は現在まで続いており、売上高は2022年度に7000億円台に到達しました。買収の危機から救った楽天グループの判断が、サイバーエージェントの今日の成功に結び付いているといえるでしょう。
【サイバーエージェントの業績推移(2004~2022年度)】
出所:サイバーエージェント 統合報告書より著者作成
楽天グループは2023年5月、モバイル事業の苦戦を乗り切るため増資を実施し、サイバーエージェントはこれに約100億円を出資する形で応じています。買収の危機から脱したエピソードは、両者の特別な絆となっているのかもしれません。
有望スタートアップへ投資する「藤田ファンド」とはサイバーエージェントは2019年1月、およそ4年間凍結させていた「藤田ファンド」の再開を発表し、話題を集めています。
藤田ファンドとは、子会社のサイバーエージェント・キャピタル(旧・サイバーエージェント・ベンチャーズ)を通じ、創業者の藤田氏の投資判断に基づいてスタートアップに出資する事業です。凍結前はウォンテッドリーやクラウドワークスといった有望ベンチャーへ投資していました。
しかし2014年秋、スタートアップはバブルにあると判断し、藤田ファンドは新たな投資を見合わせます。現在は再び投資を積極化させており、ワークシェア事業を手掛けるタイミーや、サロンモデルと美容室のマッチングサービスなどを展開するCoupe(クープ)、士業・管理部門に特化した転職サービスのヒュープロなど、インターネット業界を中心に相次いで資金を投じてきました。
サイバーエージェント・キャピタルはサイバーエージェントの「投資育成事業」に属しており、同事業は小規模ながら黒字が続いています。同じ業界で成功した藤田氏が選ぶ投資先だけに、今後の成長にも期待できそうです。
【投資育成事業の業績】
出所:サイバーエージェント 決算短信
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
Finasee編集部
金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。
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