選択制の企業型DC、利用のススメ。運用効果と税優遇を確認してみよう
Finasee / 2023年7月31日 11時0分
Finasee(フィナシー)
勤務先の企業で導入しているなら、利用の検討を
企業型確定拠出年金(DC)には、企業の退職金の一部(もしくは全て)として運営されている制度と、加入・非加入を従業員本人が決められる選択制があります。
後者の選択制は、前者が退職金であるのと異なり、福利厚生の位置づけとして実施されている場合が多いようです。
近年、増加傾向にある選択制DCについて、メリット・デメリットを考えてみましょう。
選択制DCの多くは、DC掛金にするのか給与と一緒に受け取るのかを選択する仕組みです(賞与や退職時に受け取るケースもあり)。
統計データがないので明確なことはわかりませんが、選択制DCの利用率は、従業員の7割が活用しているといった企業もあるものの、平均的には3~4割程度かと思います。
選択制DC導入企業でアンケートをすると、「利用しない理由」は「60歳まで引き出せないから」「いま、使えるお金を減らしたくないから」という回答が大勢を占めます。「60歳まで引き出せないから」という回答は“60歳まで”が遠い若年層のみならず、年代にかかわらず高い傾向があります。
「いま、使えるお金を減らしたくないから」という回答は、どちらかというと30~40代に多くなっています。お子さんの教育費や住宅ローンなどで、お金の使い道が決まっている層だと思われます。
導入企業に限定せず広くアンケートした結果では、企業型DCを利用しない理由として「あてはあまるものはない」が41%を占めたものの、「制度のことがよくわからないから」が25%と続きました※。
※「確定拠出年金に関する意識調査2023」野村アセットマネジメント 資産運用研究所
「制度のことがよくわからない」理由は、一昔前とは異なり、情報過多のためとも考えられます。最近では各種SNSで運用のトピックを目にするようになりました。手軽に情報を集められる一方で、断片的な内容になりがちで、比較検討するのが難しいのかもしれません。
見過ごしていないかチェック! 選択制DCのメリット選択制DCとiDeCoを比較してみましょう。税優遇効果は基本的に選択制DCもiDeCoも同じですが※、選択制DCのメリットと思われるのは、主に下記4点です。
1. 開始時の手続きが簡単
iDeCoは金融機関を選択して各種書類を提出する手続きが必要ですが、選択制DCは企業が設定しているため、人事部や担当部署に手続きするだけですみ、手軽です。
2. 手数料
選択制DCでは、運営管理手数料等の費用が(多くの場合)企業負担です。個人負担のiDeCoと大きく異なる点です。
3. 掛金をより多く拠出できる
iDeCoの拠出上限額は2.3万円です(会社員で他の企業年金制度がない場合の上限額)。選択制DCの拠出上限額は2.75万円(他の企業年金制度がある企業の場合)もしくは5.5万円(他の企業年金制度がない場合)と、iDeCoより多くの掛金拠出が可能です(選択制DCのみで制度設計されている場合)。
4.社会保険料を引き下げられる場合もある(ただし、社会保険料が下がると、社会保険・雇用保険等の給付額に影響します)
選択制DCのデメリットには、iDeCoのような金融機関の選択の自由がないこと、運用商品もあらかじめ定められた範囲から選ぶ必要があること、があります。またiDeCoであれば途中で掛金拠出をストップできますが、選択制DCの掛金は休職などの場合を除きゼロ円にはできません。なお、制度設計によっては選択制DCを選択すると残業代等に影響する場合もあるので、担当部署等に確認が必要です。
※選択制DCは「所得」として扱われない設計が多いが、iDeCoはいったん給与課税された資産から拠出するため、税の還付が発生(本人払込の場合)。
積立投資のシミュレーションをやってみよう選択制DCやiDeCoの活用をちゅうちょしている方は、将来シミュレーションをしてみましょう。将来シミュレーションは、WEB検索で「積立投資 シミュレーション」等を入力すると、簡単に見つけられます。
シミュレーションに際して、運用利回りの入力を求められますが、ここも迷うポイントです。参考数値を二つご紹介します。
1.9% 企業型DCの想定利回りの平均値
→退職金として企業型DCを導入する際、企業が設定するもの※
3.9% 2023年5月末の運用利回り中央値
3.9%は野村證券受託のDC加入者全体の運用利回り(拠出来)の中央値です。対象者は約65万人なので、33万人が3.9%以上の運用利回りになっています。
※「2021(令和3)年度決算 確定拠出年金実態調査結果」企業年金連合会
運用利回り3.9%を実感いただくために、具体例を設定して考えてみましょう(簡易的に4.0%で計算)
Aさん
1993年生まれ(30歳)
毎月1万円ずつ、30年間、積立運用をした場合
投資元本 360万円
2.0%で運用できた場合 497万円
4.0%で運用できた場合 700万円
2.0%の運用であっても、140万円近い運用益ですが、4.0%で運用できた場合は倍近い金額になります。
4.0%の運用利回りはどうやって達成されるのでしょうか。毎日、運用結果を注視し、きめ細かに売買する、そんな加入者はほんの一握りです。多くの加入者は、最初に資産配分を決定して積立投資を続けているだけで、「ほったらかし」の状態です。資産配分についても、株式100%等のハイリスクではなく分散投資型が多いようです。
たとえばAさんの場合、株式比率を4割程度、残りの6割を国内債券、外国債券(新興国債券)、不動産投資信託、に割り振ると60歳時点の期待収益率が4.0%程度になります(野村證券DCの加入者専用WEBサイトのシミュレーション)。
利回りが高いということは、リスクも大きいため、運用環境が悪化すれば影響も大きくなり、一概に利回りが高ければいいとはいえません。ただ、Aさんが定期預金のみにしていた場合(0.01%で仮定)は、30年間積み立てたとしても361万円です。700万円と比較すると大きな差が開いてしまいます。
DC制度に出会った時にほんの少しだけ運用について考えるか考えないか、が将来的に大きな差に結びつきます。
投資信託を選ばなくても税の優遇効果が大きいDC制度で投資信託を選ばない方のなかには、「所得税・住民税の優遇効果だけで十分」という場合もあります。運用のリスクを考えて活用していない人は、税優遇に着目してみましょう。所得税・住民税は、一定以上の収入があれば必ず課税されるので、税優遇効果だけでも大きなメリットといえます。
前述のアンケート調査では、「老後の生活資金に関して不安がある」回答は79%となっています。
不安を解消するための有力な方策として、選択制DCやiDeCoがあります。シミュレーションは将来を保証するものではありませんが、選択制DCやiDeCoを活用するイメージを持つことが、一歩を踏み出すきっかけになるのではないでしょうか。
津田 弘美/野村證券株式会社 確定拠出年金部
社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。厚生年金基金の隆盛期から企業年金2法の成立等を取材。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。確定拠出年金の運営管理業務に10年以上にわたり従事し、投資教育の企画立案、事業主サポート等を担当。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。
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